あのDOGMA Fの血を引くレーシングバイク──新型「Fシリーズ」のペダルを踏み出した瞬間、セカンドグレードという認識は消えてしまった。
ピナレロが2026年モデルとして発表した新型Fシリーズ。イタリアの現地発表会でその中核モデルであるF7に試乗する機会を得た私は、1級山岳を含むタフな80kmルートでその実力を確かめることに。美しく、そして強い。DOGMA Fと同じメッセージを纏ったF7は、決してセカンドグレードでは語れない完成度と走りの質を備えていた。

筆者が乗ったF7。T900カーボンのフレームにULTEGRAを装備した上級完成車だ photo:So Isobe

DOGMA Fと同じTALON ULTRAFASTハンドルバーを装備する photo:So Isobe 
DOGMA Fの流れを汲む美しいスタイリング。細部にまでピナレロの美意識が宿る photo:So Isobe
Fシリーズの試乗車として用意されたのは、最上級のT900カーボンフレームにシマノULTEGRAを組み合わせ、ピナレロがプロデュースするMOSTのULTRAFAST 45ホイールとTALON ULTRAFASTハンドルバーを搭載した「F7」完成車。青みがかったパールホワイトの車体は、イタリアの太陽の下で見るといっそう艶やかで、その立ち姿はフラッグシップのDOGMA Fにまったく引けを取らない。
この美しさは上級グレードのF9やF7だけでなく、エントリーモデルのF1であっても共通することだった。視線を引きつけて離さない存在感は、他ブランドのハイエンドモデルと肩を並べても遜色がない。むしろ「本当はDOGMAが欲しかった」という層にも、きっと満足感を与えてくれるほどの説得力。イタリアンブランドといえどもボトムグレードにまでこのスタイリングを徹底できるのは、やはりピナレロならではだ。
試乗コースのは「ポッジオの壁」の頂に佇む小さなホテルを発着する80kmのループだ。しかも、今年の女子ジロ・デ・イタリアの第4ステージに登場した1級山岳ピアネッツェを登るヒルクライム&ダウンヒルが含まれたタフなもの。眺望の利かない森の中をひたすら登るピアネッツェはかなりキツかったが、それでも強さに満ちあふれたFシリーズの走りは、コースを攻める勇気を与えてくれるのだった。

15kmに及ぶ1級山岳ピアネッツェを全員で登った。今年の女子ジロにも登場し、総合成績を大きく揺るがした峠だ photo:Pinarello
DOGMA Fを筆頭に、ピナレロのレーシングモデルに共通するのが、踏み出しから高速域までの淀みない加速感だ。ヘッドからリアエンドに至るまで剛性に満ち溢れ、「踏めば踏んだだけ」という枕詞が相応しいほど、フレームはみなぎるパワー感をもって路面を蹴り飛ばしていく。
これまで何度も参加させてもらったメディアプレゼンで試した歴代DOGMAは全てそうだったし、前日に試乗したDOGMA GRも、2年前に乗った先代Fシリーズもそう。そしてこの新型F7も、間違いなくピナレロレーシングバイクの血脈ド真ん中の乗り味だ。
DOGMAに倣い、もはやタイムトライアルバイクかのようにボリュームアップしたボトムブラケット周辺の塊感は凄まじく、どんな踏み方をしてもパワーがしっかりと路面へと伝達され、力強くバイクを前に押し出してくれる。何にも引っかかることなく、ペダルがスッと下死点に向かって落ちていくピナレロの特徴をよく引き継いでいて、「良いバイクに乗っている感覚」がとにかく強い。

ピアネッツェを登る筆者、磯部。強さに満ちあふれるF7の走りに攻める勇気をもらった photo:Pinarello 
基本は硬質なレースモデルだが、DOGMA Fよりも懐は広い。加速が素早いのでヒルクライムも得意だ photo:Pinarello
綺麗なペダリングを心がけることがFシリーズを上手く走らせるコツであることには変わらないが、思いきり踏み込んだ時のトルクの強さ、ルーラーのようにブラケットを握っての平坦巡航、登坂での切れ味の良さなど、どれをとっても走りはレーシングバイクそのも。目をつぶったらこれがセカンドグレードだなんて信じられない芯の強さがある。
乗り始めこそ「これは疲れそうだな」と心配になったものの、ハイエンドのDOGMA Fと比べてみると、踏み味はマイルドチューニングされていることに気づいた。DOGMA Fは乗り味も踏み味もとにかく硬く、思いきり踏み込まないとウィップが生まれず、それ以下のワットでは常に真円を描くペダリングを要求されるが、F7はもう少し幅広いゾーンを許容してくれる。流して走っているとその高い剛性を、重さとして感じることもあるDOGMAと違い、Fシリーズはツーリングペースでも気持ち良く走ることができる。

タフなピアネッツェを登りきった。集団前方ではハイレベルな戦いが繰り広げられた(らしい) photo:Pinarello

ダウンヒルを思い切り攻めてみた。とにかくシャープで切れ味が鋭く、倒し込みの速さも際立っている photo:Pinarello
ペダリングのリズムが早いから、ハイテンポで峠の登りに挑むのも得意だ。カチッとしたフレームはバイクを振った時の切れ味にも通じていて、コーナリングもシャープそのもの。テクニカルなダウンヒルでは鬼のように速いピナレロスタッフに何とかついていったが、コーナーでは「タメ」を作ることなくスパスパと切り返せるし、その限界が掴めないほどに、どこまでも倒し込める。あくまでレーシングバイクゆえ、Xシリーズ(エンデュランスモデル)と比べれば乗り味は硬質なので、タイヤのセッティングで快適性を調整したいところだ。
仲間と競り合うことがなく、いくつも峠を越えていくようなライドスタイルにピッタリ合うのはDOGMA Xを筆頭にするXシリーズ。一方でFシリーズは、乗り味や戦闘的なジオメトリーも含めてピュアに「速さ」を求めたレーシングバイクだ。イネオス・グレナディアーズの活躍で「レース用途=DOGMA」の印象が強いものの、実質的な値段も含めればこのFシリーズがホビーレーサーの需要の多くを担うことになるのだろう。

DOGMA F同様、Fシリーズは「乗り手をハイにさせてくれるバイク」。ピナレロの哲学を色濃く感じる一台だった photo:Pinarello
試乗したF7、そして共通フレームのF9は、ハイエンドを喰って落とせるセカンドグレードモデル。試乗会ではF5以下のグレードに乗る機会は無かったが、これまでの通例から言えば、T700カーボンを使うF5、そしてT600カーボンを使うF1はもう少しマイルドな乗り味になっているはず。
グラベルとロードを1日ずつ乗り換えて試す濃密な2日間。その中でもFシリーズは、DOGMA GRやGREVIL Fと並び、「乗り手をハイにさせてくれるバイク」として強く印象に残った。価格やスペックにかかわらず、ピナレロがレーシングモデルに込める哲学は揺るがない。そんなことを実感させてくれる一台だった。
ピナレロが2026年モデルとして発表した新型Fシリーズ。イタリアの現地発表会でその中核モデルであるF7に試乗する機会を得た私は、1級山岳を含むタフな80kmルートでその実力を確かめることに。美しく、そして強い。DOGMA Fと同じメッセージを纏ったF7は、決してセカンドグレードでは語れない完成度と走りの質を備えていた。
イタリアの1級山岳コースでFシリーズに乗る



Fシリーズの試乗車として用意されたのは、最上級のT900カーボンフレームにシマノULTEGRAを組み合わせ、ピナレロがプロデュースするMOSTのULTRAFAST 45ホイールとTALON ULTRAFASTハンドルバーを搭載した「F7」完成車。青みがかったパールホワイトの車体は、イタリアの太陽の下で見るといっそう艶やかで、その立ち姿はフラッグシップのDOGMA Fにまったく引けを取らない。
この美しさは上級グレードのF9やF7だけでなく、エントリーモデルのF1であっても共通することだった。視線を引きつけて離さない存在感は、他ブランドのハイエンドモデルと肩を並べても遜色がない。むしろ「本当はDOGMAが欲しかった」という層にも、きっと満足感を与えてくれるほどの説得力。イタリアンブランドといえどもボトムグレードにまでこのスタイリングを徹底できるのは、やはりピナレロならではだ。
試乗コースのは「ポッジオの壁」の頂に佇む小さなホテルを発着する80kmのループだ。しかも、今年の女子ジロ・デ・イタリアの第4ステージに登場した1級山岳ピアネッツェを登るヒルクライム&ダウンヒルが含まれたタフなもの。眺望の利かない森の中をひたすら登るピアネッツェはかなりキツかったが、それでも強さに満ちあふれたFシリーズの走りは、コースを攻める勇気を与えてくれるのだった。
淀みない加速、満ち溢れる剛性。これぞピナレロのレースモデル

DOGMA Fを筆頭に、ピナレロのレーシングモデルに共通するのが、踏み出しから高速域までの淀みない加速感だ。ヘッドからリアエンドに至るまで剛性に満ち溢れ、「踏めば踏んだだけ」という枕詞が相応しいほど、フレームはみなぎるパワー感をもって路面を蹴り飛ばしていく。
これまで何度も参加させてもらったメディアプレゼンで試した歴代DOGMAは全てそうだったし、前日に試乗したDOGMA GRも、2年前に乗った先代Fシリーズもそう。そしてこの新型F7も、間違いなくピナレロレーシングバイクの血脈ド真ん中の乗り味だ。
DOGMAに倣い、もはやタイムトライアルバイクかのようにボリュームアップしたボトムブラケット周辺の塊感は凄まじく、どんな踏み方をしてもパワーがしっかりと路面へと伝達され、力強くバイクを前に押し出してくれる。何にも引っかかることなく、ペダルがスッと下死点に向かって落ちていくピナレロの特徴をよく引き継いでいて、「良いバイクに乗っている感覚」がとにかく強い。


綺麗なペダリングを心がけることがFシリーズを上手く走らせるコツであることには変わらないが、思いきり踏み込んだ時のトルクの強さ、ルーラーのようにブラケットを握っての平坦巡航、登坂での切れ味の良さなど、どれをとっても走りはレーシングバイクそのも。目をつぶったらこれがセカンドグレードだなんて信じられない芯の強さがある。
乗り始めこそ「これは疲れそうだな」と心配になったものの、ハイエンドのDOGMA Fと比べてみると、踏み味はマイルドチューニングされていることに気づいた。DOGMA Fは乗り味も踏み味もとにかく硬く、思いきり踏み込まないとウィップが生まれず、それ以下のワットでは常に真円を描くペダリングを要求されるが、F7はもう少し幅広いゾーンを許容してくれる。流して走っているとその高い剛性を、重さとして感じることもあるDOGMAと違い、Fシリーズはツーリングペースでも気持ち良く走ることができる。


ペダリングのリズムが早いから、ハイテンポで峠の登りに挑むのも得意だ。カチッとしたフレームはバイクを振った時の切れ味にも通じていて、コーナリングもシャープそのもの。テクニカルなダウンヒルでは鬼のように速いピナレロスタッフに何とかついていったが、コーナーでは「タメ」を作ることなくスパスパと切り返せるし、その限界が掴めないほどに、どこまでも倒し込める。あくまでレーシングバイクゆえ、Xシリーズ(エンデュランスモデル)と比べれば乗り味は硬質なので、タイヤのセッティングで快適性を調整したいところだ。
仲間と競り合うことがなく、いくつも峠を越えていくようなライドスタイルにピッタリ合うのはDOGMA Xを筆頭にするXシリーズ。一方でFシリーズは、乗り味や戦闘的なジオメトリーも含めてピュアに「速さ」を求めたレーシングバイクだ。イネオス・グレナディアーズの活躍で「レース用途=DOGMA」の印象が強いものの、実質的な値段も含めればこのFシリーズがホビーレーサーの需要の多くを担うことになるのだろう。
「乗り手をハイにさせてくれるバイク」

試乗したF7、そして共通フレームのF9は、ハイエンドを喰って落とせるセカンドグレードモデル。試乗会ではF5以下のグレードに乗る機会は無かったが、これまでの通例から言えば、T700カーボンを使うF5、そしてT600カーボンを使うF1はもう少しマイルドな乗り味になっているはず。
グラベルとロードを1日ずつ乗り換えて試す濃密な2日間。その中でもFシリーズは、DOGMA GRやGREVIL Fと並び、「乗り手をハイにさせてくれるバイク」として強く印象に残った。価格やスペックにかかわらず、ピナレロがレーシングモデルに込める哲学は揺るがない。そんなことを実感させてくれる一台だった。
提供:カワシマサイクルサプライ
text:So Isobe
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