新型XTRをエンデューロレースに投入してテスト。国内随一のロングステージとなるENS白馬と、雨のコンディションとなった富士見パノラマで存分に乗り込んでのリアルな実走インプレッションをお届けする。極限を制する新型XTRの実力と真価を、レース実走とトレイルで徹底的に検証した。

白馬岩岳のジャンプセクションを跳ぶテストライダーの西脇仁哉 photo:Makoto AYANO

新型XTRで組まれたバイクでENS白馬のダウンヒルを走る清水一輝 photo:Makoto AYANO
XCでもエンデューロでも、過酷な路面状況で戦うMTBレースにおいて、機材の信頼性とパフォーマンスは勝敗を分ける決定的な要素となる。中でもドライブトレインとブレーキの性能は、ライダーの意図をいかに正確に、そしてスムーズにトレイルに伝えられるかを左右する。
そうした厳しい環境に対応すべく、シマノが新たに送り出したのがこの新型XTRである。Di2による無線変速化、ブレーキフィーリングの改善、静粛性の向上、剛性バランスの見直しなど、すべてがレースという極限状態における「安心」と「攻め」を両立させるために設計されている。

エンデューロバイクのXTRドライブトレイン photo:Makoto AYANO
本記事では、実際のENS白馬エンデューロレースと雨の富士見パノラマでのテストライドを通じて、新型XTRの各部のフィーリングや応答性を詳細にレポートする。ENS白馬ではドライコンディションの岩岳バイクパークで試走3本、レース本番の3ステージを走行。富士見パノラマでは雨が本降りのなか、スキルエリアを走り込んだ。さらには実戦投入を始めたばかりのスポンサードライダーたちのリアルな声も交え、その完成度を多角的に検証していく。

西脇仁哉とXTR装着バイクのサンタクルズHighTower(ENS白馬にて) photo:Makoto AYANO
1986年生まれ。小学生の頃からMTBを始め、大学卒業後にカナダ・ウィスラーで4シーズンにわたりMTB修行を積む。国内外のMTB雑誌やウェブサイトで取り上げられ、数々の写真や動画作品を制作。帰国後はフリーの翻訳家とフォトグラファーとして働き、海外の撮影クルーのアテンドも経験。普段は奥武蔵でのトレイルライドをメインにするが近年ウィスラーでのライドを再開。今回はXTRテストのためにENS白馬にエントリーし、実際にレースを走った。
Instagram:@jingypsy

シフターのレバー位置は細かくカスタマイズできる photo:Makoto AYANO
細かな位置調整機構が備わっているのは高性能コンポーネントの証。特に手指のサイズは人それぞれであるため、シフターを自分に最適な位置に合わせられないとミスシフトを誘発するどころか、時間の経過とともに不快感が生じてくる。

電動ワイヤレス変速用シフター photo:Makoto AYANO 
シフターのレバー位置は3mmアーレンキーで調整自在だ photo:Makoto AYANO
そこで試乗前に、3mmの六角レンチでシフトパドルの位置や角度を入念に調整した。親指をできるだけ動かさなくて済み、かつ2つのパドルを混同してのシフトミスを誘発しない位置にセットアップするのは、2軸の調整域のおかげもあり、簡単だった。これにより、シフトパドルに親指を届かせようとして手のひらをグリップから浮かせる必要のあるマイバイクとはまったく異なるシフティング体験が得られた。すっかり慣れていた操作が効率的でも快適でもないと気づかされ、タッチポイントのインターフェースの重要性を突きつけられた形だ。

RD-M9250 GS(ミドルケージ) photo:Makoto AYANO
これまで機械式のドライブトレインしか所有してこなかった筆者にとって、新型XTRの変速の素速さと正確さには感心するばかり。機械式ではシフトパドルを押してからワンテンポ遅れて変速が完了するが、新型XTRでは軽く押し込んだ時点で変速が終わっていた。必要な力は、親指の腹がわずかに沈む程度。機械式では動作に至らないほどの軽い力でも確実に変速する。

複雑な地形のトレイルをこなすとき、Di2が可能にする頻繁な変速が活きてくる photo:Makoto AYANO
さらに、スイッチのように押した感覚が曖昧な構造ではなく、変速の完了時にしっかりとしたクリック感が指先に伝わってくる。素速く連続して操作しても、チェーンが詰まったり、ギアを飛ばしたりするような挙動はなく、各ギアへ静かにスッと収まっていく。路面やペダリング状況を問わずこまめに変速できるため、普段のライドで下りを漕がない癖もあることから、うっかり変速を忘れていたり、コーナー後の加速を見越して進入時にギアを軽くしておきたいときなど、助けられたシーンは多かった。
2段変速の操作も、パドルを押してからさらに押し込む構造にそれぞれクリック感が与えられており、変速状況の把握がしやすい。操作感があまりに気持ちよく、つい無駄に変速したくなるほどであった。

国内屈指のロングダウンヒルを誇る白馬岩岳のゲレンデを下る西脇仁哉 photo:Makoto AYANO
トップやローまで連続で変速する長押し操作は、ENS白馬のスタートやコーナー後の立ち上がりで大きな武器となった。スタートではあらかじめやや軽めのギアを選んでおき、スタートゲート手前から高めのケイデンスで漕ぎ始める。しかし、荒れた路面では細やかな変速操作が難しい。そう感じていたのは、経験上、チェーンの脱落や暴れを恐れていたからだ。

ENS白馬のダウンヒル区間をこなす西脇仁哉 photo:Makoto AYANO
新型XTRでは、パドルを押し続けることで自動的に変速され、そのような状況に加え、コーナーを抜けた後の加速時でもケイデンスを保ったまま加速できた。おそらく、連続変速のスピードが絶妙だからだろう。変速が速すぎれば重たいギアを踏むことになり、脚を回せず、加速が鈍る。一方で遅すぎると脚が回りきってしまい、これまたスピードが伸びない。その点、新型XTRの連続変速は一段ずつちょうどの間隔で切り替わり、高ケイデンスを維持しながらスムーズに加速できた。単に切り替わればいい変速ではなく、タイム短縮すわなち勝利に貢献する変速である。

ブレーキはエンデューロ用レバーに4ピストンキャリパーの組み合わせ photo:Makoto AYANO
極限のレースシーンでブレーキに求められるのは、「止まる力」ではなく、「制御する力」だ。新型XTRのブレーキは、まさにその減速の質を根本から磨き上げている。サーボウェーブを廃した新機構となったことで、制動力の立ち上がりは極めてリニアになっていた。レバーを握ったぶんだけ制動力が比例して高まり、効き具合に唐突な変化が感じられなかったのだ。

雨でテクニカルになった富士見パノラマのスキルエリアを攻める西脇仁哉 photo:Makoto AYANO
従来のシマノのブレーキは、レバー操作に対し、キャリパー側がやや過敏に反応していたように思う。つまり、わずかにレバーを握っただけでも強く効いてしまうため、制動力は十分ながらもリニアさに欠け、意図しない急激な制動、つまり「カックン」という挙動につながっていたのだ。新型XTRではこの挙動が見直され、入力と出力の関係がより自然に近づいた。ライダーの意思に忠実なブレーキングが可能となり、ライン取りの安心感が高まっていた。

ウェットコンディションでブレーキの高度なコントロール性能を実感した photo:Makoto AYANO
テーブルトップジャンプでフロントホイールを意図的に落としてながらフロントブレーキをかけ、「ストッピー」を試みた。これはリアホイールを浮かせた状態でフロントのみで走行するテクニックであり、ブレーキの初期制動が過敏であれば即座に前転してしまう。逆に効きが弱ければリアが落ちて通常の着地に戻ってしまうという、難易度の高いテクニックである。
だがどうだろう。一発目から狙い通りに、フロントのみでスムーズにランディングエリアを下ることができた。雨や泥でローターやパッドが汚れた状態でも十分な制動力を維持したまま、ピーキーな初動が抑えられていたのがわかり、思わずニヤけるほど驚いた。さらに、ウェットな連続バームでもフロントがロックすることなく安全に減速して進入できた。

白馬岩岳の根っこ連続ダウンヒル区間を下る西脇仁哉 photo:Makoto AYANO
路面状況に左右されず、タイヤのグリップを保ったまま最短距離で減速できれば、より積極的にラインを攻められ、タイムを短縮できる。レースで武器になるのはもちろんのこと、普段のライドで難しいラインにチャレンジするときなど、安全な減速や停止が求められるシーンでも非常に有効だ。

レバーを引くときに指の動きに沿った自然な軌道を描く photo:Makoto AYANO
ブレーキングで求められる人差し指のレバー移動量は5mm程度。これをグリップを握ったまま路面からの入力と切り離して行うため、繊細な指の動きが求められる。走行中に絶えずこの動作を行うことから、手指に大きな負担がかかるのは想像に難くない。過去に出場した長丁場のレースでは、ゴール後に指を一本ずつグリップから剥がす必要があるほど疲労したことがあった。
そしてENS白馬第2ステージのゴールタイムは、8〜9分と国内DHレースで最長レベル。ゴールする頃には、あるいははるか手前から、前腕が痛むいわゆる「腕上がり」が生じるだろうと不安だったが、その心配は皆無だった。それだけレバー操作による疲労が蓄積しなかったのだ。

上方に5°スウィープしたブレーキレバーが指の動きに沿った自然なブレーキ操作を可能にする 
5°スウィープを生み出すために複雑に造り込まれたブレーキ裏側。加工技術の高度さがわかる
これは5度上向きに角度をつけたエルゴフロー・レバーデザインによる、自然なレバー軌道のおかげだろう。また、ブレーキがフェードしてレバーをより強く握り込むこともなかったので、新しいLVブレーキオイルが一貫した制動性能に大きく貢献していたに違いない。腕に疲労が溜まりにくくなれば試走回数を増やせるし、本番でも攻めた走りが可能になる。これがあらかじめわかっているだけでも、レース中に安心し集中できるはず。いつでも変わらない制動力の謳い文句に偽りはなかった。

エンデューロ用ブレーキレバー 
XC用ブレーキレバー
なお、XC用キャリパーBR-M9200はエンデューロ用レバーBL-M9220と互換性があるため、重量増を抑えつつ、よりリニアなレバーフィールを得られるので、XCレーサーはぜひ試してみてほしい。実際、海外トップXCレーサーも実戦でこれらを組み合わせて使用しているようだ。

ENS白馬のダウンヒル区間をこなす西脇仁哉 photo:Makoto AYANO
また、深いバームで急旋回する場面でも、BB周りのたわみは感じられなかった。なお、試乗車のクランク長は170mmだったため、コーナーの立ち上がりで漕ぐ際にバイクを倒しすぎないよう注意する必要があった。もし最短の160mmであれば、より手前から漕ぎ出せたかもしれない。路面クリアランスの拡大以外に、漕ぎの頻度に応じてアーム長を選べるのは、レーサーの強い味方になるはずだ。
その結果、走行中に聞こえるのはタイヤが路面を捉える音くらいで、レース中に何かの異音に怯えることはなかった。もし異音があれば、バイクのどこかに異常があるということ。メカトラブルを察知したり不安要素を減らせる程、バイク全体が静かだった。「走りに集中していればいい。操作は任せておけ」という無音のメッセージは心強かった。

新型XTRを使用してレースを走る永田隼也と清水一輝 photo:Makoto AYANO
新型XTRコンポーネントをテストライドしたトップエンデューロライダーの実感とは? 長年エンデューロやDHのシーンで戦い続けてきたトップライダーの二人に、テストライドを通じて感じたリアルな使用感やパフォーマンスの進化について、じっくりと話を聞いた。

新型XTRで組まれたバイクでENS白馬のダウンヒル区間を走る清水一輝 photo:Makoto AYANO
新型XTRコンポーネントを手にしたとき、まず最初に抱いたのは、見た目の質感が格段に上がっているという印象でした。特にモノブロックになったキャリパーの削り出しの仕上げは非常に好みで、剛性感も確実に向上しており、レース中のパフォーマンスアップに期待できます。

清水一輝「反応が速く、変速したい瞬間にパチンと決まってくれるDi2は武器になる」 photo:Makoto AYANO
サーボウェーブの作動感にも変化がありました。以前はレバーを引いたときに、カチッという小さな遊びのような感触がありましたが、今回のモデルではそれが解消され、よりスムーズに動くようになっています。その遊びがなくなったぶん引き始めにレバーがやや重くなったようにも感じられましたが、ブレーキの効きや操作性は間違いなく良くなっています。
5度上向きスウィープの新型レバー形状も良いですね。指へのフィット感が増し、微妙なタッチにも応えてくれるため、たとえばコーナー進入時にブレーキングをギリギリまで遅らせても、安心して効き具合をコントロールできます。また、これまで気になっていたブレーキパッドのカタカタ音が解消されており、走行中のノイズが減ったことでライドにより集中できるようになりました。
今回、国内最長のエンデューロレースであるENS白馬を走って、8分以上のロングダウンヒルを下ってもブレーキが熱ダレ(フェード)しないということもわかり、そのハイパフォーマンスが確認できました。
機械式ディレイラーを7年間使用してきた自分にとって、今回のDi2の導入はまったく新しい体験でした。シフト操作に対する反応がとにかく速く、変速したいその瞬間にパチンと決まってくれる感覚があります。僕はシフターを長押しで連続変速する設定にしていますが、登り返しなど瞬時のギアチェンジが求められるシーンでも、ストレスなく操作できます。

新型XTRで組まれた清水一輝選手のエンデューロバイクのドライブトレイン photo:Makoto AYANO
特にエンデューロでは、刻々と変わる地形に対応する素早い反応が求められるため、この正確性と即応性は大きな武器になるでしょう。また、Di2は泥が詰まる過酷なコンディションでも、変速性能が落ちにくい点も魅力です。
チェーンテンションが前作よりもかなり強くなっていて、実際にチェーンの暴れが大幅に抑えられている印象です。今回のレースではチェーンガイドを装着していなかったのですが、それでも一度もチェーントラブルは起きませんでした。チェーン落ちの心配がないのは、レース中の集中力にも直結するので、とても信頼できます。
ディレイラーに関しても、かなりタフな路面で使用しましたが、まだ一度も破損していません。今後はもっとハードに使って、いったいどこまで耐久性があるのか試してみたいと思っています。

新型XTRで組まれたバイクでENS白馬のダウンヒル区間を走る清水一輝 photo:Makoto AYANO
リアカセットは9-45Tを選択しました。先代でも10-45tを使用していましたが、今回はさらにワイド化したことで、登りでも下りでもギア選択の幅が広がりました。また、トップ9Tを使うとリアディレイラーにミドルケージを使え、サスペンションが沈んだ際に路面との接触を減らせるようになったのは大きな進化です。
特にテクニカルなセクションでは、ディレイラーやフロントチェーンリングを路面にぶつけやすいですが、クリアランスが大きく取れるため、より攻めて走れます。また、スタビライザーの効果もより強化されており、チェーンの暴れをさらに抑えられています。
こうした細かな改良が、全体としての信頼性向上につながっています。シフターについても、4方向にポジション調整ができる点が好印象です。どんなポジションでも無理なく指が届くので、走行中の操作性が格段に向上しました。

新型XTRで組まれた清水一輝選手のエンデューロバイク photo:Makoto AYANO
これまで165mmのクランクを使用していましたが、新たに追加された160mmにも関心があります。クランクを短くすることで回転が軽くなり、ペダリング効率が向上するだけでなく、路面とのクリアランスも確保しやすくなります。テクニカルなセクションでも安心して踏み込めるため、今後はより短いクランクを試したいです。

ENS白馬のダウンヒルをハイスピードでこなす永田隼也 photo:Makoto AYANO
新型XTRでまず真っ先に感じたのは、全体のスムーズさの向上でした。変速もブレーキも、これまでよりも一段階洗練され、操作に対する反応が自然です。特にペダルを踏み込んだときの剛性感がしっかりしていて、力がダイレクトに伝達されているのがわかります。

永田隼也「システム全体のスムーズさが向上している」 photo:Makoto AYANO
ブレーキに関しては、これまでのモデルではカックンと効くような、やや唐突な制動特性がありました。特に雨などの滑りやすい路面では、効き始めのタイミングが予測しにくく、タイヤがロックするかどうかがわかりづらい面がありました。

モノブロック構造により強度が高まったブレーキキャリパー 
4ポッドの新型エンデューロ用ブレーキキャリパー
また、使い込んでパッドが摩耗し、ピストンが出てくると、雨などの悪条件でフロントが急にロックするような不安定な挙動も見られました。しかし新型XTRでは、レバーを握り始めてからブレーキが効き始めるまでのフィーリングが滑らかで、つながりが自然です。そのおかげで、今どれくらいの制動力がかかっているのかを感じ取り、タイヤがロックする手前の感覚を掴みやすくなりました。また、悪条件での制動力低下も改善されています。ジワーッと効かせられる、まさに自分好みの操作性になっています。

ENS白馬のダウンヒル区間をハイスピードでこなす永田隼也 photo:Makoto AYANO
僕はロードバイクにも頻繁に乗っていて、Di2の変速の速さには慣れているのですが、MTBではずっとワイヤー式を使ってきました。それが今回ついにDi2となり、期待感も高まっています。シフターのポジションを4方向に調整でき、自分の手に合わせられるようになったのも魅力です。

ガレ場のダウンヒルでもスタビライザーが強力に効いてチェーン暴れが少ない photo:Makoto AYANO
スタビライザーのON/OFFスイッチは廃止されましたが、内部のスプリングが強化されており、チェーンの暴れがかなり抑えられています。これは走行中のペダリングロスを減らし、バイク全体の静粛性向上にもつながっています。チェーンの暴れが減るというのは、レース中の集中力を保つ上でも非常に重要なポイントです。バイクから発せられるノイズが減れば、それだけ感覚を研ぎ澄ませられるからです。

永田隼也のエンデューロバイクのドライブトレイン photo:Makoto AYANO
ギア構成は前作から引き続き、リアにロー45Tスプロケット、フロントに32Tを使用しています。このコンパクトな組み合わせはタイム短縮にも有利だと実感してきましたが、トップ9Tになったことでさらにワイドレンジになりました。
そしてリアディレイラーがさらに小型化され、耐衝撃性も高まっているため、テクニカルなセクションでも思い切って攻めて走れそうです。ディレイラーがコンパクトだと、地面とぶつかるリスクが減り、機材トラブルの可能性も下がるので、大きな安心材料になります。

新型XTRをセットした永田隼也のエンデューロバイク photo:Makoto AYANO
Di2と電動ドロッパーポストの組み合わせにより、ハンドルバー周りからブレーキ以外のケーブルがなくなりました。これにより、見た目のすっきり感はもちろん、ケーブルがハンドルバーとぶつかる音も減りました。キャリパーの静粛性も向上していて、走行中にバイクから聞こえるノイズがほとんどないのが嬉しいです。
クランクアームの長さは、前回から変わらず165mmを選択しています。どんなセクションでも安心してペダルを回せるのを優先させたチョイスです。特に根っこや岩が連続するセクションでは、クランクの長さが路面とのクリアランスに大きく関わってきます。
次回Vol.3では、新型XTRホイールをレースに実戦投入する選手の声を含めたインプレに加え、新コンポーネントに込めた設計意図について、シマノ担当者への質問とインタビューをお届けする。


XCでもエンデューロでも、過酷な路面状況で戦うMTBレースにおいて、機材の信頼性とパフォーマンスは勝敗を分ける決定的な要素となる。中でもドライブトレインとブレーキの性能は、ライダーの意図をいかに正確に、そしてスムーズにトレイルに伝えられるかを左右する。
そうした厳しい環境に対応すべく、シマノが新たに送り出したのがこの新型XTRである。Di2による無線変速化、ブレーキフィーリングの改善、静粛性の向上、剛性バランスの見直しなど、すべてがレースという極限状態における「安心」と「攻め」を両立させるために設計されている。

本記事では、実際のENS白馬エンデューロレースと雨の富士見パノラマでのテストライドを通じて、新型XTRの各部のフィーリングや応答性を詳細にレポートする。ENS白馬ではドライコンディションの岩岳バイクパークで試走3本、レース本番の3ステージを走行。富士見パノラマでは雨が本降りのなか、スキルエリアを走り込んだ。さらには実戦投入を始めたばかりのスポンサードライダーたちのリアルな声も交え、その完成度を多角的に検証していく。
テストライダー 西脇仁哉(にしわき じんや)

1986年生まれ。小学生の頃からMTBを始め、大学卒業後にカナダ・ウィスラーで4シーズンにわたりMTB修行を積む。国内外のMTB雑誌やウェブサイトで取り上げられ、数々の写真や動画作品を制作。帰国後はフリーの翻訳家とフォトグラファーとして働き、海外の撮影クルーのアテンドも経験。普段は奥武蔵でのトレイルライドをメインにするが近年ウィスラーでのライドを再開。今回はXTRテストのためにENS白馬にエントリーし、実際にレースを走った。
Instagram:@jingypsy
シフター位置調整がもたらす手の延長のような操作感

細かな位置調整機構が備わっているのは高性能コンポーネントの証。特に手指のサイズは人それぞれであるため、シフターを自分に最適な位置に合わせられないとミスシフトを誘発するどころか、時間の経過とともに不快感が生じてくる。


そこで試乗前に、3mmの六角レンチでシフトパドルの位置や角度を入念に調整した。親指をできるだけ動かさなくて済み、かつ2つのパドルを混同してのシフトミスを誘発しない位置にセットアップするのは、2軸の調整域のおかげもあり、簡単だった。これにより、シフトパドルに親指を届かせようとして手のひらをグリップから浮かせる必要のあるマイバイクとはまったく異なるシフティング体験が得られた。すっかり慣れていた操作が効率的でも快適でもないと気づかされ、タッチポイントのインターフェースの重要性を突きつけられた形だ。
ワイヤーからの完全脱却がもたらす軽快感

これまで機械式のドライブトレインしか所有してこなかった筆者にとって、新型XTRの変速の素速さと正確さには感心するばかり。機械式ではシフトパドルを押してからワンテンポ遅れて変速が完了するが、新型XTRでは軽く押し込んだ時点で変速が終わっていた。必要な力は、親指の腹がわずかに沈む程度。機械式では動作に至らないほどの軽い力でも確実に変速する。

さらに、スイッチのように押した感覚が曖昧な構造ではなく、変速の完了時にしっかりとしたクリック感が指先に伝わってくる。素速く連続して操作しても、チェーンが詰まったり、ギアを飛ばしたりするような挙動はなく、各ギアへ静かにスッと収まっていく。路面やペダリング状況を問わずこまめに変速できるため、普段のライドで下りを漕がない癖もあることから、うっかり変速を忘れていたり、コーナー後の加速を見越して進入時にギアを軽くしておきたいときなど、助けられたシーンは多かった。
2段変速の操作も、パドルを押してからさらに押し込む構造にそれぞれクリック感が与えられており、変速状況の把握がしやすい。操作感があまりに気持ちよく、つい無駄に変速したくなるほどであった。
迷いなく繰り出せる、リズムを崩さないシフティング

トップやローまで連続で変速する長押し操作は、ENS白馬のスタートやコーナー後の立ち上がりで大きな武器となった。スタートではあらかじめやや軽めのギアを選んでおき、スタートゲート手前から高めのケイデンスで漕ぎ始める。しかし、荒れた路面では細やかな変速操作が難しい。そう感じていたのは、経験上、チェーンの脱落や暴れを恐れていたからだ。

新型XTRでは、パドルを押し続けることで自動的に変速され、そのような状況に加え、コーナーを抜けた後の加速時でもケイデンスを保ったまま加速できた。おそらく、連続変速のスピードが絶妙だからだろう。変速が速すぎれば重たいギアを踏むことになり、脚を回せず、加速が鈍る。一方で遅すぎると脚が回りきってしまい、これまたスピードが伸びない。その点、新型XTRの連続変速は一段ずつちょうどの間隔で切り替わり、高ケイデンスを維持しながらスムーズに加速できた。単に切り替わればいい変速ではなく、タイム短縮すわなち勝利に貢献する変速である。
「カックン」からの脱却。一貫したリニアなブレーキフィール

極限のレースシーンでブレーキに求められるのは、「止まる力」ではなく、「制御する力」だ。新型XTRのブレーキは、まさにその減速の質を根本から磨き上げている。サーボウェーブを廃した新機構となったことで、制動力の立ち上がりは極めてリニアになっていた。レバーを握ったぶんだけ制動力が比例して高まり、効き具合に唐突な変化が感じられなかったのだ。

従来のシマノのブレーキは、レバー操作に対し、キャリパー側がやや過敏に反応していたように思う。つまり、わずかにレバーを握っただけでも強く効いてしまうため、制動力は十分ながらもリニアさに欠け、意図しない急激な制動、つまり「カックン」という挙動につながっていたのだ。新型XTRではこの挙動が見直され、入力と出力の関係がより自然に近づいた。ライダーの意思に忠実なブレーキングが可能となり、ライン取りの安心感が高まっていた。
濡れた路面でも狙った制動が可能に
ウェットコンディションでフロントホイールが意図せずロックし、肝を冷やした経験のあるライダーは多いだろう。そこで、先述の「カックン」感がシビアな路面状況でも本当に解消されているのかをテストをした。場所は雨降る富士見パノラマのスキルエリア。
テーブルトップジャンプでフロントホイールを意図的に落としてながらフロントブレーキをかけ、「ストッピー」を試みた。これはリアホイールを浮かせた状態でフロントのみで走行するテクニックであり、ブレーキの初期制動が過敏であれば即座に前転してしまう。逆に効きが弱ければリアが落ちて通常の着地に戻ってしまうという、難易度の高いテクニックである。
だがどうだろう。一発目から狙い通りに、フロントのみでスムーズにランディングエリアを下ることができた。雨や泥でローターやパッドが汚れた状態でも十分な制動力を維持したまま、ピーキーな初動が抑えられていたのがわかり、思わずニヤけるほど驚いた。さらに、ウェットな連続バームでもフロントがロックすることなく安全に減速して進入できた。

路面状況に左右されず、タイヤのグリップを保ったまま最短距離で減速できれば、より積極的にラインを攻められ、タイムを短縮できる。レースで武器になるのはもちろんのこと、普段のライドで難しいラインにチャレンジするときなど、安全な減速や停止が求められるシーンでも非常に有効だ。
握力が落ちても変わらない、レース終盤まで続く制動力

ブレーキングで求められる人差し指のレバー移動量は5mm程度。これをグリップを握ったまま路面からの入力と切り離して行うため、繊細な指の動きが求められる。走行中に絶えずこの動作を行うことから、手指に大きな負担がかかるのは想像に難くない。過去に出場した長丁場のレースでは、ゴール後に指を一本ずつグリップから剥がす必要があるほど疲労したことがあった。
そしてENS白馬第2ステージのゴールタイムは、8〜9分と国内DHレースで最長レベル。ゴールする頃には、あるいははるか手前から、前腕が痛むいわゆる「腕上がり」が生じるだろうと不安だったが、その心配は皆無だった。それだけレバー操作による疲労が蓄積しなかったのだ。


これは5度上向きに角度をつけたエルゴフロー・レバーデザインによる、自然なレバー軌道のおかげだろう。また、ブレーキがフェードしてレバーをより強く握り込むこともなかったので、新しいLVブレーキオイルが一貫した制動性能に大きく貢献していたに違いない。腕に疲労が溜まりにくくなれば試走回数を増やせるし、本番でも攻めた走りが可能になる。これがあらかじめわかっているだけでも、レース中に安心し集中できるはず。いつでも変わらない制動力の謳い文句に偽りはなかった。


なお、XC用キャリパーBR-M9200はエンデューロ用レバーBL-M9220と互換性があるため、重量増を抑えつつ、よりリニアなレバーフィールを得られるので、XCレーサーはぜひ試してみてほしい。実際、海外トップXCレーサーも実戦でこれらを組み合わせて使用しているようだ。
XCにもエンデューロにも通じる剛性とレスポンス
ENS白馬の第1および第3ステージは共通のコースで行われ、タイムは40秒未満と超ショート。それゆえ、随所で漕ぎを入れる必要があり、駆動系、つまりクランクやチェーンリングにはダイレクトなパワー伝達が求められる。剛性とは感覚に頼りがちな指数ではあるが、ペダリング時に腰砕けせず、力がしっかりと路面に伝わっている感覚があれば、高剛性と評価して差し支えないはず。実際、スタートダッシュやゴールスプリントで、そうした手応えを十分に得られた。
また、深いバームで急旋回する場面でも、BB周りのたわみは感じられなかった。なお、試乗車のクランク長は170mmだったため、コーナーの立ち上がりで漕ぐ際にバイクを倒しすぎないよう注意する必要があった。もし最短の160mmであれば、より手前から漕ぎ出せたかもしれない。路面クリアランスの拡大以外に、漕ぎの頻度に応じてアーム長を選べるのは、レーサーの強い味方になるはずだ。
無音に近づいたバイクがもたらす集中力の向上
新型XTRはDi2化によりシフトケーブルがなくなった上、ブレーキホースの取り回しもハンドルバーに沿うよう最適化されたため、走行中にケーブル類からノイズが生じていたとしても、思い出せないくらい気にならなかった。また、ディレイラーには強めのスタビライザーが備わり、チェーンのバタつきも少なく感じた。その結果、走行中に聞こえるのはタイヤが路面を捉える音くらいで、レース中に何かの異音に怯えることはなかった。もし異音があれば、バイクのどこかに異常があるということ。メカトラブルを察知したり不安要素を減らせる程、バイク全体が静かだった。「走りに集中していればいい。操作は任せておけ」という無音のメッセージは心強かった。
次世代XTRがレースシーンにもたらす変革

新型XTRコンポーネントをテストライドしたトップエンデューロライダーの実感とは? 長年エンデューロやDHのシーンで戦い続けてきたトップライダーの二人に、テストライドを通じて感じたリアルな使用感やパフォーマンスの進化について、じっくりと話を聞いた。
清水一輝選手

新型XTRコンポーネントを手にしたとき、まず最初に抱いたのは、見た目の質感が格段に上がっているという印象でした。特にモノブロックになったキャリパーの削り出しの仕上げは非常に好みで、剛性感も確実に向上しており、レース中のパフォーマンスアップに期待できます。

サーボウェーブの作動感にも変化がありました。以前はレバーを引いたときに、カチッという小さな遊びのような感触がありましたが、今回のモデルではそれが解消され、よりスムーズに動くようになっています。その遊びがなくなったぶん引き始めにレバーがやや重くなったようにも感じられましたが、ブレーキの効きや操作性は間違いなく良くなっています。
5度上向きスウィープの新型レバー形状も良いですね。指へのフィット感が増し、微妙なタッチにも応えてくれるため、たとえばコーナー進入時にブレーキングをギリギリまで遅らせても、安心して効き具合をコントロールできます。また、これまで気になっていたブレーキパッドのカタカタ音が解消されており、走行中のノイズが減ったことでライドにより集中できるようになりました。
今回、国内最長のエンデューロレースであるENS白馬を走って、8分以上のロングダウンヒルを下ってもブレーキが熱ダレ(フェード)しないということもわかり、そのハイパフォーマンスが確認できました。
機械式ディレイラーを7年間使用してきた自分にとって、今回のDi2の導入はまったく新しい体験でした。シフト操作に対する反応がとにかく速く、変速したいその瞬間にパチンと決まってくれる感覚があります。僕はシフターを長押しで連続変速する設定にしていますが、登り返しなど瞬時のギアチェンジが求められるシーンでも、ストレスなく操作できます。

特にエンデューロでは、刻々と変わる地形に対応する素早い反応が求められるため、この正確性と即応性は大きな武器になるでしょう。また、Di2は泥が詰まる過酷なコンディションでも、変速性能が落ちにくい点も魅力です。
チェーンテンションが前作よりもかなり強くなっていて、実際にチェーンの暴れが大幅に抑えられている印象です。今回のレースではチェーンガイドを装着していなかったのですが、それでも一度もチェーントラブルは起きませんでした。チェーン落ちの心配がないのは、レース中の集中力にも直結するので、とても信頼できます。
ディレイラーに関しても、かなりタフな路面で使用しましたが、まだ一度も破損していません。今後はもっとハードに使って、いったいどこまで耐久性があるのか試してみたいと思っています。

リアカセットは9-45Tを選択しました。先代でも10-45tを使用していましたが、今回はさらにワイド化したことで、登りでも下りでもギア選択の幅が広がりました。また、トップ9Tを使うとリアディレイラーにミドルケージを使え、サスペンションが沈んだ際に路面との接触を減らせるようになったのは大きな進化です。
特にテクニカルなセクションでは、ディレイラーやフロントチェーンリングを路面にぶつけやすいですが、クリアランスが大きく取れるため、より攻めて走れます。また、スタビライザーの効果もより強化されており、チェーンの暴れをさらに抑えられています。
こうした細かな改良が、全体としての信頼性向上につながっています。シフターについても、4方向にポジション調整ができる点が好印象です。どんなポジションでも無理なく指が届くので、走行中の操作性が格段に向上しました。

これまで165mmのクランクを使用していましたが、新たに追加された160mmにも関心があります。クランクを短くすることで回転が軽くなり、ペダリング効率が向上するだけでなく、路面とのクリアランスも確保しやすくなります。テクニカルなセクションでも安心して踏み込めるため、今後はより短いクランクを試したいです。
永田隼也選手

新型XTRでまず真っ先に感じたのは、全体のスムーズさの向上でした。変速もブレーキも、これまでよりも一段階洗練され、操作に対する反応が自然です。特にペダルを踏み込んだときの剛性感がしっかりしていて、力がダイレクトに伝達されているのがわかります。

ブレーキに関しては、これまでのモデルではカックンと効くような、やや唐突な制動特性がありました。特に雨などの滑りやすい路面では、効き始めのタイミングが予測しにくく、タイヤがロックするかどうかがわかりづらい面がありました。


また、使い込んでパッドが摩耗し、ピストンが出てくると、雨などの悪条件でフロントが急にロックするような不安定な挙動も見られました。しかし新型XTRでは、レバーを握り始めてからブレーキが効き始めるまでのフィーリングが滑らかで、つながりが自然です。そのおかげで、今どれくらいの制動力がかかっているのかを感じ取り、タイヤがロックする手前の感覚を掴みやすくなりました。また、悪条件での制動力低下も改善されています。ジワーッと効かせられる、まさに自分好みの操作性になっています。

僕はロードバイクにも頻繁に乗っていて、Di2の変速の速さには慣れているのですが、MTBではずっとワイヤー式を使ってきました。それが今回ついにDi2となり、期待感も高まっています。シフターのポジションを4方向に調整でき、自分の手に合わせられるようになったのも魅力です。

スタビライザーのON/OFFスイッチは廃止されましたが、内部のスプリングが強化されており、チェーンの暴れがかなり抑えられています。これは走行中のペダリングロスを減らし、バイク全体の静粛性向上にもつながっています。チェーンの暴れが減るというのは、レース中の集中力を保つ上でも非常に重要なポイントです。バイクから発せられるノイズが減れば、それだけ感覚を研ぎ澄ませられるからです。

ギア構成は前作から引き続き、リアにロー45Tスプロケット、フロントに32Tを使用しています。このコンパクトな組み合わせはタイム短縮にも有利だと実感してきましたが、トップ9Tになったことでさらにワイドレンジになりました。
そしてリアディレイラーがさらに小型化され、耐衝撃性も高まっているため、テクニカルなセクションでも思い切って攻めて走れそうです。ディレイラーがコンパクトだと、地面とぶつかるリスクが減り、機材トラブルの可能性も下がるので、大きな安心材料になります。

Di2と電動ドロッパーポストの組み合わせにより、ハンドルバー周りからブレーキ以外のケーブルがなくなりました。これにより、見た目のすっきり感はもちろん、ケーブルがハンドルバーとぶつかる音も減りました。キャリパーの静粛性も向上していて、走行中にバイクから聞こえるノイズがほとんどないのが嬉しいです。
クランクアームの長さは、前回から変わらず165mmを選択しています。どんなセクションでも安心してペダルを回せるのを優先させたチョイスです。特に根っこや岩が連続するセクションでは、クランクの長さが路面とのクリアランスに大きく関わってきます。
次回Vol.3では、新型XTRホイールをレースに実戦投入する選手の声を含めたインプレに加え、新コンポーネントに込めた設計意図について、シマノ担当者への質問とインタビューをお届けする。
提供:シマノ、text: Jinya Nishiwaki、photo&edit: Makoto AYANO