ツール・ド・おきなわ市民レース140kmオープンに優勝した田崎友康(F(t)Racing)。かつて市民200の常連で、何度も上位に迫ったものの叶わなかった表彰台の夢。しかし140オープンも200に次ぐ激戦区だった。ベテランらしい用意周到な走りの秘訣を明かしてくれる自筆レポートだ。



田崎友康(F(t)Racing) 「エアロ効果を重視してチームジャージでなくスキンスーツを選んだ」(写真はレース後) photo:Makoto AYANO

身体の状態や家庭とのバランスを考えて2年ぶりの参加となった今年は、市民140kmオープンにエントリーした。ツール・ド・ふくしまを終えてから、おきなわ140で勝ち切れるように自分なりに考え、必要なトレーニングと必要な準備をして臨んだ。

過去のおきなわでは、200kmで4位が2回、140kmで4位が1回と、表彰台まであと僅か届かずだったので、今回こそなんとしてでもポディウムに乗りたい、そんな強い気持ちをもってレースに臨んだ。

コンディション
体重55.2kg(土曜日の朝)CTL120 TSB+36
金曜日にグリコーゲンローディングで糖質を530gも摂取したにも関わらず、土曜日の朝の体重が今期最軽量の55.2kg。人体の不思議。体重コントロールとしては100点満点。パフォーマンスコンディションの方は、まぁいつもながら走ってみないことには分からない。オッサンの身体はコントロール不可能。

目標は優勝。湾岸サイクリング・ユナイテッド、Roppongi Express、TRYCLEなど強豪チームが複数人を揃えてきており、これらのチーム中心に展開されることが予想された。中でも湾岸の鵜沢選手は、先日のしろさとTTで高岡選手や我らがアダチ選手と遜色ないタイムを叩き出しており、本レースの大本命選手と考えられた。中盤以降、上記チームを含んだ逃げに入れれば、集団を抑える動きも期待でき、そのまま人数を減らしながら最後の羽地の登りで抜けだす、そんなイメージを持っていた。

田崎友康(F(t)Racing)のヨネックス CARBONEX SLD photo:Makoto AYANO

BIKE
バイク:ヨネックス CARBONEX SLD
ホイール:CADEX ultra50 
タイヤ:コンチネンタルGP5000TT 28c F3.0bar/R3.0bar
ギア:ROTOR楕円 52-36T、リア11-34
ペダル:アシオマ プロ RS
チェーンルブ:EXLUB
車体重量:6.8kg

WEAR
ヘルメット:カスクUTOPIA
ジャージ:Rule28 Road Race Skinsuit 2.0
インソール:田村義肢カスタムインソール
アイウェア:KOO DEMOS

バイク、ウェア共にエアロ性能に期待したアッセンブル。ウェアに関しては、レース中の最高気温が30度近い予報ではあったが、自分は暑さに強い自負があるので、ヘルメットもウェアも迷いなくエアロ重視の選択をした。

朝食
・食パン6枚切り3枚(自家製の味噌ハチミツジャムを塗って)
・コーヒー 1杯
・ZENニュートリション トラ 4錠
・MAGMA 2本

補給食は練習で普段から取っているもので用意 photo:Makoto AYANO

レース中の補給
・ボトル2本(デキストリン40g、ブドウ糖30g、フルクトース30g、塩少々、クエン酸少々)
・デカ羊羹✕1(糖質100g)
・糖質50g入りのジェル✕1
・Meitan ツーラン✕2
レースだからといって特別な補給食ではなく、練習で普段から取っているもので。

140kmのコースは、200kmコースの序盤である名護から国頭の60km区間をカットしたコース。いきなり与那の1回目の登りから始まる。ツールドおきなわの美味しいところを詰め込んだコースで、距離は短くとも厳しいコースプロフィール。

先行する3人を追う市民レース140kmオープンのメイン集団 photo:Makoto AYANO

スタート〜与那1回目
スタートの整列では隣に鵜沢選手が居た。「J-PROツアーの選手や、他にも強い選手が複数いる」と教えてもらう。しかし心の中で「貴方が大本命よ」と思いながら聞いていた。

スタート後はパレード走行。直後のトンネルで落車が多発するため、これは素晴らしい対応だと思った。1つ目のトンネルを過ぎてしばらくしてからリアルスタート。序盤は集団の動きが安定せず、落車のリスクが高いので前方へ移動。10番手ほどで1回目の与那へ。

山岳賞を狙う選手以外はいきなりカチ上げはしないだろうと思いつつも、何が起きるかわからないので前々で登る。

松山学院の中尾選手とMGMの櫻庭選手が積極的にペースを上げていく。かなり良いテンポ。このまま厳しい展開になってくれた方がありがたいと思いながらも、「このペースだとダメージが残るな」と考えていたら、気づけば4人で抜け出していた。

松山学院の中尾選手とMGMの櫻庭選手が積極的にペースを上げて抜け出す photo:Makoto AYANO

逃げを継続するか、前待ちにするか悩んだが、まだ先は長いので集団に戻る判断。2人を見送る。

路面が濡れていたので下りでの落車リスクを避けるため、淡々と集団から逃げ切る形で登り切る。単騎で下り始めたが、下りは乾いていて問題なくクリア。補給所の登り返しで集団と合流。

松山学院の中尾選手とMGMの櫻庭選手に続いた田崎友康(F(t)Racing) photo:Makoto AYANO

奥エリア
与那の下りが終わったところで、湾岸の鵜澤選手がスッと抜け出す。「やっぱり来たか」と思いつつも、想定より早いタイミングに驚く。ただこれは博打ではなく、先週のしろさとTTでの高岡選手やアダッチーと遜色ない走りを考えれば、集団が上げなければそのまま逃げ切れる力がある。しかも、他の湾岸勢が集団先頭で絶妙なペーシング。まさにチームプレーの見本。

感心している場合ではない。早く対処しなければ取り返しがつかないことにもなる。先頭付近の選手に声をかけ、前を追い始める。湾岸以外の強豪本命チームであるRoppongi Expressはローテに加わってくれるが、TRYCLEは集団中盤にステイ。後ろに下がって声をかけたが「自分で追えよ」との返事。複数人揃えているんだから1人ぐらい出してくれても...。まあ義務ではないし、そういう方針なら仕方ない。

単騎中心のメンバーで先頭を回し、奥の登りに入ったところで無事に鵜澤選手を無事キャッチ。しかしもう1人逃げているとの情報。与那で飛び出した松山の中尾選手だ。

ここで今度は鵜澤選手が集団に声をかけて前を追う流れを作る。その動きもあり、奥を登り切る前に松山の高校生もキャッチ。例年より奥の登りのペースが速かったので、集団にそれなりのダメージを与えられたはず。

奥の下りでは鵜澤選手から「一緒に逃げよう」と誘われる。TTスペシャリストらしい自信とチームへの信頼を感じた。複数人が乗ってくれれば面白いと思い動いたが、結局2人きり…。ブリッジしてくる選手もおらず、いったん仕切り直し。

ここまで、与那と奥で脚を使いすぎた感があり、この先の勝負所に不安を覚える。

与那2回目〜学校坂
2回目の与那の前、TRYCLE.ingが集団前方を固めて登りに入る。ここまで脚を温存してきた分、与那で仕掛けてくるのは間違いなさそう。警戒して入ると、案の定400W超のペースで牽引。そこから1人がアタック。

与那は18分近い登りなので慌てずペースで追う。櫻庭選手、中尾選手、キナンジュニアチームの大里選手、イナーメ長谷川選手らが前で牽引。この後の学校坂での彼らの動きがカギになると頭に入れる。

中盤でトライクルの選手をキャッチ。終盤にはクライマーのFOCUSおじさんが前を引き、山岳賞狙いとみてピッタリ付く。下りを挟んで大里選手が前を牽き、タイミングを見計らってペースアップ。山岳賞トップ通過!

下りに入っても集団が来ないので単騎で下る。補給所の登り返しで鵜澤選手が「行くよ!」と後ろから合流。下りめちゃ速い。脚を休めたいところだが、ここは勝負どころ。学校坂に繋がる重要局面なので全力で反応。すると目の前に桜庭選手の姿が。アレ...山岳賞...。また無駄足を使ってしまったことに気づき、精神的ダメージを負う。。いつ抜け出したんだろう?。集団は縦長のまま学校坂へ突入。

脚に不安を抱えつつ、序盤は周りに合わせて登る。思っていたより余裕があった、というより周りがそれほど上げなかったので、自らペースを上げ人数を絞っていく。「登り切れば少し休める」と言い聞かせてギリギリの強度で踏む。後半に差しかかり、「10人くらいになっていてほしい」と後ろを振り返ると、背後には誰もおらず100mぐらい後方に集団。3年前と同じ展開がフラッシュバック…。

あの時は弱気になって集団に戻り、結果的に10人以上のゴールスプリントになって失敗した。二の轍は踏まない。今回は踏み続ける。自分の強みは登り(※当社比)。後ろに追わせ、ブリッジを誘う。その中に勝機をかけた。

しばらくして10人ほどの小集団がやってきた。シャス!待ってたよ!!

やんばる路をいく市民レース140kmオープンのメイン集団 photo:Makoto AYANO

安波〜東村〜慶佐次
驚いたことに、そこに強豪3チームのの姿は無し。複数人を送り込んだチームも無く、健脚な単騎の集まり。与那で前を牽いていた選手たちは全員入っていた。メイン集団との差を広げるべく、まずは又吉コーヒーの登りまで淡々とローテーションしていく。

ローテはスムーズで、集団との差は分からなかったが、追い付かれることなく又吉コーヒの登りまできた。だがここで不安材料が...。持病の腰痛が悪化してきた。「高強度を出せるのはあと1〜2回」と悟る。

レース前からイメージしていたのは、次の有銘の登り(4分+3分)での勝負。そのため、又吉コーヒーと慶佐次の登りは無理せず周りに合わせる走りに徹することに。ただし逃げは絶対に見逃せないので前々で展開。多少ペースが上がったが、大きな動きなく通過した。慶佐次の補給所でスポドリをゲット。

有銘〜天仁屋
有銘手前でCOMから「後続とのタイム差1分と数秒」と伝えられる。トラブルさえなければ、この集団で決まりそうだ。

登りに備え、羊羹を多めに口に入れる。が、想定より早く登りに入ってしまい、口の中が羊羹地獄。窒息しかけながら咀嚼完了。上がったペースに合わせて少しずつ前へ。ペースを上げるのは櫻庭選手と長谷川選手だ。お互いの脚を探るように上げていく。

一つ目の登りで櫻庭選手と抜け出す形に。

二つ目の登りを前に、後ろから数名に猛烈な勢いで追い抜かれる。焦らず中腹でキャッチし、そのまま先頭でペース維持。かなりキツいが、ここで抜け出せれば羽地、そしてゴールまで行ける可能性が高い。我慢、我慢。

登り切って下りへ。近くから3人という声が掛けられる。深いコーナーを過ぎ、平坦に出る。ここで櫻庭選手、長谷川選手、自分の3人になった。

天仁屋〜羽地〜ゴール
この3人でローテを均等に回せば逃げ切りが見える。だが、腰が悲鳴を上げていて、さらに内転筋がピクピクして攣りそうな予兆。脚自体はもう一回ぐらいモガけそうな雰囲気だが。

ローテ先頭では250〜300Wをキープし、下がったら姿勢を変えて疲労を分散させる。そのまま後続に追いつかれることなく、ついに最終決戦の羽地へ。

ここまでの様子から櫻庭選手より長谷川選手の登坂力が脅威と考えられた。できればその後ろに入り、まずは様子を伺いたかったが、タイミング的に自分が先頭で入る。

予想通り長谷川選手がラインを変えてアタック。即反応し背後につく。一呼吸おいて前に出る。羽地の登りは約10分。その中盤、最初のトンネルまでは5分。「まずはそこまで」と心に決め、シッティングで淡々と踏み続ける。ダンシングは攣りのリスクがあるので、ここぞのタイミングがあるまで温存する。

思っていたより疲労が溜まっていてギリギリの状態。綺麗なペダリングを投げ捨て、引き足メインで無理やりパワーを出す。異様な集中状態だったのか、最初のトンネルが見えたときには「もう!?」という感覚。後ろからは音は聞こえない。ただ、怖くて後ろを振り返ることができない。すぐ後ろに見えたらメンタルが折れる。だから、ただ前だけを見て、ひたすら踏み続けた。

さらに2つのトンネルを通過し、先頭で下りへ。ここで後ろを見ると数名が見えるが、登りで別カテゴリーの選手を抜かしてきたので、同カテゴリーかは不明。ジャージの色もイナーメは緑だし、と、頭が回らず完全なる酸欠状態に。

下りは苦手ではないが、腰痛が辛くてエアロフォームを深く取れない。さらに、落車だけは絶対に避けたい。ここまで積み上げてきた全てが水の泡になる。冷静と情熱の間でセーフティーに下っていく。

オリオンビール工場を過ぎ、国道58号に出る直前、後方から4〜5名の選手が一気に迫ってきた。「マジか! スプリント勝負かよ!?」混乱する頭で必死に考える。しかし、ゼッケンの色が違う!58号に出て、最後の力を振り絞って踏みまくる。

Motoに「後ろ、どのくらい!?」と叫ぶと、「分からない!ガンバレ!」の声。もう、あとは自分との勝負だった。

――あ、このシーンだ。

何度も何度も、イメージしてきた。
少人数で羽地に入り…
最後は独走で58号を疾走…
Tポーズでゴールする
妄想に妄想を重ねた既視感のある景色の中を、ただただ全力で走り抜けた。

市民140kmを独走で制した田崎友康(F(t)Racing) photo:Makoto AYANO

Finishゲートが確実に近づいてくる。
もう間違いない。
信じられない。
優勝を目標にしてきたし、その展開を何度も描いてきた。
でも、本当にその通りになるなんて。

46歳にしてこの大舞台、140kmオープンレースを初制覇!

市民レース140kmオープン 優勝した田崎友康(F(t)Racing) photo:Makoto AYANO

おわりに
ツールドおきなわといえば、アマチュア日本一を決める市民200kmに注目が集まる。その舞台に挑む選手たちは、準備から当日まで、並々ならぬ努力と覚悟で臨む。まさに「やりがいしかない」レースだ。自分もその虜だった。

一方で、この大会には多くのカテゴリーがあり、それぞれの中に選手たちの想いとドラマがある。140kmオープンも然り。

2位の2位 櫻庭悠真(MGM GROMA RACING TEAM) photo:Makoto AYANO

動きが良かった松山学院の中尾選手 photo:Makoto AYANO

2年ぶりの参加となった今年は、腰の状態、家庭とのバランス、そして来年のグランフォンド世界選手権を見据えて市民140kmオープンカテゴリーを選択した。
そして“勝ち切る”ために、必要な練習をし、必要な準備をしてきた。

そうした先にあった今日のレース展開。そしてライバルたちとの熱い戦い。それらは自分の自転車人生において一生忘れられない記憶になるだろう。
努力を続けていると、たまに神様が大きなプレゼントをくれるんだ。

今シーズンはこれで一区切り。多くの方の支えと応援のおかげで、ここまで走り切ることができました。本当にありがとうございました!!

市民レース140kmオープン表彰  優勝した田崎友康(F(t)Racing) photo:Satoru Kato


text : 田崎友康(F(t)Racing)

市民レース140kmオープン トップ6
1位 田崎友康(F(t)Racing)3:39:07.393
2位 櫻庭悠真(MGM GROMA RACING TEAM)
3位 長谷川大(イナーメ信濃山形)
4位 工藤政幸
5位 塩澤魁
6位 瀧聖人(TRYCLE.ing)

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