ベルギー建国記念日の個人TTで、レムコ・エヴェネプールが世界王者の力を示した。一方、マイヨジョーヌのポガチャルはレース後の記者会見で頬杖をつき、質問の意図を捉えきれていなかった。今までとは様子が違うポガチャルに疲れが表れたのだろうか。

登坂区間でエヴェネプールから遅れをとったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.
レース後の記者会見で気になったのは、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)の疲れた表情だった。常に頬杖をつき、目線はどこか定まらない。心なしか、目の下の隈も普段より目立って見える。
さらに、記者による「今日のキーポイントはどこだったか」という極めてシンプルな質問を聞き取れず、記者に聞き返す場面もあった。ここまで連日のように質問しているスペイン人記者で、筆者にはそれほど聞き取りづらい英語にも感じられなかったのだが。
最初は勝てなかった悔しさもあったのだろうと思った。本人も「今日は勝ちたかったし、そのための脚もあった」と語っており、レムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)に対し28秒差をつけられた。決して僅差ではなく、スタート直後の登りの頂上で既に約7秒差がついていた。しかし、次第に負けて機嫌が悪かっただけとは思えなかった。
なぜならば、ポガチャルはここまで、答えることが難しい質問に対しても本当に丁寧に答えてきたからだ。ツールで連日取材するなかで、あらためてそれを実感している。
ある日の会見では、マイヨジョーヌの着用日数でミゲル・インデュラインの60日間を上回ったことについて質問された。ポガチャルはインデュラインの現役時代をリアルタイムで知っている世代ではないため、「わからない」と一言で済んだかもしれない質問だ。それでもポガチャルは、「映像を見て、その歴史は知っている。素晴らしい存在だと思う」と丁寧に言葉を重ね、偉大な先人へのリスペクトを込めて答えていた。
そんなポガチャルが、この日は質問の意図を何度も捉えきれていなかった。
会見の最後には、「ヨナス・ヴィンゲゴーとフロリアン・リポヴィッツが相次いで大会を去った。次に彼らと戦う時、それはモチベーションに繋がるか」という質問が飛んだ。しかしポガチャルは、質問を勘違いしたのだろうか。「正直、本気でステージ優勝を狙っていた。モチベーションも高く、調子も良かった」と、この日のタイムトライアルについて答えた。
いつものポガチャルではない。そう強く思った記者会見だった。

区間2位でマイヨジョーヌを守ったタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:Sotaro.Arakawa

トップタイムを次々と更新していくレムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) photo:A.S.O.
一方、エヴェネプールのインタビューは長くなるのが通例だ。通常、レース直後インタビューは2分程度で終わる。しかしレムコは3分を超えることも珍しくなく、さらに早口で大量の言葉を詰め込む。
またポガチャルが時に笑顔で回答をかわすのとは対照的に、エヴェネプールは自分の感情を優先する。言葉を選ぶよりも、言葉を重ねて自分の考えの正確性を上げていきながら、そこには必ず感情を表す温度がある。それを象徴するような質問が、この日の会見であった。
「ポガチャルが総合で独走しているため、今年のツールは退屈だという声もある。あなたの活躍がレースに刺激を与えていると思うか」
別途のコメント記事では省略したものの、この質問に対して、エヴェネプールはたっぷりと時間をかけて答えた。ポガチャルがどれほど偉大な選手であるか。そして、そんなポガチャルから自分がどれだけ学び、同じレースで戦えていることをどれほど誇りに感じているか。最初は少しムッとした表情を見せながらも、「退屈」という評価を早口と文字数で否定した。
「タデイは5度目のツール総合優勝に向かっている。彼の近くで走れることは名誉だ。史上最高の選手かもしれない彼と戦い、学べることは、自分にとって大きな一歩なんだ」
言葉に必ず感情が乗る。それがエヴェネプールの特徴であり、良いところ。いつも以上にゆっくりと話すポガチャルに対し、エヴェネプールはこの日、いつも以上に早口で饒舌だった。

レマン湖と対岸のスイスを望むエヴィアン・レ・バンの湖畔 photo:Sotaro.Arakawa
果たしてポガチャルは疲れているのだろうか。
確かにレースの2日前、午前5時にドーピング検査で起こされ、睡眠時間はわずか4時間となった。そのまま厳しい第15ステージを走り、翌日の休息日を挟み、32分47秒間の個人タイムトライアルに臨んだ。そしてこの日の26.1km個人タイムトライアルは、特殊なコースだった。
スタート地点となったエヴィアン・レ・バンは、フニクレールと呼ばれるケーブルカーが走るほど高低差のある街。スタート直後から2級山岳コート・ド・ラランジュ(距離9.7km/平均4.3%)へと入り、ステージ優勝を狙っていない選手が、思わずダンシングに切り替えるほどの勾配区間もあった。頂上からしばらく平坦路を進むと、今度は登りよりも急な勾配を含む下りが始まる。そしてラスト約9kmは平坦基調。ただし、単純な直線路ではなく、テクニカルなコーナーが次々と現れる。

スタート地点であるエヴィアン・レ・バンを走り出すジョン・デゲンコルプ(ドイツ、ピクニック・ポストNL) photo:Sotaro.Arakawa
そして、フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がそのテクニカルなコースの犠牲となった。筆者がレースを見守っていたのは、残り5km地点の手前にあるヘアピンコーナー。まず、コーナーへの入り方からして本調子ではなさそうなフアン・アユソ(スペイン、リドル・トレック)が、やや外側へ膨らみながら通過。その後、しばらく間が空き、ポール・セクサス(フランス、デカトロンCMA CGM)がやってきた。
リポヴィッツは、セクサスより2分早くスタートしているので、本来なら、セクサスより先に筆者の前を通過していなければならなかったが、来なかった。
総合上位勢が次々とコーナーを抜け、最後にポガチャルが通過。そして、その後を追うように救急車が勢いよく駆け抜けていった。その車両にリポヴィッツが乗っていたのかは、現場では分からなかった。ただ、その後、フィニッシュまで約6kmの右コーナーで激しく落車し、救急車で搬送されたことを知った。
話が逸れてしまった。今回のテーマは「果たしてポガチャルは疲れているのだろうか」だ。たった一度の記者会見だけでそれと断定することはできない。しかし第9ステージの現地レポートで書いた「猛暑の請求書は後から届く」が、マイヨジョーヌを纏うポガチャルにも、届き始めたのかもしれない。ツールは残り、あと5日。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Annecy, France
photo:CorVos

レース後の記者会見で気になったのは、タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)の疲れた表情だった。常に頬杖をつき、目線はどこか定まらない。心なしか、目の下の隈も普段より目立って見える。
さらに、記者による「今日のキーポイントはどこだったか」という極めてシンプルな質問を聞き取れず、記者に聞き返す場面もあった。ここまで連日のように質問しているスペイン人記者で、筆者にはそれほど聞き取りづらい英語にも感じられなかったのだが。
最初は勝てなかった悔しさもあったのだろうと思った。本人も「今日は勝ちたかったし、そのための脚もあった」と語っており、レムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)に対し28秒差をつけられた。決して僅差ではなく、スタート直後の登りの頂上で既に約7秒差がついていた。しかし、次第に負けて機嫌が悪かっただけとは思えなかった。
なぜならば、ポガチャルはここまで、答えることが難しい質問に対しても本当に丁寧に答えてきたからだ。ツールで連日取材するなかで、あらためてそれを実感している。
ある日の会見では、マイヨジョーヌの着用日数でミゲル・インデュラインの60日間を上回ったことについて質問された。ポガチャルはインデュラインの現役時代をリアルタイムで知っている世代ではないため、「わからない」と一言で済んだかもしれない質問だ。それでもポガチャルは、「映像を見て、その歴史は知っている。素晴らしい存在だと思う」と丁寧に言葉を重ね、偉大な先人へのリスペクトを込めて答えていた。
そんなポガチャルが、この日は質問の意図を何度も捉えきれていなかった。
会見の最後には、「ヨナス・ヴィンゲゴーとフロリアン・リポヴィッツが相次いで大会を去った。次に彼らと戦う時、それはモチベーションに繋がるか」という質問が飛んだ。しかしポガチャルは、質問を勘違いしたのだろうか。「正直、本気でステージ優勝を狙っていた。モチベーションも高く、調子も良かった」と、この日のタイムトライアルについて答えた。
いつものポガチャルではない。そう強く思った記者会見だった。


一方、エヴェネプールのインタビューは長くなるのが通例だ。通常、レース直後インタビューは2分程度で終わる。しかしレムコは3分を超えることも珍しくなく、さらに早口で大量の言葉を詰め込む。
またポガチャルが時に笑顔で回答をかわすのとは対照的に、エヴェネプールは自分の感情を優先する。言葉を選ぶよりも、言葉を重ねて自分の考えの正確性を上げていきながら、そこには必ず感情を表す温度がある。それを象徴するような質問が、この日の会見であった。
「ポガチャルが総合で独走しているため、今年のツールは退屈だという声もある。あなたの活躍がレースに刺激を与えていると思うか」
別途のコメント記事では省略したものの、この質問に対して、エヴェネプールはたっぷりと時間をかけて答えた。ポガチャルがどれほど偉大な選手であるか。そして、そんなポガチャルから自分がどれだけ学び、同じレースで戦えていることをどれほど誇りに感じているか。最初は少しムッとした表情を見せながらも、「退屈」という評価を早口と文字数で否定した。
「タデイは5度目のツール総合優勝に向かっている。彼の近くで走れることは名誉だ。史上最高の選手かもしれない彼と戦い、学べることは、自分にとって大きな一歩なんだ」
言葉に必ず感情が乗る。それがエヴェネプールの特徴であり、良いところ。いつも以上にゆっくりと話すポガチャルに対し、エヴェネプールはこの日、いつも以上に早口で饒舌だった。

果たしてポガチャルは疲れているのだろうか。
確かにレースの2日前、午前5時にドーピング検査で起こされ、睡眠時間はわずか4時間となった。そのまま厳しい第15ステージを走り、翌日の休息日を挟み、32分47秒間の個人タイムトライアルに臨んだ。そしてこの日の26.1km個人タイムトライアルは、特殊なコースだった。
スタート地点となったエヴィアン・レ・バンは、フニクレールと呼ばれるケーブルカーが走るほど高低差のある街。スタート直後から2級山岳コート・ド・ラランジュ(距離9.7km/平均4.3%)へと入り、ステージ優勝を狙っていない選手が、思わずダンシングに切り替えるほどの勾配区間もあった。頂上からしばらく平坦路を進むと、今度は登りよりも急な勾配を含む下りが始まる。そしてラスト約9kmは平坦基調。ただし、単純な直線路ではなく、テクニカルなコーナーが次々と現れる。

そして、フロリアン・リポヴィッツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がそのテクニカルなコースの犠牲となった。筆者がレースを見守っていたのは、残り5km地点の手前にあるヘアピンコーナー。まず、コーナーへの入り方からして本調子ではなさそうなフアン・アユソ(スペイン、リドル・トレック)が、やや外側へ膨らみながら通過。その後、しばらく間が空き、ポール・セクサス(フランス、デカトロンCMA CGM)がやってきた。
リポヴィッツは、セクサスより2分早くスタートしているので、本来なら、セクサスより先に筆者の前を通過していなければならなかったが、来なかった。
総合上位勢が次々とコーナーを抜け、最後にポガチャルが通過。そして、その後を追うように救急車が勢いよく駆け抜けていった。その車両にリポヴィッツが乗っていたのかは、現場では分からなかった。ただ、その後、フィニッシュまで約6kmの右コーナーで激しく落車し、救急車で搬送されたことを知った。
話が逸れてしまった。今回のテーマは「果たしてポガチャルは疲れているのだろうか」だ。たった一度の記者会見だけでそれと断定することはできない。しかし第9ステージの現地レポートで書いた「猛暑の請求書は後から届く」が、マイヨジョーヌを纏うポガチャルにも、届き始めたのかもしれない。ツールは残り、あと5日。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Annecy, France
photo:CorVos
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