ここまで何度も勝利を逃してきたリチャル・カラパスが、オルシエール・メルレットで執念を実らせた。一方、マイヨジョーヌを守るUAEチームエミレーツXRGではマクナルティがリタイアし、イェーツとウェレンスが体調不良に苦しむ事態に。アルプス3連戦の初日、盤石に見えたポガチャルに小さな綻びが見えた。

荘厳な教会が建つアルプス山麓の街、ヴォワロンからスタート photo:A.S.O.
この日のスタート地点は、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・プレミアテック)が劇的なスプリント勝利を飾った前日のフィニッシュ地点、ヴォワロン。この街にはかつて、ポール・セクサス(フランス)が所属したAG2RシトロエンU19チームの拠点のあった街。フランスのレキップ紙には、当時のセクサスにAG2RとグルパマFDJの双方から誘いがあり、より整った育成環境を提示したAG2Rを選んだ経緯が記されていた。ジュニア選手だったセクサスのために、個人タイムトライアル用のバイクまで準備したのだという。
そんなセクサスにゆかりのある街を走り出し、選手たちが目指したのはオルシエール・メルレット。アルプス3連戦、そして3日連続山頂フィニッシュの初日となった。最終山岳の1級山岳オルシエール・メルレットは距離7.1km、平均勾配6.7%。これから待つアルプ・デュエズの2日間と比較すれば、難易度はそこまで高くないため総合勢が大きく動かず、逃げ切り決着が予想され、結果的にその通りになった。
視界をぐるりと囲むアルプスの絶景を除けば、オルシエール・メルレットには日本のスキーリゾートに近い雰囲気がある。ホテルや商業施設には新しい建物が多く、これまでフランス各地で目にしてきた古いレンガや石造りの街並みは、ほとんど見当たらない。夏の山岳リゾートというより、雪の季節を待つために造られた街という印象だ。

1971年大会でステージ優勝したルイス・オカーニャ(スペイン)の写真がかかる、オルシエール・メルレットのフィニッシュ地点 photo:Sotaro.Arakawa
そしてプレスセンターは今大会2度目となるスケートリンク。そこで我々を出迎えてくれたのは、両腕を広げるルイス・オカーニャ(スペイン)の巨大な姿だった。1971年大会でオカーニャは、約60kmを独走し、このオルシエール・メルレットで勝利。この時、ツール総合2連覇中のエディ・メルクスに8分42秒差をつけ、マイヨジョーヌを獲得。ただし、その後のステージのピレネーの山岳を下る最中、嵐のなかで落車。立ち上がろうとしたところに後続選手が衝突し、オカーニャは大会を去った。

2年越しのステージ優勝を掴んだリチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:A.S.O.
そしてこの日、残り少ない逃げ切りの機会に賭け、勝利を掴み取ったのがリチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)だった。カラパスはスペインからフランスへ入った第3ステージで区間3位。第10ステージでは果敢に仕掛け、一時は単独先頭に立ったものの、ポガチャルに捕まる。第14ステージでも逃げに入り、山岳ポイントを争いながら勝利を狙った。
そんなカラパスが第18ステージも積極的に攻撃にでた。最終山岳で残った先頭の6名から、カラパスは1度目のアタックを封じられると残り約4kmで再び加速。「出し惜しみせず攻めるのが僕のスタイルだ」とレース後に語った通り、積極的な攻めでマウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー)とマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)を振り切り、2024年のシュペルデヴォリュ以来となる、自身2度目のツール区間優勝を飾った。

ブルームワゴンの前を走りながら、最下位でフィニッシュしたブランドン・マクナルティ(アメリカ、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
一方この日、心配されたのはマイヨジョーヌのポガチャルを擁するUAEチームエミレーツXRGだった。
異変が最初に表れたのは、アダム・イェーツ(イギリス)がプロトンから早々に遅れ、ティム・ウェレンス(ベルギー)が付き添った前日の第17ステージ。イェーツの胃腸トラブルは、第16ステージの個人タイムトライアルを終えた直後に始まったことが明らかになり、嘔吐し、その日の夕食だけではなく、翌朝の朝食も食べられなかったのだという。
ただポガチャルは前日のフィニッシュ後、「すでに回復に向かっている」と語った通り、この日もイェーツはプロトンから遅れたものの、区間102位。最下位よりも14分以上早く、前日のようにタイムアウトを心配する状況ではなかった。回復途上にあるというポガチャルの言葉には、一定の信憑性がある。
イェーツが回復へ向かう一方、UAEは別の山岳アシストを失うこととなった。ブランドン・マクナルティ(アメリカ)が、最後から2つ目のカテゴリー山岳付近、フィニッシュまで残り20kmでバイクを降りたのだ。第16ステージのコース試走中に発生した自動車との衝突による影響やイェーツと同じ胃腸系ではなく、喉を痛めているという情報もある。
そして、前日にイェーツを助けたウェレンスも苦しんだ。スタート前にはマクナルティと同じく喉の痛みを訴えており、この日はフィニッシュした162人中最下位。カラパスから43分2秒遅れで、タイムアウトまで残されていたのは2分15秒だけだった。

アルプス3連戦の初日を制した、リチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト) photo:Sotaro.Arakawa
UAEの強力な選手たちが不調に見舞われているが、これだけをもってポガチャルに危機が訪れたとするのは早急だ。なにせ記者会見に現れたこの日のポガチャルは、第16ステージと比べて顔色がよく、快活な印象を受けた。また総合3位のイサーク・デルトロ(メキシコ)もレース後の様子を見る限り元気そうだった。
そして何より、ヨナス・ヴィンゲゴーハンセン(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)が不在のいま、UAEにチーム力で攻め入ることのできるチームは見当たらない。
総合2位のレムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)は、ダブルエースを担っていたフロリアン・リポヴィッツ(ドイツ)が既に落車リタイア。山岳で最後まで残ることが期待されるのは、ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)らに限られる。またデカトロンCMA CGMにはニコラ・プロドムやオレリアン・パレパントルがいるものの、ポガチャルのチームを最後の山岳まで追い込み続けられる見込みは薄い。
UAEの壁は薄くなった。しかしその壁を壊すための戦力が、ライバルたちに十分残っているわけではない。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Grenoble, France
photo:CorVos

この日のスタート地点は、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー、アルペシン・プレミアテック)が劇的なスプリント勝利を飾った前日のフィニッシュ地点、ヴォワロン。この街にはかつて、ポール・セクサス(フランス)が所属したAG2RシトロエンU19チームの拠点のあった街。フランスのレキップ紙には、当時のセクサスにAG2RとグルパマFDJの双方から誘いがあり、より整った育成環境を提示したAG2Rを選んだ経緯が記されていた。ジュニア選手だったセクサスのために、個人タイムトライアル用のバイクまで準備したのだという。
そんなセクサスにゆかりのある街を走り出し、選手たちが目指したのはオルシエール・メルレット。アルプス3連戦、そして3日連続山頂フィニッシュの初日となった。最終山岳の1級山岳オルシエール・メルレットは距離7.1km、平均勾配6.7%。これから待つアルプ・デュエズの2日間と比較すれば、難易度はそこまで高くないため総合勢が大きく動かず、逃げ切り決着が予想され、結果的にその通りになった。
視界をぐるりと囲むアルプスの絶景を除けば、オルシエール・メルレットには日本のスキーリゾートに近い雰囲気がある。ホテルや商業施設には新しい建物が多く、これまでフランス各地で目にしてきた古いレンガや石造りの街並みは、ほとんど見当たらない。夏の山岳リゾートというより、雪の季節を待つために造られた街という印象だ。

そしてプレスセンターは今大会2度目となるスケートリンク。そこで我々を出迎えてくれたのは、両腕を広げるルイス・オカーニャ(スペイン)の巨大な姿だった。1971年大会でオカーニャは、約60kmを独走し、このオルシエール・メルレットで勝利。この時、ツール総合2連覇中のエディ・メルクスに8分42秒差をつけ、マイヨジョーヌを獲得。ただし、その後のステージのピレネーの山岳を下る最中、嵐のなかで落車。立ち上がろうとしたところに後続選手が衝突し、オカーニャは大会を去った。

そしてこの日、残り少ない逃げ切りの機会に賭け、勝利を掴み取ったのがリチャル・カラパス(エクアドル、EFエデュケーション・イージーポスト)だった。カラパスはスペインからフランスへ入った第3ステージで区間3位。第10ステージでは果敢に仕掛け、一時は単独先頭に立ったものの、ポガチャルに捕まる。第14ステージでも逃げに入り、山岳ポイントを争いながら勝利を狙った。
そんなカラパスが第18ステージも積極的に攻撃にでた。最終山岳で残った先頭の6名から、カラパスは1度目のアタックを封じられると残り約4kmで再び加速。「出し惜しみせず攻めるのが僕のスタイルだ」とレース後に語った通り、積極的な攻めでマウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー)とマッテオ・ヨルゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)を振り切り、2024年のシュペルデヴォリュ以来となる、自身2度目のツール区間優勝を飾った。

一方この日、心配されたのはマイヨジョーヌのポガチャルを擁するUAEチームエミレーツXRGだった。
異変が最初に表れたのは、アダム・イェーツ(イギリス)がプロトンから早々に遅れ、ティム・ウェレンス(ベルギー)が付き添った前日の第17ステージ。イェーツの胃腸トラブルは、第16ステージの個人タイムトライアルを終えた直後に始まったことが明らかになり、嘔吐し、その日の夕食だけではなく、翌朝の朝食も食べられなかったのだという。
ただポガチャルは前日のフィニッシュ後、「すでに回復に向かっている」と語った通り、この日もイェーツはプロトンから遅れたものの、区間102位。最下位よりも14分以上早く、前日のようにタイムアウトを心配する状況ではなかった。回復途上にあるというポガチャルの言葉には、一定の信憑性がある。
イェーツが回復へ向かう一方、UAEは別の山岳アシストを失うこととなった。ブランドン・マクナルティ(アメリカ)が、最後から2つ目のカテゴリー山岳付近、フィニッシュまで残り20kmでバイクを降りたのだ。第16ステージのコース試走中に発生した自動車との衝突による影響やイェーツと同じ胃腸系ではなく、喉を痛めているという情報もある。
そして、前日にイェーツを助けたウェレンスも苦しんだ。スタート前にはマクナルティと同じく喉の痛みを訴えており、この日はフィニッシュした162人中最下位。カラパスから43分2秒遅れで、タイムアウトまで残されていたのは2分15秒だけだった。

UAEの強力な選手たちが不調に見舞われているが、これだけをもってポガチャルに危機が訪れたとするのは早急だ。なにせ記者会見に現れたこの日のポガチャルは、第16ステージと比べて顔色がよく、快活な印象を受けた。また総合3位のイサーク・デルトロ(メキシコ)もレース後の様子を見る限り元気そうだった。
そして何より、ヨナス・ヴィンゲゴーハンセン(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)が不在のいま、UAEにチーム力で攻め入ることのできるチームは見当たらない。
総合2位のレムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)は、ダブルエースを担っていたフロリアン・リポヴィッツ(ドイツ)が既に落車リタイア。山岳で最後まで残ることが期待されるのは、ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)らに限られる。またデカトロンCMA CGMにはニコラ・プロドムやオレリアン・パレパントルがいるものの、ポガチャルのチームを最後の山岳まで追い込み続けられる見込みは薄い。
UAEの壁は薄くなった。しかしその壁を壊すための戦力が、ライバルたちに十分残っているわけではない。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Grenoble, France
photo:CorVos
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