iRCのグラベルタイヤ、BOKENシリーズに軽量ケーシングを採用したLIGHTバージョン3モデルが追加ラインアップされた。ベーシックなBOKEN、オールラウンドなDOUBLECROSS、そしてハイスピードライドに対応したBOKEN PROをインプレッションして紹介する。



iRC BOKEN DOUBLECROSS LIGHT、BOKEN LIGHT photo:Makoto AYANO

日本発のグローバル二輪タイヤブランドであるiRC(アイアールシー)タイヤの井上ゴム工業株式会社が、グラベルライド向けの3種の軽量チューブレスレディタイヤ「BOKEN LIGHT」「BOKEN DOUBLECROSS LIGHT」「BOKEN PRO」をリリースした。

2023年から北米最大のグラベルイベント、アンバウンド・グラベル(Unbound Gravel)のオフィシャルタイヤメーカーとして意欲的なタイヤをリリースしてきたiRCタイヤ。グラベルタイヤの BOKENシリーズによって好評を得てきた。

軽量120TPIケーシングを採用したBOKEN LIGHTシリーズの3モデル photo:Makoto AYANO

それまでのBOKENシリーズが高い耐パンク性能に定評のある60TPIケーシングを用いてきたのに対し、新しいLIGHTバージョンの3モデルは、いずれも軽量でしなやかな120TPIケーシングを採用し、シチュエーション別に設計されたトレッドパターンによって舗装路から未舗装路まで多様な路面に対応しつつ、軽快な走行性能と高い耐久性を実現しているのが特徴だ。

BOKEN LIGHTシリーズ共通のタンカラー。ケーシングが透けて見える photo:Makoto AYANO

60TPIから120TPIへ。2倍の高密度織りケーシングとすることで、より軽量でしなやかな乗り味と快適性を獲得している。ルックスも特徴的で、今回リリースされたLIGHTモデルはいずれもタンカラー(サンドベージュ色)のサイドが特徴だ。それは視覚的に確認できるが、もうひとつの特徴はトレッドゴムの素材。スタンダードモデルがMTBタイヤ用コンパウンドをベースにしているのに比して、LIGHTシリーズはロードタイヤ用コンパウンドをベースにしていること。それにより転がり抵抗の軽さを実現しているのだ。

iRC BOKEN PROをセットしたグラベルバイク photo:Makoto AYANO

それは、より速く軽快な走行感を求めるグラベルレーサーの要望に応えるもので、かつ舗装路と未舗装路が混在する日本のライド環境においては、快適性とパフォーマンスの両立を実現している。

本記事ではオールラウンドな使用に向くBOKEN DOUBLECROSS LIGHTと、北米のグラベルレーサーたちの要望で誕生した新モデルのBOKEN PROの2種をインプレッション。テストライダーはBOKENシリーズのデビュー時から継続使用してきたCW編集部の綾野真が担当する。

インプレッション
BOKEN DOUBLECROSS LIGHT


センター部のノブが密に並ぶため走行抵抗が軽い photo:Makoto AYANO

2023年シーズンはBOKEN DOUBLECROSSのスタンダード版を使い、昨年の始めからはLIGHTのプロトタイプ(ほぼ製品版と同じもの)を2024シーズン通して使わせてもらった。そのタイヤで林道ツーリングにも数度行ったほか、アンバウンド・グラベル2023の100マイルレース(175km)も走った。

BOKEN DOUBLECROSS LIGHTを使用してアンバウンド・グラベル2024を走る綾野真(CW編集部) photo:LifeTime

スタンダード版の特徴についてはアンバウンド・グラベル特集記事に詳しいので参照いただくとして、LIGHT版の違いはより走りが軽くなったこと。ケーシングの軽量化により重量が25gほど軽くなったことに加え、コンパウンドがロードタイヤに使用されるものをベースとするものに変更されたため、トレッドの走行抵抗が減り、転がりが軽くなった。それらにより舗装路ではもちろん軽く転がり、かつグラベル上でも走りが軽く感じる。

MTBコンパウンドをベースとしたスタンダード版は弾力に富んだ乗り心地だったが、LIGHTはトレッドがやや硬めで、張りのある軽い走行感が際立っている。そう書くと快適性が下がるイメージを持たれるかもしれないが、そこはケーシングがしなやかになったことで、同等の振動吸収性をもっていると感じる。

BOKEN DOUBLECROSS LIGHT 42Cは内幅25mmリムにセットして実測44mmとなる photo:Makoto AYANO

スタンダード版がタイヤサイドをナイロンメッシュのプロテクション材「X-GUARD」で覆っているのに対し、LIGHTではそれを省略。つまりサイドカットには若干弱くなっている。しかしLIGHTのケーシングはトレッド部に1プライ増加されており、かつロードコンパウンドの耐貫通性の高さもあって、むしろトレッド部への異物による突き刺しに対しては強くなっているという。

前輪に42C・後輪に38Cをセットするのが我流だが、この組み合わせで速く・軽い走行感に満足している。リム内幅25mmのホイールにセットすれば実測で44C・40Cになり、エアボリュームのある前輪でかなりショック吸収性の高い状態で使うことができる。かつ後輪については登りで漕ぎが軽い。空気圧は体重62kgで1.7気圧(43C)ほどが適正と感じた。

サイドに寄るにつれ疎になるノブによりグリップ感は高められる photo:Makoto AYANO

センターノブが密度高く並び、つながっているため、舗装路〜締まった路面で走行感が非常に軽く、かつサイドにかけて疎になるノブの働きで、ルーズな路面のコーナリングでも良く引っかかってくれ、グリップ力が確保されている。

LIGHTにしてから、最近では荒れている林道を速く走るには前後輪ともに42Cを選んでいる。そのほうが凹凸に弾かれること無く、スピードが維持しやすいと感じるためだ。

DOUBLECROSS LIGHTは、オールラウンドで路面変化への対応力が高く、走りが軽く、速いライドに向く乗り味だ。昨年のアンバウンドグラベルでは2023年のタイムを1時間半も更新するタイムで走ることができた。

カタログ重量505gのところ実測453gと50g以上も軽かった(42C)
通年でレースから林道ツーリングまで激しく使ってサイドカット2回のパンクはなかなか優秀。もちろんサイド補強によって耐パンク性が高いスタンダード版に比べれば繊細さを感じるが、路面の岩や石に気を遣って走ることができればデメリットは少なく、軽い走りを得られる高性能タイヤと言えそうだ。またロードコンパウンドは耐摩耗性が高く、1年乗ってもトレッドの減りやノブの欠けがほとんど無かった。

いっぽう、距離やスピードを重視しない走りで、荒れたグラベルがメインフィールドなのであれば、スタンダード版のほうがパンクのリスクを減らせるのでおすすめだ。空気圧が低くてもサイドがヨレないし、コーナーでの路面への食いつきも良い。2種は使い分ける価値がある。

BOKEN PRO インプレッション 

iRC BOKEN PRO TLR photo:Makoto AYANO

センタースリック系タイヤは最近のグラベルレースにおいてライダーからの要望が高く、それに応じる形でリリースとなったモデルがBOKEN PROだ。

iRC BOKEN PRO TLR photo:Makoto AYANO

42Cと47Cの2つの太さがあるが、インプレには最近のトレンド最前線の47Cをチョイス。この太さだとフレーム側のクリアランスが許容するかが心配だったが、サイドノブが低く、エラが張っていないタイヤ形状のため、意外にも余裕たっぷりで収めることができた。内幅25mmリムに取り付けてきっちり47mmで、フレームとのクリアランスも4mmあり。最新のワイドリム基準で設計されているので実測でも太らない。

47Cの太さでもFDには干渉しなかった photo:Makoto AYANO

乗ってみれば速いのはセンタースリックならでは。47Cのエアボリュームの大きさで乗り心地は快適そのもの。しばらく使ってみての適正空気圧は、体重62kgの筆者で1.5気圧前後に落ち着いた。それで舗装路も未舗装路もほぼイケてしまう許容量の大きさを感じる。

ハイスピードなフラットグラベルでの快走感はたまらない photo:Makoto AYANO

舗装路や状態の良いフラット路面では吸い付くようなグリップで滑るように走るが、路面の凹凸は弾んでこなす。心配すべきはザレたコーナリングで、砂利の上では総じてグリップは低め。しかしトレッドのサイド側に寄るにつれて高くなる細かいノブが仕事をして、意外なほどにグリップするようだ。

センタースリックは最近のハイスピードグラベルレースのスタンダードになりつつある photo:Makoto AYANO

ケーシングは柔らかめなのでショック吸収性が良く、トレッドを変形させることでコーナリングもこなせるようになる。ただし少々コツが必要で、コーナリング中にタイヤを路面に押し付けるようにペダルに荷重していくことで、滑らないように使う。どうしてもそうしたテクニックが要求されるので、やはり上級者向けのタイヤだと感じた。

締まった土系トレイルでは慎重な走りが求められる
μの低い濡れた土面でのグリップは苦手とするところだ



不確定要素が多いグラベルのコーナリングは、オーバーランやアンダーステアになること前提のライン取りが必要だ。そうした難しさはあるが、整った路面での速さ、直線的なグラベルでの速さ、深い砂利での浮力の高さなど、センタースリック+大エアボリュームのメリットが活かせるシーンでの走りの速さと楽しさは魅力的だ。

エアボリュームの大きさで砂利グラベルでの浮力を生み出す photo:Makoto AYANO

カタログ重量510gのところ実測513gだった photo:Makoto AYANO

舗装路中心で、たまにグラベルへ進入していくといったライドならベストチョイスとも言える。しかし走りの軽さと引き換えにコーナリンググリップ力は低いため、グラベル走行でのテクニックに自信が無く、リスクを感じてしまうのなら、DOUBLECROSSを選択するのが無難だろう。

BOKEN PRO 47Cをセットしたバイクで標高1,146mの風張峠へロードツーリング。エピックライドの可能性を拡げてくれる photo:Makoto AYANO

BOKEN LIGHT インプレッション

iRC BOKEN LIGHT TLR photo:Makoto AYANO

BOKENシリーズの先陣を切ってリリースされたファーストモデルのLIGHT版。よりオールラウンドなBOKEN DOUBLECROSSの登場によって存在感がやや薄れたものの、舗装路〜芝まで、整った路面状況の良い条件で走りが楽しめるトレッドパターンだ。

ダイヤ目ローレットが刻まれるトレッド。サイドにノブを備える
iRC BOKEN LIGHT TLR



シクロクロスをベースとするサイクリストにとっては、SERAC EDGEと共通するトレッドパターンであることでその性格が掴みやすいだろう。トレッド表面に刻まれたダイヤ目パターンの「面」で路面を捉え、サイド部のノブでコーナリンググリップをかせぐ。チャートには無いものの、深い砂場での走りの良さで群を抜くため、砂浜がフィールドのビーチクロスでは唯一無二の存在だ。



BOKEN LIGHT シリーズ スペック&データ

BOKEN DOUBLECROSS LIGHT TLR

iRC BOKEN DOUBLECROSS LIGHT photo:Makoto AYANO

サイズ展開:700×38C、700×42C (タンサイドカラーのみ)
重量:約470g(700×38C)、約505g(700×42C)
特徴:
・軽量設計により登坂や加速時のパフォーマンスを向上(BOKEN DOUBLECROSS TLRに比較し、約9%の軽量化)
・120TPIケーシングを使用し、しなやかなタイヤがハードな路面から受けるライダーの負担を軽減
・センター部の密なブロック配置により、ハードなグラベル路面での突き刺しを防止
・チューブレスレディ仕様。低圧運用による快適性とパンク耐性を向上

BOKEN PRO TLR

iRC BOKEN PRO TLR photo:Makoto AYANO

サイズ展開:700X42C 、700X47C(タンサイドカラーのみ)
重量:約430g(700X42C)、約510g(700X47C)
特徴:
・DOUBLECROSSに並び立つ、ワイドサイズのグラベルオールラウンダー
・オンのスピードとオフの安心感を両立したハイブリッドパフォーマンス
・構造を再設計し、120TPIケーシングでしなやかな乗り心地を実現
・新ETRTO規格(42C:リム内幅23mm設計/47C:リム内幅25mm設計)
フックド&フックレスリムどちらも装着可能
※700X42Cは2025年秋頃発売

BOKEN LIGHT TLR

iRC BOKEN LIGHT TLR photo:Makoto AYANO

サイズ展開:700×36C、700×40C (タンサイドカラーのみ)
重量:約430g(700×36C)、約460g(700×40C)
特徴:
・軽量設計により、登坂や加速時のパフォーマンスを向上(BOKEN TLRに比較し、約9%の軽量化)
・120TPIケーシングを使用し、しなやかなタイヤがハードな路面から受けるライダーの負担を軽減
・サイドノブの配置により未舗装路でのグリップ力を確保
・チューブレスレディ仕様。低圧運用による快適性とパンク耐性を向上

価格(3モデルとも共通):7,370円(税込)

BOKENシリーズの路面対応チャート
BOKENシリーズの路面対応チャート