全力で走るアマチュアライダーに贈る最高峰モデル

どこを見ても「エアロ」の3文字が踊る現在のレーシングバイク市場において、プロスペックマシンの剛性とポジションはアマチュアが乗りこなすにはハードルが高すぎるものも少なくない。かといって、一般的なエンデュランスロードに目を向けると、快適ではあっても走りのキレに欠け、レースバイクの走りを愛するライダーには物足りない。
特に速さを求めてトレーニングを積んだ過去を持つ方なら尚のこと、「機材に妥協したくない」「まだレースバイクに乗っていたい」というストイックなプライドが足かせとなり、エンデュランスバイクを意識から遠ざけてきたことも多いはず。ことスポーツバイク界において、長く「エンデュランス」とは「妥協」を暗示するジレンマとなってきたからだ。
プロ選手でもなく、のんびり走りたいサイクリストでもない、最もバイク選びが難しい層にピナレロが贈るのがDOGMA X。トレヴィーゾの発表会で目の当たりにした実車は、息を呑むほどに美しかった。



DOGMA Fよりも曲線を多用したダウンチューブ周辺の造形は歴代モデルのどれよりもグラマラス。「エンデュランスモデル」を想起させる下向きベンドする先代のシートステーから、DOGMA Fを踏襲した直線的でアグレッシブなデザインへと刷新されたことも「速いバイク」としての佇まいをより強固にしている。ヘッドチューブからリアエンドまで隙なく研ぎ澄まされたそのフォルムは、イタリアの鮮烈な太陽の下でより一層引き立っていて、ブラックと青緑のメタリックが織りなす「Jade Eclipse」のペイントがとにかく美しい。
走りの中心にあるのは、ピナレロらしい、そしてDOGMAらしい確かな踏み心地だ。特にヘッドやフロントフォーク周辺の剛性の高さが生み出す芯が通ったような安定感は、ピナレロ製バイクに乗った経験を持つ方なら誰もが感じたことのある特有のもの。DOGMA Fを筆頭とするFシリーズはストイックなほど硬く剛性に満ち溢れているが、それらレーシングモデルと比較すると、DOGMA Xの乗り味は角が取れ、マイルドチューニングされていることが分かる。
筆者が借り受けたのはトップチューブ535mmの「51.5サイズ」で、ヘッドチューブ長は133mm。他社のエンデュランスモデルよりも遥かに低く、乗車ポジションは紛れもなくスポーティーだ。ブラケットを持っても、下ハンドルを持ってみてもその印象は変わらないし、スペシャライズドのTarmac SL9と比較すれば類似サイズでヘッドチューブ長は10mm少々しか変わらないのだから、もし普段からレースバイクに15mm以上コラムスペーサーを積んでいる方なら、DOGMA FではなくDOGMA Xがベストマッチ、ということになる。



感心するのは、DOGMA Xの優しさが「よくしなるシートポストがあるから乗り心地が良い」というような単純なものではなく、ハンドリングも、踏み心地も、乗り心地に至るまで、全てのベクトル上でバランス良く成り立っていること。少し逆説的になるかもしれないが、扱いやすいからこそ、(Fシリーズに感じるような神経を使うことなく)コーナーを攻めたり、限界まで踏み抜くことが容易で、その芯にある「ピナレロレーシング」を思う存分に味わえる。
車体と32mmのタイヤとのマッチングも素晴らしく、そこそこ荒れたグラベルにハイペースで突っ込んでも車体が跳ねず、凹凸を上から押さえ込むようにペダリングを続けることができる。DOGMA F比較で最大10%ほど落としたというボトムブラケット剛性も、レスポンス良い反応性は残しつつ、多少のペダリングのばらつきを吸収してくれる懐の広さがある。ペースアップした集団に飛び乗ることだって容易だし、脚残りが良いから長時間頑張り続けられることができるのはDOGMA Xならではのメリット。「エンデュランスバイク」というカテゴリーに属するとは言え、これまで試してきたバイクの中で、その走行性能はトップクラスに良い。



「まず誤解してほしくないのは、DOGMA Xは紛れもなくDOGMAだということです」と言うのは、今回発表されたDOGMA Xの開発の主軸を担ったピナレロのマッシモ・ポロニアート氏だ。「レース専用機であるDOGMA Fとは設計ターゲットが異なりますが、ピナレロがこの名を冠する以上、ハイスペックの象徴でなければなりません。だからこそFと同一の最高峰カーボンTORAYCA® M40Xを採用し、そのスタイリングにも徹底的にこだわりました」と彼は加える。
2023年に初登場した先代モデルで、この「ホビーライダーのためのレーシングバイク」というニッチなカテゴリーを切り開いたピナレロ。グラベルバイクの高性能化が進み、エンデュランスロードとの境界線がシームレスになりつつある現代においてもなお、タイヤクリアランスを最大35mmに留め、グラベルモデルのDOGMA GRに設定されたダウンチューブ内ストレージも採用せず、DOGMA Xをオフロードに傾向させることなく、あくまでロードバイクとしての性能向上に努めた。
だからこそ、日本ではまだ馴染みのない32mmタイヤを付けても走りは軽く、反応性が求められるタイトなワインディングでもダルさを感じることはない。先代と同じく、DOGMA Xに乗って一番最初に感じるのは快適性ではなく、一般的にレーシングバイクに期待する走りそのものだった。



「プロレベルの強靭な肉体を持たないアマチュアライダーには、DOGMA Fのジオメトリーはアグレッシブすぎる。でも、妥協なく走りを追い求めるサイクリストにも我々のバイクを届けたい」という、今回話を聞いた全てのプロダクトマンが口を揃えるピナレロの思いが、DOGMA Xのモデルチェンジへと繋がった。
フレームセットで127.6万円(税込)というハイエンドプライスを踏まえれば、ますます「エンデュランス」のカテゴリーに属するDOGMA Xを購入する判断は難しくなるだろう。しかし、DOGMA Xの存在は、瞬間的には速くても一瞬で足が売り切れるようなレーシングバイクではなく、1日のライド時間を最初から最後まで全力で走り切れるアマチュア向けバイクという、非常に現実的で、ポジティブな選択肢を提案してくれている。

DOGMA Xは、従来エンデュランスバイクが囚われてきたイメージを覆す「アマチュア向けのレーシングバイク」。軽さや剛性といった単純なスペック上の数値では見劣りするかもしれないけれど、その代わりに最も長時間、速さを維持できるバイクになる可能性を秘めている。スピードの魅力を諦めきれない、美しいバイクを求めるアマチュアライダーにとって最良の選択肢となり得るバイクがデビューを飾った。
筆者プロフィール
提供:カワシマサイクルサプライ
text:So Isobe
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