ジャイアントグループで総經理を務める鄭秋菊氏が語る、自転車体験の届け方。台湾を自転車大国に変えた「環島」文化、世界で唯一の女性向け総合バイクブランドLiv、そして日本の中村晃代表取締役社長が見据える林道というオフロードのフロンティア。50年かけて積み上げてきたジャイアントの哲学が詰まったインタビューをお届けします。

ジャイアントグループで総經理(ゼネラルマネージャー)を務める鄭秋菊氏。台湾の自転車文化や取り組みについて話を聞くことができた photo:Naoki Yasuoka
ジャイアントストア聖蹟桜ヶ丘を舞台に開催された、GIANT Premium Dealerを対象とする2027年モデルディーラーショー。この会場に来日していた本国スタッフの一人がジャイアントグループで総經理(ゼネラルマネージャー)を務める鄭秋菊氏だった。
「アリスさん」と日本と台湾のスタッフから親しげに呼ばれる鄭氏は、業務アシスタントからスタートし、30年以上をジャイアントで過ごしてきた現場叩き上げの人物で、ジャイアント・トラベルの代表など要職を歴任し、2012年には創業以来初となる女性のゼネラルマネージャーに就任。その中では常に日本との関わりも持ち続けてきた。
自転車で楽しいライフスタイルを。50年変わらないジャイアントの思い

「ジャイアントグループの目標はいつも変わらず、たった一つだけ」と言う photo:Naoki Yasuoka
「ジャイアントグループのこの50年の歴史には、いつも一つだけの目標があります。それはお客様のライド体験をメインに据えること」。鄭氏はそう切り出した。その体験を常に収集し、どうすればより良い楽しみを提供できるかを考え続けることが、会社としての一貫したゴールだという。
その土台にあるのが良い製品を出すこと。そしてそれを毎年更新し続けること。「もっといい製品を提供することが一番のポイント。その次にアフターサービスです。お客様がどんなサービスを求めているのかを常に考えています」。
具体例として鄭氏が挙げたのが、昨年8月にスタートし、今後は待望のオンラインページがスタートするカスタムペイントサービスだ。元々は台湾で先行スタートしていたサービスであり、既に台湾では多くのカスタムバイクが出荷されている。そしてもう一つの柱と位置付けるのがジャイアント独自のフィッティングプログラムDCF(ダイナミック・サイクリング・フィット)だ。「フィッティングはお客様のライディング体験とダイレクトに繋がっていることだから大事なんです。正しいポジションで乗ることで安全性も高まりますし、マンツーマンでサービスを受けてもらうことで、お客様自身の専門知識も増えていく。これはすごく大切なこと」と語気を強める。

まもなくオンラインサービスが始まるカスタマイズプログラム 
ジャイアント独自のフィッティングプログラム「DCF」 photo:So Isobe

月に2回のライドイベントを開催しているジャイアントストア大阪。いつも満員御礼、女性客も非常に多いという photo:So Isobe
そして忘れてはならないのが、ディーラー(プロショップ)を通して、ライドを楽しめる機会をたくさん作ること。「ブランドとして、ショップとして、お客さんを連れてどこかに走りに行く。日本なら、自転車を購入したあとに旅行をしたり仲間を作ったりする。これは非常に良い自転車のライフスタイルですし、こういうカルチャーを日本でもしっかりと作っていきたいと思っています」と言う。
実際に筆者自身、ジャイアントストア大阪を取材で訪れた際には女性店長の小早川千里さんのもと、月2回というハイペースで開催されるイベントの数々には驚かされた。いちご狩りやカフェ巡りのポタリングから、淡路島・しまなみ海道、さらには九州への遠征まで内容は幅広く、夏には店内で「アロマとヨガ」まで開催。「買ったはいいけど乗る機会がない」という初心者の受け皿として機能し、イベントはいつも満員御礼だという。鄭秋菊さんが語る「体験を通じたカルチャー作り」は、すでに良い形となって現れ始めていると言える。
「環島」が変えた、台湾の自転車カルチャー
この「体験」や「文化」という言葉は、決して抽象的なスローガンではなく、ジャイアントにはすでに、台湾という一つの島をまるごと自転車好きに変えてしまった実績がある。

キング・リュウこと、故劉金標氏。2013年の台湾一周サイクリング取材にて photo:Makoto.AYANO
台湾を象徴する自転車文化として今や広く知られているのが、島を一周する「環島(ファンダオ)」だ。日本で言うところのお遍路さんのように一度は挑みたい目標として台湾社会に根付いているが、そのきっかけは2007年にジャイアントの創業者である故キング・リュウ会長が74歳でこの環島に挑戦し、台湾社会の大きな注目を集めたこと。以後、「環島推進」はジャイアントの社是の一つとなり、台湾政府も「環島1号線」というインフラ整備に乗り出すまでになった。
「この自転車体験カルチャーは、台湾では今や非常に成熟したものになりました」と鄭氏。「自転車業界以外、例えば政治に携わる人たちも含めて、色々な案を積極的に考えて、どう推進するかを常に考えている。台湾の自転車活用は、ずっとプラス方向に動き続けているんです」。
そして元会長は、文化や土地が似ている日本にも、この文化を広めたいという強い思いを持っていたという。「日本と台湾の文化は非常に似ているので、お互いがとても親しみやすいというメリットがあります。元会長はしまなみ海道を走ったり、日本の政治家とも関わりを持ったり。その動きはきちんと引き継がれていて、毎年台湾のジャイアント・トラベルからは日本を走るツアーがあっていつも人気ですし、今年は富士ヒルクライムに参加するツアーを組み、女性だけで60名が走りました。そこで感じたのは、日本の自転車文化は凄いし、やっぱり台湾と似ている。もっとできることは多くあるように感じます」。

日本からも毎年台湾一周するサイクリングツアーを開催中だ (c)ジャイアント
一方で、8000人が参加する富士ヒルクライムの熱量に感心しつつも、「地域によっては自転車人口が少ない感じがある。台湾では週末とか祝日とか、どこであってもサイクリストを見ない日はありません」と指摘する。「私の見解ですが、日本は一人一人で走っている人が多く、あまりショップやクラブの集まりで走っている人は少ないんじゃないか、と。だから大きなイベントには参加者が集中するという現象が起こるのかもしれません」。
「でも、それはある意味、日本のサイクリストが『集まれる場』を求めているという裏返し。だからこそ、楽しむイベントやグループがあちこちにあれば、もっと文化として強く根付くはず。だからまず私たちとして、ジャイアントストアでイベントやツアーを作って楽しむところから始めていきたいと思います」。
自転車業界の努力も必須だが、それ以上に大きく踏み出そうとするならば、自治体や政府を巻き込んだインフラ作りが必要不可欠。ここからは、ジャイアント・ジャパンの中村晃代表取締役社長も話に加わってくれた。

ジャイアント・ジャパンの代表取締役社長を務める中村晃氏。自転車環境をどう作るかについて話を聞いた photo:Naoki Yasuoka
「政治に携わるいろんな人と一緒に乗って、自転車の楽しさや可能性を知ってもらうことが一番大事なんです」と中村氏。「例えば愛媛で取り組んできた例を挙げれば、県知事さんや市長さんと一緒に走りました。そして実際にインフラを整える側の土木課の方々とも乗った。やっぱりサイクリングルートを作って、ブルーラインを引いただけじゃダメなんですよ。もっとサイクリスト目線で整備しないといけない」。
その方法論は、いたってシンプルだという。「要職についている方々をサイクリストにしてしまって(笑)、楽しさを分かち合って、一緒に文化を作っていけるように働きかけることが一番大事。実際に愛媛県では台湾の国交相や道路局の方々も視察に来て、お互いのいい部分を学び合っています」。

和やかな雰囲気で進んだインタビュー photo:Naoki Yasuoka
中村氏が台湾の文化で感心するのは、環島の達成が「本当の台湾人になる」というカルチャーにまで仕立て上げられていることだという。「それに倣って、四国の人なら四国一周しないといけない、のようにしたいですよね。そのきっかけとして、しまなみ海道をもっともっと広めていきたい。走って分かることってあると思うし、地元愛に対してもすごくいい。一度その熱はコロナで少し下がっちゃったので、もう一度頑張らないといけないですよね」。
しまなみ海道に続いて、滋賀県の琵琶湖や、茨城県の霞ヶ浦を盛り上げるべく、中村社長は両県の知事と走る機会を設けた。「一緒に走ると皆さん自転車好きになって、すごく積極的になって理解が早いんですよね。だから一番の根っこは、難しいこと抜きにして一緒にサイクリングして、『自転車楽しいよね』というところが一番大事なんです。全てにおいて」。
世界唯一の女性専用ブランド「Liv」の存在意義
取材で何度か台湾に足を運んでいる筆者が毎回感じるのは、レベルの高い低いに関わらず、年齢を問わずそれぞれのペースを楽しむ女性サイクリストの多さだ。日本と比べて、その割合は圧倒的に多い。
しかし鄭氏によれば、それも最初から当たり前だったわけではないという。「台湾も、女性がスポーツを楽しむ文化はほぼ無かったんです。どうしてもインドアになりがちだし、日焼けもしたくない。でも、誰かが一緒に走ってくれるなら、やってみたいという人は多い」。そこでジャイアントが取った戦略が「1+1」、つまり一人が一人を連れ出すという形のキャンペーンだった。最近ではEバイクの普及を追い風に「1+E」という、よりハードルを下げた形も打ち出しているという。

ライドイベントを通して女性サイクリストを増やすことにもっと力を入れていきたい、と言う(国内で行われたライドイベントにて) photo:Takeshi Hagiwara
Livブランドを通じたイベントも重要な柱だ。「特にフィジカル面で、女性は男性と一緒に走ることにプレッシャーを感じることも多いですから、女性どうしで良い景色や美味しい食べ物を巡るツアーもやっています」。
その根底にあるのが、世界唯一の女性専用自転車ブランドであるLivの存在そのものだと鄭氏は強調する。「女性が乗る自転車は、男性用をただ縮めただけではいけません。ジオメトリーは全く違うし、色だって違う。アパレルだって専用デザインが必要ですし、店だって違うべき。だから台北にはLivだけのフラッグシップストアも作りました」。製品、イベント、そしてチャンネル。「あらゆる側面から、私たちは女性に自転車を広めることに対して本気なんです」。
「しまなみ」の次は「やまなみ」、林道というフロンティア
インタビューの最後、中村氏が語ったのは今後の展望だった。今考えていることは、グラベルやMTBといったオフロードを走る場所そのものを切り開いていくことだという。

中村晃氏と鄭秋菊氏。日台の相乗効果による自転車普及に期待したい photo:Naoki Yasuoka
「オフロードバイクは走る場所が必要なのに、どこを走っていいのかわからない。あってもみんな場所を明かさないで走っている、ということも少なくないですよね。そこをもっとオープンに走れる場所やイベントを作っていきたいんです」と言う。具体的に見据えているのは、国有林や県有林にある林道の有効活用だ。「世界ではこれだけグラベルが盛り上がってきているのに、日本はイベントが少ないし、走る場所のアナウンスがない」。
「でも、日本は林道だけですごく長い距離を走れたりするし、例えば九州にはすごくいい道がたくさんあるんですよ。管理者と走る側が互いに納得できる形を整え、まずは封鎖されている道を走れるイベントから始めて、市場そのものを大きく、楽しくしていきたい。モノだけを作る時代は終わっていますから、そういうところに力を入れていきたい。しまなみ海道を有名にするプロジェクトは成功しましたから、次は林道です。『しまなみ良し、やまなみ良し』ってね(笑)」。
自転車を売ることから、体験を届けることへ。台湾で50年かけて実証してきたこの転換を、あくまで「一緒に走る」という、地道な一歩から始めている。
text:So Isobe
photo:Naoki Yasuoka

ジャイアントストア聖蹟桜ヶ丘を舞台に開催された、GIANT Premium Dealerを対象とする2027年モデルディーラーショー。この会場に来日していた本国スタッフの一人がジャイアントグループで総經理(ゼネラルマネージャー)を務める鄭秋菊氏だった。
「アリスさん」と日本と台湾のスタッフから親しげに呼ばれる鄭氏は、業務アシスタントからスタートし、30年以上をジャイアントで過ごしてきた現場叩き上げの人物で、ジャイアント・トラベルの代表など要職を歴任し、2012年には創業以来初となる女性のゼネラルマネージャーに就任。その中では常に日本との関わりも持ち続けてきた。
自転車で楽しいライフスタイルを。50年変わらないジャイアントの思い

「ジャイアントグループのこの50年の歴史には、いつも一つだけの目標があります。それはお客様のライド体験をメインに据えること」。鄭氏はそう切り出した。その体験を常に収集し、どうすればより良い楽しみを提供できるかを考え続けることが、会社としての一貫したゴールだという。
その土台にあるのが良い製品を出すこと。そしてそれを毎年更新し続けること。「もっといい製品を提供することが一番のポイント。その次にアフターサービスです。お客様がどんなサービスを求めているのかを常に考えています」。
具体例として鄭氏が挙げたのが、昨年8月にスタートし、今後は待望のオンラインページがスタートするカスタムペイントサービスだ。元々は台湾で先行スタートしていたサービスであり、既に台湾では多くのカスタムバイクが出荷されている。そしてもう一つの柱と位置付けるのがジャイアント独自のフィッティングプログラムDCF(ダイナミック・サイクリング・フィット)だ。「フィッティングはお客様のライディング体験とダイレクトに繋がっていることだから大事なんです。正しいポジションで乗ることで安全性も高まりますし、マンツーマンでサービスを受けてもらうことで、お客様自身の専門知識も増えていく。これはすごく大切なこと」と語気を強める。



そして忘れてはならないのが、ディーラー(プロショップ)を通して、ライドを楽しめる機会をたくさん作ること。「ブランドとして、ショップとして、お客さんを連れてどこかに走りに行く。日本なら、自転車を購入したあとに旅行をしたり仲間を作ったりする。これは非常に良い自転車のライフスタイルですし、こういうカルチャーを日本でもしっかりと作っていきたいと思っています」と言う。
実際に筆者自身、ジャイアントストア大阪を取材で訪れた際には女性店長の小早川千里さんのもと、月2回というハイペースで開催されるイベントの数々には驚かされた。いちご狩りやカフェ巡りのポタリングから、淡路島・しまなみ海道、さらには九州への遠征まで内容は幅広く、夏には店内で「アロマとヨガ」まで開催。「買ったはいいけど乗る機会がない」という初心者の受け皿として機能し、イベントはいつも満員御礼だという。鄭秋菊さんが語る「体験を通じたカルチャー作り」は、すでに良い形となって現れ始めていると言える。
「環島」が変えた、台湾の自転車カルチャー
この「体験」や「文化」という言葉は、決して抽象的なスローガンではなく、ジャイアントにはすでに、台湾という一つの島をまるごと自転車好きに変えてしまった実績がある。

台湾を象徴する自転車文化として今や広く知られているのが、島を一周する「環島(ファンダオ)」だ。日本で言うところのお遍路さんのように一度は挑みたい目標として台湾社会に根付いているが、そのきっかけは2007年にジャイアントの創業者である故キング・リュウ会長が74歳でこの環島に挑戦し、台湾社会の大きな注目を集めたこと。以後、「環島推進」はジャイアントの社是の一つとなり、台湾政府も「環島1号線」というインフラ整備に乗り出すまでになった。
「この自転車体験カルチャーは、台湾では今や非常に成熟したものになりました」と鄭氏。「自転車業界以外、例えば政治に携わる人たちも含めて、色々な案を積極的に考えて、どう推進するかを常に考えている。台湾の自転車活用は、ずっとプラス方向に動き続けているんです」。
そして元会長は、文化や土地が似ている日本にも、この文化を広めたいという強い思いを持っていたという。「日本と台湾の文化は非常に似ているので、お互いがとても親しみやすいというメリットがあります。元会長はしまなみ海道を走ったり、日本の政治家とも関わりを持ったり。その動きはきちんと引き継がれていて、毎年台湾のジャイアント・トラベルからは日本を走るツアーがあっていつも人気ですし、今年は富士ヒルクライムに参加するツアーを組み、女性だけで60名が走りました。そこで感じたのは、日本の自転車文化は凄いし、やっぱり台湾と似ている。もっとできることは多くあるように感じます」。

一方で、8000人が参加する富士ヒルクライムの熱量に感心しつつも、「地域によっては自転車人口が少ない感じがある。台湾では週末とか祝日とか、どこであってもサイクリストを見ない日はありません」と指摘する。「私の見解ですが、日本は一人一人で走っている人が多く、あまりショップやクラブの集まりで走っている人は少ないんじゃないか、と。だから大きなイベントには参加者が集中するという現象が起こるのかもしれません」。
「でも、それはある意味、日本のサイクリストが『集まれる場』を求めているという裏返し。だからこそ、楽しむイベントやグループがあちこちにあれば、もっと文化として強く根付くはず。だからまず私たちとして、ジャイアントストアでイベントやツアーを作って楽しむところから始めていきたいと思います」。
自転車業界の努力も必須だが、それ以上に大きく踏み出そうとするならば、自治体や政府を巻き込んだインフラ作りが必要不可欠。ここからは、ジャイアント・ジャパンの中村晃代表取締役社長も話に加わってくれた。

「政治に携わるいろんな人と一緒に乗って、自転車の楽しさや可能性を知ってもらうことが一番大事なんです」と中村氏。「例えば愛媛で取り組んできた例を挙げれば、県知事さんや市長さんと一緒に走りました。そして実際にインフラを整える側の土木課の方々とも乗った。やっぱりサイクリングルートを作って、ブルーラインを引いただけじゃダメなんですよ。もっとサイクリスト目線で整備しないといけない」。
その方法論は、いたってシンプルだという。「要職についている方々をサイクリストにしてしまって(笑)、楽しさを分かち合って、一緒に文化を作っていけるように働きかけることが一番大事。実際に愛媛県では台湾の国交相や道路局の方々も視察に来て、お互いのいい部分を学び合っています」。

中村氏が台湾の文化で感心するのは、環島の達成が「本当の台湾人になる」というカルチャーにまで仕立て上げられていることだという。「それに倣って、四国の人なら四国一周しないといけない、のようにしたいですよね。そのきっかけとして、しまなみ海道をもっともっと広めていきたい。走って分かることってあると思うし、地元愛に対してもすごくいい。一度その熱はコロナで少し下がっちゃったので、もう一度頑張らないといけないですよね」。
しまなみ海道に続いて、滋賀県の琵琶湖や、茨城県の霞ヶ浦を盛り上げるべく、中村社長は両県の知事と走る機会を設けた。「一緒に走ると皆さん自転車好きになって、すごく積極的になって理解が早いんですよね。だから一番の根っこは、難しいこと抜きにして一緒にサイクリングして、『自転車楽しいよね』というところが一番大事なんです。全てにおいて」。
世界唯一の女性専用ブランド「Liv」の存在意義
取材で何度か台湾に足を運んでいる筆者が毎回感じるのは、レベルの高い低いに関わらず、年齢を問わずそれぞれのペースを楽しむ女性サイクリストの多さだ。日本と比べて、その割合は圧倒的に多い。
しかし鄭氏によれば、それも最初から当たり前だったわけではないという。「台湾も、女性がスポーツを楽しむ文化はほぼ無かったんです。どうしてもインドアになりがちだし、日焼けもしたくない。でも、誰かが一緒に走ってくれるなら、やってみたいという人は多い」。そこでジャイアントが取った戦略が「1+1」、つまり一人が一人を連れ出すという形のキャンペーンだった。最近ではEバイクの普及を追い風に「1+E」という、よりハードルを下げた形も打ち出しているという。

Livブランドを通じたイベントも重要な柱だ。「特にフィジカル面で、女性は男性と一緒に走ることにプレッシャーを感じることも多いですから、女性どうしで良い景色や美味しい食べ物を巡るツアーもやっています」。
その根底にあるのが、世界唯一の女性専用自転車ブランドであるLivの存在そのものだと鄭氏は強調する。「女性が乗る自転車は、男性用をただ縮めただけではいけません。ジオメトリーは全く違うし、色だって違う。アパレルだって専用デザインが必要ですし、店だって違うべき。だから台北にはLivだけのフラッグシップストアも作りました」。製品、イベント、そしてチャンネル。「あらゆる側面から、私たちは女性に自転車を広めることに対して本気なんです」。
「しまなみ」の次は「やまなみ」、林道というフロンティア
インタビューの最後、中村氏が語ったのは今後の展望だった。今考えていることは、グラベルやMTBといったオフロードを走る場所そのものを切り開いていくことだという。

「オフロードバイクは走る場所が必要なのに、どこを走っていいのかわからない。あってもみんな場所を明かさないで走っている、ということも少なくないですよね。そこをもっとオープンに走れる場所やイベントを作っていきたいんです」と言う。具体的に見据えているのは、国有林や県有林にある林道の有効活用だ。「世界ではこれだけグラベルが盛り上がってきているのに、日本はイベントが少ないし、走る場所のアナウンスがない」。
「でも、日本は林道だけですごく長い距離を走れたりするし、例えば九州にはすごくいい道がたくさんあるんですよ。管理者と走る側が互いに納得できる形を整え、まずは封鎖されている道を走れるイベントから始めて、市場そのものを大きく、楽しくしていきたい。モノだけを作る時代は終わっていますから、そういうところに力を入れていきたい。しまなみ海道を有名にするプロジェクトは成功しましたから、次は林道です。『しまなみ良し、やまなみ良し』ってね(笑)」。
自転車を売ることから、体験を届けることへ。台湾で50年かけて実証してきたこの転換を、あくまで「一緒に走る」という、地道な一歩から始めている。
text:So Isobe
photo:Naoki Yasuoka
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