2日目 大三島〜新居浜 走行距離:96.20km、獲得標高:771m
明け方には雨が降っていた。軽い小雨だが、春にはまだ早い季節の雨は自転車旅には厳しい。旅館さわきで焼き魚と味噌汁、炊きたてご飯にいくつもの副菜の「正しい日本の朝食」をいただき、出発。今日はいくつかの島の裏側ルートを回って今治に戻り、新居浜まで走るつもり。
旅館さわきでの朝食テーブル。孤独だがコロナ時代の感染防止ソロ朝食のしつらえだ
四国一周「おもてなし宿」指定宿泊施設でもらえるマスクと除菌スプレーのセット
大三島のサイクリングロードは山の中へと分け入っていくことも photo:MakotoAYANOサイクリングロードをたどって山の中に入った途端、上がったと思っていた雨がまたぱらついてきた。濡れるとまずいとは思いつつ、雨宿りができるような屋根が見当たらないまま走り続けてしまう。ジャージはすっかり濡れてしまい、早めに停まってレインギアを着込んでおけばよかったと後悔した。冬の雨は危険だけど、気温が高めだったので事なきを得る。
静かでクルマの居ないサイクリングロード。屋根のないところで雨に降られてしまった photo:MakotoAYANO
しまなみ海道のあちこちで見かけるみかんの自動販売機 空き家の屋根を借りてレインウェアを着込み、しばしの雨宿り。雨があがって走り出してすぐ、多々羅大橋の付け根にできたWAKKA(ワッカ)を見つけ、訪問することに。WAKKAは自転車の「輪っか」から名付けられた、ドームテント型のホテルやコテージ、カフェ、自転車による体験型アクティビティを提供するサイクリング総合施設だ。
多々羅大橋たもとにあるサイクリストホテル WAKKA(ワッカ) カフェのオープンテラスや宿泊棟は瀬戸内海に面し、多々羅大橋、生口島その他の島々、本州側などが望める。カフェの自席まで自転車を持ち込むことができ、日本で3本の指に入るバリスタの淹れる本格的なコーヒーを楽しめるほか、地元産の有機野菜やお肉、魚介類、果物を素材とした料理やドリンクが楽しめる。
テラス席は陽の光を浴びながら橋と海の風景を眺められる
WAKKAの前には開放感いっぱいの芝の広場が広がる ドミトリーもあるのでひとりから宿泊でき、ドームテントを模したホテルや日当たりの良いテラスを備えたコテージもごきげんだ。各種のサイクリスト向けツアーも用意され、滞在してサイクルツアー三昧が可能。サイクリスト専用タクシーに、船による海上タクシーまで揃え、シップ&ライドによるアイランドホッピングや、トラブルでのリタイアの際のサポートも万全という、しまなみ海道を訪問するサイクリストにとってまさに夢のようなサービスを展開している。
宿泊棟のテラスから海と橋の風景を眺めながらくつろげる
宿泊棟は南向きで日当たりが良く、海が眺められる
オーシャンビューのドームテントでグランピングもできる 村上あらし代表に隅々まで案内して頂き、最高なサイクリストホテルだということが分かった。聞けば村上さん、東京でIT系の会社を経営していたが、ビジネスごと会社を売却し、それを資金に祖父の故郷に近いここ大三島にWAKKAを起業したと言う。よくよく聞いてみれば東京で自転車つながりのある共通の友人の名前が何人か出てきて、つながっているんだなぁ、と思った。
故郷を盛り上げたい想いで起業したWAKKAの村上あらし代表
S.O.Sリタイヤサービスにも対応するWAKKAのサイクリストタクシー
アイランドホッピングなどでサイクリストが利用できる海上タクシー
E-Bikeやトロリーも用意され家族で楽しめるレンタルバイク WAKKAはどのサービスメニューも洗練されている。村上さんはホテル経営やサービス業とは無縁だったのに、ご先祖様の土地でビジネスがしたい、自転車としまなみ海道が大好きとの思いでの世代を超えた「Uターン」転職だとか。ゼロからこんなサービスを立ち上げるなんて、どんだけスゴイ自転車愛と郷土愛ですか。
ソロ&手軽な値段で泊まれるドミトリー棟。室内にバイクラックがある WAKKAがあまりに素晴らしくて、10kmしか走ってないけど泊まりたいと思った。けど、今日は新居浜まで行こうと決めていたので止まれない。今度来ることがあればWAKKAに泊まろう。いや、WAKKAに泊まるためにしまなみに来よう。それだけの価値がある。後ろ髪を引かれる思いで走り続けることに。
島の斜面を縫うように走るサイクリングロード
サイクリングロードには各スポットまでの距離が明示されている 橋のたもとの 道の駅 多々羅しまなみ公園にある、サイクリスト聖地の広場で橋をバックに写真を撮るのはお約束。何人ものサイクリストが写真を撮るのに順番待ちしていた。
多々羅大橋の「サイクリスト聖地」はマスト立ち寄りスポットだ photo:MakotoAYANO穏やかな瀬戸内の海が表情を変えるのがここ多々羅海峡から来島海峡にかけて。激しい潮の流れはまるで川のようで、渦を巻く様が間近に見られる。ここはその昔、海賊の村上水軍が活躍した一帯で、海峡に浮かぶ要塞のような島も眺められる。通りがかったちょうどそのとき、地元の釣り人が見事なチヌ(黒鯛)を釣り上げていた。真鯛の大物もよく釣れるということで、愛媛の名物が鯛めしであることがわかるとおりの豊穣の海。
多々羅海峡の激しい潮流を横目に島の道を走る
まるで川のような潮の流れ。鯛などの魚影も濃い
地元の方がチヌ(黒鯛)を釣り上げていた
多々羅大橋を眺めながらサイクリングロードを走る photo:MakotoAYANO大三島ではまたブルーラインを外れて島の外周路を走ってみた。裏道ライド好きのクセがでて、林道みたいな細道を攻めていたら好きなタイプの醜道になった。交錯する遍路道や歩道。あちこちさまよっていたら、観光地ではまったくないディープな島の風景を楽しめた。
しまなみ名物のレモンがあちこちに栽培されていた
遍路道やサイクリングロードなどの分岐。裏道を探すのが楽しい
来島海峡大橋を大島側から眺める
大島の裏側の外周路。グラベル寸前の細い酷道になった おかげでかなり時間をくってしまい、今治側に戻ったらすでに13時。今治市に住む門田さんからダイレクトメッセージで新居に招かれ、コーヒーを頂いてしばしおしゃべり。「ぼっち旅」だから、声をかけてもらったらどこでもホイホイと顔を出します(笑)。
来島海峡大橋へ向けて螺旋状のサイクリングロードでアプローチ
今治市郊外に住む門田基志選手の自宅を訪問した
伊予西条に入ると四国最高峰の石鎚山系が目前に迫ってくる photo:MakotoAYANO次は西条へと向かう。伊予西条駅に近いサイクルショップのB-shop OCHIの越智 健二さんを訪問。昨夜にフェイスブックに旅の様子を投稿したら、「ぜひ補給に立ち寄ってください」とレスをいただいていたのだ。越智さんは愛媛と四国のサイクリング振興に多大な貢献をされている事情通で、お仕事でもよくお世話になっている。美味しいお菓子をいただいておしゃべりしていたら、隣の新居浜市から自転車関係の知人の鈴木博宣さんもやってきて、明日は一緒に走ろうということに。皆さんがFBやtwitterの投稿を見てくれていて、すぐに会いにきてくれることになるのはSNS時代ならでは。
B-shop OCHIの越智健二さんを久々に訪問。西条周辺のグラベルにも精通している
伊予西条のWINDS BIKES 田坂夫妻と再会。かつて一緒に四国八十八ヶ所巡りを走った仲 日が傾きかけてきた。今夜の宿をまだ決めていないことを気にしつつ、お次もすぐ近くのサイクルショップ WINDS BIKESに立ち寄る。店主の田坂勝彦さんと妻の幸子さんとは、1993年にツール・ド・空海という自転車ラリーイベントで四国八十八ヶ所巡りライドを共にした仲。
立て続けに懐かしい方々にお久しぶりに会って話が尽きなかったけど、日が暮れたので隣の新居浜市へと向かう。じつは新居浜はボクの中学2年生までの育ち故郷。離れて以来の再訪だから、新居浜に泊まることがこの四国旅の大きな楽しみになっていた。
予約なしの飛び込みで泊まったスーパーホテル新居浜(翌朝に撮影) 日の暮れた18時過ぎ、予約無しで市街のビジネスホテル スーパーホテル新居浜に飛び込みで泊まる。自転車旅であることを伝えると、広めの部屋をとっていただけたうえに自転車も部屋に持ち込みさせてくれるという。こうしたサービスはフロントに立つ人の判断にもよるのだろうけど、ビジネスホテルらしからぬ柔軟で臨機応変な心遣いが嬉しかった。何にせよ故郷で暖かく迎えてもらうのは嬉しいことだ。
近くの食事処で晩飯とビールでひとり乾杯を済ませ、急いでホテルの部屋へと帰る。19時半からNHKで「ブラタモリ」を観るために。この回の番組は“瀬戸内の覇者”こと村上海賊がテーマ。まさに今日走ってきた辺りとWAKKAが登場した。その昔、潮流の激しい来島海峡を拠点に芸予諸島を中心とした中国地方と四国地方を牛耳った海賊・村上水軍について掘り下げる内容で、歴史が苦手の自分にとってもタイムリーで面白く観れた。
スーパーホテル新居浜では広い部屋の提供と自転車の持ち込みを容認してくれた 走った距離は96kmと伸びなかったが、長い一日だった。子供時代に過ごした懐かしい風景を楽しみながら走り、道すがら会いたい人を訪ねて、おしゃべりにめちゃ忙しい一日だった。マスク越しだけど、これからのことや、共通の趣味である自転車のことについて短い時間でも語り合えたのが嬉しかった。
コロナの状況的に人と会いにくい状況がしばらく続きそうだけど、やっぱり対面でお話できるって素晴らしい。ソロとはいえ移動を続ける自分は気を遣うところで、人と会う直前には自分に消毒スプレーをかけまくってからにしている。一日に何回もアルコールシャワーを浴びてると酔いそうです(笑)。
明日は高松を目指すことにする。この先の宿の予約を抑えようかとも思ったけど、人としゃべるのも楽しいし、好きなところで立ち止まれるノープランの“行きあたりばったり旅”でもいいんじゃないかと思えてきた。
そして今日も会った門田さんに言われて気づいたこと。門田さんとは2013年に台湾一周サイクリング Formosa900をご一緒しているのだけど)、台湾と四国の両方の島一周サイクリング「環島(ホァンダオ)を達成したサイクリストには、愛媛県と台湾の協定によって四国・台湾ダブル一周達成ジャージが進呈されるとか。よし、それを目指して頑張ってみよう! ノープランの旅に思いがけず小さな目標ができた。
この旅の写真はすべてスマホ(iPhone12pro)で撮影しています。
四国一周サイクリング 記事一覧
写真と文:綾野 真、取材協力:愛媛県自転車新文化推進協会