未舗装区間を含むフィネストレ峠を登るジロ・デ・イタリア第20ステージでクリス・ハーパー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)が逃げ切り勝利。総合3位のサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク)が渾身のアタック決め、大逆転での総合優勝を実質的に手中に収めた。



総合逆転を狙うカラパス photo:RCS Sport
バルト・レメンとSイェーツ photo:RCS Sport


メキシコならではである、ピンク色のマスクを手に登場したイサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG) photo:RCS Sport

ジロ・デ・イタリア2025第20ステージ コースプロフィール image:RCS Sport
マリアローザを巡る最終決戦は、スイスの国境にほど近いイタリア・ヴェールから始まる。スタート後100kmはほぼフラットで、中盤の2級山岳(距離13.7km/平均4.3%)もアタックを誘発するほどではない。戦いが本格的に繰り広げられるのはラスト45kmだ。

選手たちが駆け上がるのは今大会の「チーマ・コッピ(最高標高地点)」であるフィネストレ峠。標高2,178mのこの山岳は登坂距離18.5km、平均勾配9.2%と険しく、しかもラスト8kmは未舗装路だ。

しかしこの頂点でレースは終わらず、急斜面の下りを経て、徐々に勾配が上がっていく3級山岳セストリエーレ(距離16.2km/平均3.8%)がフィニッシュ地点。翌日が首都ローマで行われるパレード走行のため、この頂上で総合首位に立つ選手が実質的な総合優勝者となる。

ヴェールが出発地点となったジロ第20ステージ photo:CorVos

この日も逃げに乗ったワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

気温24度と晴天に恵まれたレースは午前10時50分と比較的早い時間にスタートした。逃げを目指す動きは前日よりは穏やかで、グルパマFDJが4名を送り込み、ヴィスマ・リースアバイクからはワウト・ファンアールト(ベルギー)も加わった32名の逃げ集団が形成された。そこには既にマリアチクラミーノ(ポイント賞ジャージ)獲得を確定させているマッズ・ピーダスン(デンマーク)も、第15ステージ勝者カルロス・ベローナ(スペイン)と共にこの逃げに乗った。

一方のメイン集団は、マリアローザを着用するイサーク・デルトロ(メキシコ)擁するUAEチームエミレーツXRGがコントロール。しかし、暫くするとEFエデュケーション・イージーポストに牽引が変わる。EFの狙いはもちろん、43秒遅れで総合2位リチャル・カラパス(エクアドル)のマリアローザ奪還であり、また1分21秒遅れで総合3位につけるサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク)も集団前方に位置を取った。

逃げグループが最初の4級山岳の頂上(残り135.8km地点)を越える頃には、プロトンとの差は8分25秒まで拡大した。そのまま突入した2級山岳(距離13.7km/平均4.3%)ではジャコポ・モスカ(イタリア、リドル・トレック)がペースを作り、その下りではプロトンを牽引していたEFがコーナーでコースアウトしかける場面も見られたが、幸い落車はなく、再び集団に先頭に立って牽引を再開させた。

UAEやEFが先導するメイン集団 photo:RCS Sport

そして逃げ集団は、10分のアドバンテージでいよいよフィネストレ峠(距離18.5km/平均9.2%)に足を踏み入れる。2018年大会でクリストファー・フルーム(イギリス)が80kmの独走劇を見せたこの峠で、逃げは僅か2kmで11名に絞られる。レミ・ロシャ(フランス、グルパマFDJ)の加速にクリス・ハーパー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)が反応。遅れたロシャと入れ替わるようにアレッサンドロ・ヴェッレ(イタリア、アルケア・B&Bホテルズ)がハーパーに合流し、この2名がローテーションを回しながら頂上を目指した。

9分遅れでフィネストレ峠にやってきたプロトンは、相変わらずEFがペースを作る。EFのアシストが一人、また一人と遅れていき、まだ登りが始まったばかりの時点でカラパスがアタック。それにデルトロが反応する一方、サイモン・イェーツや総合4位のデレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック)は静観した。

しかし暫くするとイェーツが追走集団を飛び出し、30秒先にいるカラパスとデルトロに合流する。そのまま1.5kmを共に登ったイェーツは、頂上まで残り13km地点の舗装路でアタック。カラパスにマークされたものの、イェーツは諦めることなく2度、3度とアタックし、4度目の加速で遂にカラパスとデルトロを引き離した。

フィネストレ峠でアタックしたサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

イェーツを見送ったマリアローザとカラパスにはジーが一度追いつくも、決してスローペースではないためジーは再び遅れてしまう。それを上回るスピードで登るイェーツは、追走する2名との差を徐々に拡げていき、さらにカラパスの決定打とはならないアタックも、淡々と踏み続けるイェーツにとって有利に働いた。

未舗装路に入ったレース先頭ではハーパーがヴェッレを引き離し、頂上手前4.3km地点に設定されたレッドブルKMを通過。そして霧が立ち込み、大観衆が待つチーマ・コッピ(最高標高地点)を先頭で通過した時点でハーパーは、ヴェッレに対し1分32秒、イェーツに5分3秒、そしてマリアローザとカラパスに対し6分40秒のリードを得た。

未舗装路区間に入っても、ハイペースで踏み続けるサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

何度もアタックを仕掛けるカラパスに食らいつくイサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG) photo:RCS Sport

頂上を越える頃にイェーツはデルトロらに対し1分37秒のリードを奪い、バーチャルで総合首位に立つ。そして下りで逃げていたファンアールトに合流すると、ここからファンアールトによる力強い牽引でリードをさらに拡大していく。戦略が見事にハマったヴィスマに対し、デルトロとカラパスはお互い牽制に入ったため、イェーツとの差は縮まるどころか一層拡大していった。

2018年にオセアニア王者に輝き、チーム・ブリッジレーンに所属していた2019年にはツアー・オブ・ジャパンで総合優勝を果たしたハーパー。3級山岳セストリエーレ(距離16.2km/平均3.8%)に入ってもその軽快なリズムを崩すことなく、フィニッシュ地点に到着。2023年より加入した母国チームに、自身初となるジロのステージ優勝をもたらした。

32.5kmの独走を決め、ステージ優勝したクリス・ハーパー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー) photo:CorVos

区間3位で、逆転の総合優勝を決めたサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:CorVos

一方のマリアローザ争いは、献身的なアシストで力尽きたファンアールトからイェーツが飛び出し、さらにタイムを稼ぎに行く。この時点でマリアローザを着るデルトロとカラパスとの差は4分51秒。完全に脚の止まった2名にはジーはもちろん、ラファウ・マイカ(ポーランド、UAEチームエミレーツXRG)などフィネストレ峠で遅れた選手たちが続々と合流し、そしてデルトロは総合優勝の夢が絶たれたことを悟った。

そしてイェーツが昨年までのチームメイトであるハーパーから1分57秒遅れの区間3位でフィニッシュ。デルトロが7分10秒遅れ、カラパスが7分14秒遅れでフィニッシュしたため、3分56秒の大差をつけたイェーツの実質的な総合優勝が決定。2018年の第19ステージにマリアローザを着て臨みながらも、バッドデイとフルームの独走によって敗れたイェーツが、7年越しにその雪辱を果たした。

大人数の逃げに乗り、32.5kmの独走から金星を挙げたハーパー。「もちろん予想していなかった結果だ。今日は総合争いが激化し、逃げ切り勝利は無理だと思っていた。そんな中逃げに乗り、スマートに走ることを心がけた。100%の力で仕掛け、最後までリードがもつことを願った。そして残り1.5km地点で勝利を確信し、少しの開放感と共にフィニッシュしたんだ」と、オーストラリア・メルボルン出身の30歳はキャリア最高の勝利をそう喜んだ。

見事な逃げ切り勝利を決めたクリス・ハーパー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー) photo:CorVos

クライスヴァイクの祝福受けるサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:RCS Sport
フィニッシュ後、涙を流しながらも笑顔を見せたイサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos


7年越しにマリアローザを獲得したサイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) photo:RCS Sport

そしてフィネストレ峠の歴史を塗り替える、大逆転劇からマリアローザを手に入れたイェーツ。「今日は最高の気分だった。このジロではまだ自分の実力を十分に見せられていなかったが、今日全てが噛み合った。昨冬にコースが発表されてからずっと、このステージを狙っていた。ここにはやり残したことがあったからね。結果がどうなるか関係なく、ここで自分の価値を示したかった。ここまで来るのに沢山の挫折があり、ここ数年の努力が大きく報われた。そしてこの3週間、苦しい時もそばにいてくれたチームメイトに感謝したい。これは彼らに捧ぐ勝利だ」と語ったイェーツは、表彰式で纏ったマリアローザに口づけをした。

デルトロやカラパスなどのコメントは、別記事にてお伝えします。
ジロ・デ・イタリア2025第20ステージ結果
1位 クリス・ハーパー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー) 5:27:29
2位 アレッサンドロ・ヴェッレ(イタリア、アルケア・B&Bホテルズ) +1:49
3位 サイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) +1:57
4位 ジャンマルコ・ガロフォリ(イタリア、スーダル・クイックステップ) +3:52
5位 レミ・ロシャ(フランス、グルパマFDJ) +3:57
6位 マルティン・マルチェルージ(イタリア、VFグループ・バルディアーニCSF・ファイザネ) +4:31
7位 カルロス・ベローナ(スペイン、リドル・トレック)
8位 マックス・プール(イギリス、ピクニック・ポストNL) +6:45
9位 イサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG) +7:10
10位 ジュリオ・ペリツァーリ(イタリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)
11位 デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック)
12位 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)
13位 リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) +7:14
マリアローザ 個人総合成績
1位 サイモン・イェーツ(イギリス、ヴィスマ・リースアバイク) 79:18:42
2位 イサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG) +3:56
3位 リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) +4:43
4位 デレク・ジー(カナダ、イスラエル・プレミアテック) +6:23
5位 ダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス) +7:32
6位 ジュリオ・ペリツァーリ(イタリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +9:28
7位 エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) +12:42
8位 エイネル・ルビオ(コロンビア、モビスター) +13:05
9位 ブランドン・マクナルティ(アメリカ、UAEチームエミレーツXRG) +13:36
10位 マイケル・ストーラー(オーストラリア、チューダー・プロサイクリング) +14:27
マリアチクラミーノ(ポイント賞)
1位 マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) 277pts
2位 オラフ・コーイ(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク) 135pts
3位 ワウト・ファンアールト(ベルギー、ヴィスマ・リースアバイク) 127pts
マリアアッズーラ(山岳賞)
1位 ロレンツォ・フォルトゥナート(イタリア、XDSアスタナ) 355pts
2位 クリスティアン・スカローニ(イタリア、XDSアスタナ) 201pts
3位 ニコラ・プロドム(フランス、デカトロンAG2Rラモンディアール) 107pts
マリアビアンカ(ヤングライダー賞)
1位 イサーク・デルトロ(メキシコ、UAEチームエミレーツXRG) 79:22:38
2位 ジュリオ・ペリツァーリ(イタリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) +5:32
3位 マックス・プール(イギリス、ピクニック・ポストNL) +14:19
チーム総合成績
1位 UAEチームエミレーツXRG 238:16:27
2位 XDSアスタナ +58:40
3位 バーレーン・ヴィクトリアス +1:15:37
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, RCS Sport