トレックがMt.富士ヒルクライムで開催した「#ジブン超えチャレンジ」に、シクロワイアード編集部員・高木が挑戦。後編では、実際にトレックの軽量オールラウンドバイク「Madone Gen 8」で駆け登った富士ヒルの模様をレポート。初挑戦でゴールド獲得は成功したのか!?しなかったのか!?



トレックの「#ジブン超えチャレンジ」にシクロワイアード編集部員の高木が参加し、Mt.富士ヒルクライムに初挑戦 photo:Naoki Yasuoka

シクロワイアード編集スタッフと並行しつつ、Jプロツアーで走る私こと高木。前編では相棒となるトレックの最新エアロオールラウンドバイク「Madone SLR 9 Gen 8」の紹介と、試走を含む当日までの準備などをお伝えしてきた(前編記事はこちら)。

そのきっかけとなったのが、トレックが企画した日本最高峰の富士山へと挑むサイクリストたちを応援するキャンペーン、「#ジブン超えチャレンジ」だ。

チャレンジへのエントリーは、レース前日までにトレック公式LINEページで目標タイムを事前に登録するだけと、とても簡単だった。そのハードルの低さもあってか、なんとこの「#ジブン超えチャレンジ」には約2,000名(!)のエントリーがあったという。つまり、富士ヒルの参加者の約4人に1人が参加している計算になる。さすがトレック。日本での影響力は半端じゃない。

いよいよ待ちに待ったレース当日!

霧に包まれる早朝2時台。富士ヒルで相棒となるトレック Madone SLR 9 Gen 8をサイクルキャリアに積んで、早朝の高速道路で富士山へ向かう photo:Michinari TAKAGI

迎えた富士ヒル当日の6月1日。前日まで降り続いていた雨は上がり、曇り空の中にも太陽が見える天候に。ホッと胸を撫で下ろした高木の、当日の体重は59kg。富士ヒル挑戦が決まってから1.5kgほど身体を絞っての本番となった。全国各地ヒルクライムイベントが行われているが、そのどれもがスタート時刻は朝早い。富士ヒルもご多分に漏れず早朝スタートとなるため、午前2時台に家を自家用車で出発。途中で取材に同行する編集部の先輩を拾い、富士北麓公園を目指した。

走るエネルギー源として重要なのが朝食だ。レーススタートの3時間前までには固形物の食事は済ませておくのが、Jプロツアーでもお馴染みとなっているルーチン。高木がスタートする第3スタートは6:40~7:10であるため、逆算すると3:40~4:10に食事を済ませなくてはならない。

Madoneをサイクルキャリアから下ろしていく photo:Naoki Yasuoka

トレック RSL エアロウォーターボトル&ケージを1つにして、軽量化を図った photo:Naoki Yasuoka

途中でSAに寄って食事を済ませ、富士山を目指して真っ暗な早朝の高速を駆け抜けていく。会場が近づいてくると、富士山の姿が見えてきた!

そして会場である富士北麓公園の駐車場がオープンする4時過ぎに到着。富士山の北側の麓ということもあり、寒さを覚悟していたが、気温も10℃で日も昇り始めているため、想定よりも暖かく感じた。蓋を開けてみれば、この日は最高気温は21℃で、降水確率は0%と絶好の自転車日和だった!

Madoneをサイクルキャリアから下ろし、ローラーにセット。移動で凝り固まった身体を解しつつ、ウォーミングアップをしていく。40分ほどローラーで身体に刺激を入れ、レースモードに切り替えていく。

移動で凝り固まった身体を解しつつ、ウォーミングアップをしていく photo:Naoki Yasuoka

バイクに合わせてトレック RSLロードシューズを使用 photo:Naoki Yasuoka

普段のロードレースでは5~20分ほど前にスタートへ向かっている。しかし、取材に向った先輩から「もうスタート整列かなり並んでるよ」とLINEが着弾。慌ててスタートの30分前に行くと、すでに第3スタートには多くの参加者が並んでおり、結局6番目グループの列に並ぶことに。周りを見れば、軽量化された参加者のバイクが並んでいた。参加者のバイクはJプロツアーとは違ったバイクチョイスやセッティングなので、見ているだけで面白い。

そして6時30分になり、シクロワイアードでも毎年レポートをお届けしている主催者選抜クラスが号砲と共にスタート。6時40分になると第3グループも続々とスタートしていく。初めての富士ヒルということで、事前にYouTubeやSNSで富士ヒル参加者の車載動画を見て勉強した甲斐もあり、大会の雰囲気は掴めている。

いよいよスタートの時。自分を超えられるのか俺?!

スタート前は緊張しつつも、リラックス派です photo:Masaki Kobayashi

そして、やってきたスタートの時。第6グループの先頭から順に選手たちが動き出し、自分もペダルキャッチして走り出す。スタートエリアでは毎年声援を送る絹代さんと、シクロクロスのMCでお馴染み小俣雄風太さんのエールを受けながら、まずは計測開始地点を目指す。

そして、胎内洞窟入口交差点に到着。この先が計測開始地点だ。この辺りまでくると、Jプロツアーとはまた違った緊張感に心拍数も上がってきた。

今回の目標は1時間5分切りのゴールド。自分を落ち着かせるために手元のステムに目をやると、そこには事前に貼り付けた目安タイム表がある。このペース通りに登っていけば目標は達成できる。

色ごとの目安タイム表 (c)Mt.富士ヒルクライム

スタートの号砲が鳴らされ、富士山の五合目まで登坂距離24km、平均勾配5.2%、最大7.8%、標高差1,255mの初挑戦が始まった。スタート直後の料金所までも勾配がきつく、スタートしたばかりでアドレナリン全開で踏んでしまいそうだが、オーバーペースにならないように体重の5倍のパワーまでに抑えていく。

しかし料金所を過ぎても勾配はキツく感じられ、1合目の看板までは焦らず、必要以上に踏みすぎないように気を付けた。身体を絞り、さらにMadoneのボトルケージを一つにする軽量化によって、ペースとしては良好だ。

そして最初のチェックポイントである1合目の看板を通過。抑えめに入ったつもりだったが、5km地点のタイムは14分29秒と、目安タイムより27秒速いペースだった。しかし後半に標高が上がるにつれてパワーが落ち、ペースも落ちることを考慮すると、少々速いくらいでちょうどいいはずだ。

ゴールドトレインに乗車し、先頭交代をしながら協調していく photo:So Isobe

2合目の区間に入ると、周りの参加者のペースも落ち着き、自然と富士ヒル名物の多くのトレインが形成されていた。それはまるで、2017年から2019年まで開催されていたハンマー・シリーズの種目、ハンマーチェイスのよう。

それぞれのトレインはゴールドやシルバー、ブロンズをそれぞれ目指していくためのもの。背中のゼッケンに記載があるタイムでどの色のトレインかは大体わかる。参加者とコミュニケーションを取りながら、ゴールドを目指すトレインを探していく。

ブラケット部分は350mmで、腕を絞ったエアロフォームが可能 photo:So Isobe

そして多くのトレインを抜き去り、お目当てであるゴールドを目指すトレインを発見。そのローテーションに加わり、先頭交代をしながら通過した10km地点では28分3秒。目安タイムより16秒早く、まだ持ちタイムには余裕があった。

まさかのハプニング発生!!…からの最後の追い込み

しかし、3合目の看板に差し掛かる、標高1,786m地点。ここでまさかのアクシデントが発生する!

順調に登っていったが、足攣りに見舞われてしまう photo:So Isobe

なんと、ここ3年以上起きていなかった足攣りに見舞われてしまったのだ。最初は左の脹脛、そしてかばうようにペダリングをしていた右の脹脛も…。中切れは万死に値するため、トレインに迷惑が掛けないようローテーションを離脱。

細かく水分補給をしていたが……回復の兆しはない。しかし、慌ててもしょうがない。背中のポケットに保険で入れていたジェルを摂取し、自分を落ち着ける。そして攣った脚をセルフマッサージして、何とかペダリングできるようになった。

両脚が攣らないギリギリの加減でペダリングを続け、15km地点を42分18秒で通過。なんとか誤魔化しながら進むことができてはいたのだが、この時点で目安タイムよりも22秒も遅く、いよいよ余裕がなくなってきた。残り10km……ここからは単独で踏み続けていく。孤独な闘いだが、これもまたヒルクライムだ……。

両脚が攣らない、ギリギリの加減でペダリングを続ける photo:Naoki Yasuoka

と思いきや、どうにかペースの合う別のトレインに合流でき、次なるチェックポイントである4合目を目指す。さすが、日本最大のヒルクライムイベントだけのことはある。ラッシュアワーの山手線と良い勝負の密度で次々と列車がやってくる。

20km地点の通過タイムは56分18秒。目安より31秒の遅れ。しかし今回の目安タイムは30秒の余裕があるように設定したため、まだゴールドの可能性はある。

「編集者となるにあたり、大切な心構えがある。『締切』と『本当の締切』、『これ以上は本当にどうしようもない大マジの締切』を設定しておけ」と先輩たちから指導されてきたことが、ことここに至って効いてくることになろうとは。きつく、苦しい中でも、心に鞭を入れ、痙攣寸前の脚に力を込める。

幸い最終区間は平地もある。この頃から脚の痛みに加え、疲労も出てきたが、そんな時でもMadoneのエアロ性能は背中を押してくれていた。このバイクであれば、他の多くの参加者よりも絶対に楽が出来ているハズ。そう信じてハイペースで巡航していくと、フィニッシュ手前のスノーシェッド区間が見えてきた。

アレが見えたらまであと少し!

全身を使って、ラストスパート photo:Naoki Yasuoka

フィニッシュラインに飛び込んだ photo:Naoki Yasuoka

力を絞り出すように身体を屈め、エアロポジションでプッシュしていく。そして、5合目のフィニッシュ地点が見えたら全身を使ったダンシングでスプリントを開始。完全に自分の限界を超えながら、フィニッシュラインに飛び込んだ。

ゴール!……そして、次の挑戦へ

タイムは1時間5分26秒。ゴールドには、僅か26秒届かなかった。

力を出し切きり、オールアウト photo:Naoki Yasuoka

人生に一度しかない"初挑戦"。「#ジブン超えチャレンジ」を通して、富士ヒル初挑戦でゴールドを取るためにバイクを用意して頂き、短い期間となったがトレーニングに臨み、身体も絞ってきた。そんな恵まれた環境を持ってしても、今回はチャレンジ失敗に終わった。

言い訳はいくらでもできるが、ロードレースにタラレバがないように、ヒルクライムでもタラレバはない。悔しい……本当に悔しい……。他の選手と争うロードレースとは違う、自分だけに原因がある、自分との戦い特有の悔しさ。

タイムは1時間5分26秒。ゴールドには、僅か26秒届かなかった。 photo:Naoki Yasuoka

しかし一方で、挑戦できたことの達成感もそこにはあった。実際、初めてスバルラインに上ったタイムは72分、試走では66分10秒と、登るたびにタイムは縮まっていたし、短期間ながらも目標に向けたトレーニングと減量は、目に見える成果が出ていたから。

各々が過去のジブンと相対し、それぞれの目標に向かって努力し、それぞれの答えを五合目で見つける。

きっと、これが富士ヒルに魅了される理由なんだ。

フィニッシュパネルの前で記念撮影 photo:Naoki Yasuoka

共にチャレンジしてくれたトレック Madone SLR 9 Gen 8とシクロワイアード撮り photo:Naoki Yasuoka

下山荷物の受け取りエリアに向かうと、笑顔の参加者で溢れかえっていた。目標を達成した人も、できなかった人も皆、笑顔で参加者同士、健闘を称え合っていた。そんな光景を目の前にして、この同じ時を一緒に過ごせて良かったと、心の底から思えた。

初めて訪れたレース当日の5合目は、気温10℃付近とやはり下界よりもかなり寒い。冬用のジャケット、インナー、ウォームアップタイツ、グローブ、ウールソックスを身にまとい下山していく。25kmも下るため、コースのあちこちで先ほどの走っていた自分を思い出し、悔しさが込み上げてきた。

富士北麓公園でシルバーリングが手渡された photo:Naoki Yasuoka

長い下山を安全に下りきった先で、シルバーリングが手渡された。そして、トレックブースに向かうと「#ジブン超えチャレンジ」の参加者が特製サコッシュやボトルなどを受け取り、特別に用意されたフォトスポットで記念撮影をしていた。

そんなみんなの姿が、輝いて見えた。別にサコッシュやボトルが欲しかったからじゃない。いや、正直なところそれはそれで欲しかったけども、それ以上に目標を達成できた姿がキラキラしていて、眩しかったのだ。

来年も「#ジブン超えチャレンジ」に挑戦できる機会があれば、リベンジしたい。今のままじゃ、高木はキラキラを知らないままだ。

トレックブースに帰ってきて、改めて悔しさが込み上げてきた photo:Toshiki Sato

「#ジブン超えチャレンジ」に挑戦できて良かったです!またチャンスがあれば、リベンジしたい。 photo:Toshiki Sato

富士ヒルを終えた、私、高木はこれから、6月の全日本選手権ロードレースとJプロツアーのレースに向かって、今シーズンのチャレンジは続いていく。

そして、来年の富士ヒルまで、すでに1年もない。

来年は一段と成長したジブンで、過去のジブンを越えていきたい。

text:Michinari TAKAGI
photo:Toshiki Sato、Naoki Yasuoka、So Isobe