ベルギーの名門リドレーが誇るエアロロードの頂点、NOAH FASTが第3世代へと進化を遂げた。新たなUCI規制に適合し、史上最高のエアロダイナミクスを実現したピュアエアロレーサーの実力に迫る。

リドレー NOAH FAST 3.0
現代のロードレースにおいてエアロダイナミクスは欠かせない存在となった。いわゆるピュアエアロロードとクライミングバイクが並立する時代もあれば、この数年はエアロオールラウンダーとして1台にエアロ、軽量性を詰め込んだバイクが多く登場していた。その潮流も変化しつつあり、再びエアロはエアロロードに、軽量性はクライミングバイクに与えるブランドの存在が大きくなりつつある。
そんな中エアロロードの先駆者として2006年より歩み続けてきたリドレーのNOAHシリーズの最新作NOAH FAST 3.0が登場した。リドレーはFALCNシリーズに軽量エアロの役割を与え、NOAH FAST 3.0ではより先鋭的なエアロを求め開発が行われた。
NOAH FAST 3.0の最大の特徴はUCIの新ルールに適応するエアロチュービング。従来3:1だったチューブ断面の縦横比が8:1まで緩和されたことを受け、リドレーは全く新しいアプローチでフレーム全体を再設計した。

船首のようなフォルムのヘッドチューブ 
ヘッド側からBB側に向かうにつれてワイドになるダウンチューブ 
シートチューブは切り欠きを設けたエアロデザイン
最も印象的なのは大胆に後方へ伸ばされたヘッドチューブの造形だろう。UCIルールの限界まで活用したこの設計と、非常に薄く仕上げた造形により、前面投影面積を最小限に抑えながら、空気を効率よく後方へと導く構造を実現している。フロントフォークとシートステーも、空気を切り裂くようなエアロ形状に仕上げられた。
大口径の新型ダウンチューブもエアロに大きく貢献する。薄く作られているヘッド側はダウンチューブも薄めに作られており、ボトル台座部分に向かうにつれてワイドになるという、ボトル装着を前提とした空力設計が行われている。また3ボルト仕様のマウントとされており、重心が低くシートチューブ側ボトルとの距離が近いエアロポジションと、手が届きやすいポジションから選択できる配慮も施されている。
これらの設計は、リドレーが中心となって設立したバイクバレーの風洞実験施設で検証が行われた。NOAH FAST 3.0は時速50km/h巡行時において、前モデルのNOAH FASTと比較して8.5ワットの空気抵抗を削減。同社の軽量モデルFALCN RSとの比較でも7ワットの削減のアドバンテージを得ている。

ワイドスタンスのシートステー接合部を採用する 
Nimbus Aero Integrated Cockpitは専用設計されたエアロハンドルだ

エアロを意識した薄いシートステー 
前後に幅広くすることで空力を向上させる
エアロダイナミクスの追求だけでなく、全てのパワーをスピードに変換できる高剛性設計もNOAH FAST 3.0の大きな特徴だ。ドイツの第三者検査機関ゼドラーによるテストでは、ヘッドチューブとBBの剛性がFALCN RSより10%高い結果を記録。スプリンターの全身を使う激しいパワー入力にも応え得る性能を実現しており、歴代の名スプリンターたちがNOAHシリーズで築き上げてきた勝利の伝統をNOAH FAST 3.0でも継承している。
この剛性の高さは、スプリント時の激しいパワー入力や、集団内でのポジション争いといったレースの重要な局面で真価を発揮する。ロビー・マキュアンやアンドレ・グライペル、カレブ・ユアンといった名スプリンターたちがNOAHシリーズで築き上げてきた勝利の伝統を、第3世代は更なる高次元で継承していると言えるだろう。

フロントフォークは前方は肉厚、後方は薄くなっている 
非常に大きなボトムブラケット周りが高い剛性を生み出す
NOAH FAST 3.0では、近年のライダーポジションのトレンドを反映させたジオメトリーを採用する。現在のプロ選手は前乗りポジションを好む傾向を受け、リドレーのエンジニアは76°のシート角度が平均値であると判断。NOAH FAST 3.0にも反映することで、ペダルに体重をかけやすくパワー伝達効率向上を図っている。
長年のレーシングバイクスポンサーシップから得られたデータをもとに、現代のバイクポジショニングトレンドに最適化されたジオメトリーが採用されている。近年のプロ選手が前乗りポジションを好む傾向を受け、76度のシート角度を平均値として設定。立ったシート角度により、ペダルに体重をかけやすくパワー伝達効率の向上を図っている。

シートポストもカムテールデザインのエアロ設計だ 
ボトルケージ台座は3ボルト仕様としており、使い方に合わせられる 
幅の広いフロントフォークでエアロを向上させる
専用開発されたNimbus Aero Integrated Cockpitは、エアロダイナミクスと快適性のバランスに重点を置いた設計だ。360mm幅のハンドルは現在のトレンドと人間工学に基づき、自然な手首の位置を作り出すフレアハンドルを採用。シフターが自然に内側にセッティングでき、エアロポジションを強化しながら前面投影面積の削減に貢献している。
これらの設計が与えられたNOAH FAST 3.0は、リドレーと10年間のパートナーシップを結ぶウノエックス・モビリティと共に戦う。ツール・ド・フランス優勝を目標に掲げるチームが挑むスプリントレースやクラシックで活躍してくれるはずだ。
NOAH FAST 3.0は、リドレーが2006年から積み重ねてきたエアロロード開発の集大成として、そして次の時代へ向けたフラッグシップとして登場した。UCI規制の限界まで追求された空力性能と、プロレースの最前線で培われた実戦性能。この最先端エアロロードの実力に迫ろう。
ーインプレッション
「高速域で光るエアロ、剛性を備えたピュアエアロロード」高木三千成(シクロワイアード編集部)

「純粋なエアロロードとして進化を遂げている」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Naoki Yasuoka
まるでトラックバイクのようなエアロロードでした。従来のNOAHはニュートラルな乗り味だったので、今作はエアロ性能に重点を置いた尖ったバイクになったという印象があります。エアロダイナミクスを追求するライダー向けに進化を遂げていると思います。
具体的にエアロロードらしさを感じるのは、このバイクがライダーに求めてくる走らせ方でしょうか。ガチっとフォームを固めたエアロポジションでのシッティングではすごく気持ちよくスピードが乗っていき、バイクも強い直進安定性でその走り方をアシストするかのようです。
対してスタンディングでハンドルを左右に振りながら走ろうとすると、バイクの倒れにくさを顕著に感じられて、チグハグとしたフィーリングになってしまいます。集団の先頭を引く選手のようにポジションを一定にして走る、平地向けのマシンという印象が強くあります。

「40km/hでもまだまだスピードが伸びていく感覚があった」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Naoki Yasuoka
全体の剛性感はとにかく硬くて、ヘッド周りもBB周りも硬い、まさに剛性の塊という感じです。見た目は細くて軽そうに見えるんですけど、実際は全く撓まない。ビッグボリュームの見た目通りの硬さですが、チューブに使われているカーボンの薄さも同時に感じられます。エアロポジションでのペダリングでは、その硬さの中にある抜けの良さも体感できます。
その気持ち良さを感じられるのは、重めのギアでトルクをかけるようなペダリングの時でした。体重をかけてしっかりと踏み込むとバイクは気持ちよく進んでくれますね。このバイクの速さを最も感じられたのは、ケイリンのスプリントのようにシッティングで踏み回すような時でした。その点でもトラックバイクのようなエアロロードと言えそうです。
従来のNoahシリーズは低速から中速域に気持ち良さを感じられるポイントがあったのですが、新型は中速から高速域が断然良いです。スピードレンジの美味しいところが完全に高速域にシフトしていて、40〜50km/hでもまだまだスピードが伸びていく感覚があり、追い風のスプリントで60km/hに達した時でもペダリングに対する反応は抜群でした。

「スピードレンジの美味しい部分が高速域にシフトした」高木三千成(シクロワイアード編集部) photo:Naoki Yasuoka
このバイクを乗りこなすには、ポジション出しとライド中の重心位置を意識することが重要だと感じます。ある程度ポジションがしっかりと出ていて、かつ上半身の力を使ってバイクを走らせられるトラック競技経験者のようなライダーが向いています。
総じて、ツールのような高速域で走るプロレベルの使用を想定したバイクでした。ハイエンドの軽くてエアロ性能の高いカーボンホイールを合わせるとより性能が発揮されるでしょう。
リドレー NOAH FAST 3.0
サイズ:XXS / XS / S
カラー:UD Carbon(NF301Am)、Candy Red(NF301Bs)
フレーム:Elite HM カーボン
フレーム重量:1,028g(XXS)/ 1,032g(XS)、1,050g(S)
フォーク重量:509g(コラム長300mm)
対応コンポーネント:シマノDi2 / カンパEPS / スラムeTap ※メカニカル非対応
ハンドル/ステム:Forza Nimbus Aero Cockpit
シートポスト:Noah Fast 3.0 Aero Seat Post(セットバック0mm)
フレームセット価格: 770,000円(税込)
バイククラフト価格
R9250 Di2:1,223,200円(税込)
R8150 Di2:1,026,300円(税込)
R7150 Di2:943,800円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール

高木三千成(シクロワイアード編集部) 高木三千成(シクロワイアード編集部)
学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。現在も東京の稲城FIETSクラスアクトに所属し、Jプロツアーで全国のレースに参戦している。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位でUCIポイントを獲得した。
text:Gakuto Fujiwara
photo:Naoki Yasuoka

現代のロードレースにおいてエアロダイナミクスは欠かせない存在となった。いわゆるピュアエアロロードとクライミングバイクが並立する時代もあれば、この数年はエアロオールラウンダーとして1台にエアロ、軽量性を詰め込んだバイクが多く登場していた。その潮流も変化しつつあり、再びエアロはエアロロードに、軽量性はクライミングバイクに与えるブランドの存在が大きくなりつつある。
そんな中エアロロードの先駆者として2006年より歩み続けてきたリドレーのNOAHシリーズの最新作NOAH FAST 3.0が登場した。リドレーはFALCNシリーズに軽量エアロの役割を与え、NOAH FAST 3.0ではより先鋭的なエアロを求め開発が行われた。
NOAH FAST 3.0の最大の特徴はUCIの新ルールに適応するエアロチュービング。従来3:1だったチューブ断面の縦横比が8:1まで緩和されたことを受け、リドレーは全く新しいアプローチでフレーム全体を再設計した。



最も印象的なのは大胆に後方へ伸ばされたヘッドチューブの造形だろう。UCIルールの限界まで活用したこの設計と、非常に薄く仕上げた造形により、前面投影面積を最小限に抑えながら、空気を効率よく後方へと導く構造を実現している。フロントフォークとシートステーも、空気を切り裂くようなエアロ形状に仕上げられた。
大口径の新型ダウンチューブもエアロに大きく貢献する。薄く作られているヘッド側はダウンチューブも薄めに作られており、ボトル台座部分に向かうにつれてワイドになるという、ボトル装着を前提とした空力設計が行われている。また3ボルト仕様のマウントとされており、重心が低くシートチューブ側ボトルとの距離が近いエアロポジションと、手が届きやすいポジションから選択できる配慮も施されている。
これらの設計は、リドレーが中心となって設立したバイクバレーの風洞実験施設で検証が行われた。NOAH FAST 3.0は時速50km/h巡行時において、前モデルのNOAH FASTと比較して8.5ワットの空気抵抗を削減。同社の軽量モデルFALCN RSとの比較でも7ワットの削減のアドバンテージを得ている。




エアロダイナミクスの追求だけでなく、全てのパワーをスピードに変換できる高剛性設計もNOAH FAST 3.0の大きな特徴だ。ドイツの第三者検査機関ゼドラーによるテストでは、ヘッドチューブとBBの剛性がFALCN RSより10%高い結果を記録。スプリンターの全身を使う激しいパワー入力にも応え得る性能を実現しており、歴代の名スプリンターたちがNOAHシリーズで築き上げてきた勝利の伝統をNOAH FAST 3.0でも継承している。
この剛性の高さは、スプリント時の激しいパワー入力や、集団内でのポジション争いといったレースの重要な局面で真価を発揮する。ロビー・マキュアンやアンドレ・グライペル、カレブ・ユアンといった名スプリンターたちがNOAHシリーズで築き上げてきた勝利の伝統を、第3世代は更なる高次元で継承していると言えるだろう。


NOAH FAST 3.0では、近年のライダーポジションのトレンドを反映させたジオメトリーを採用する。現在のプロ選手は前乗りポジションを好む傾向を受け、リドレーのエンジニアは76°のシート角度が平均値であると判断。NOAH FAST 3.0にも反映することで、ペダルに体重をかけやすくパワー伝達効率向上を図っている。
長年のレーシングバイクスポンサーシップから得られたデータをもとに、現代のバイクポジショニングトレンドに最適化されたジオメトリーが採用されている。近年のプロ選手が前乗りポジションを好む傾向を受け、76度のシート角度を平均値として設定。立ったシート角度により、ペダルに体重をかけやすくパワー伝達効率の向上を図っている。



専用開発されたNimbus Aero Integrated Cockpitは、エアロダイナミクスと快適性のバランスに重点を置いた設計だ。360mm幅のハンドルは現在のトレンドと人間工学に基づき、自然な手首の位置を作り出すフレアハンドルを採用。シフターが自然に内側にセッティングでき、エアロポジションを強化しながら前面投影面積の削減に貢献している。
これらの設計が与えられたNOAH FAST 3.0は、リドレーと10年間のパートナーシップを結ぶウノエックス・モビリティと共に戦う。ツール・ド・フランス優勝を目標に掲げるチームが挑むスプリントレースやクラシックで活躍してくれるはずだ。
NOAH FAST 3.0は、リドレーが2006年から積み重ねてきたエアロロード開発の集大成として、そして次の時代へ向けたフラッグシップとして登場した。UCI規制の限界まで追求された空力性能と、プロレースの最前線で培われた実戦性能。この最先端エアロロードの実力に迫ろう。
ーインプレッション
「高速域で光るエアロ、剛性を備えたピュアエアロロード」高木三千成(シクロワイアード編集部)

まるでトラックバイクのようなエアロロードでした。従来のNOAHはニュートラルな乗り味だったので、今作はエアロ性能に重点を置いた尖ったバイクになったという印象があります。エアロダイナミクスを追求するライダー向けに進化を遂げていると思います。
具体的にエアロロードらしさを感じるのは、このバイクがライダーに求めてくる走らせ方でしょうか。ガチっとフォームを固めたエアロポジションでのシッティングではすごく気持ちよくスピードが乗っていき、バイクも強い直進安定性でその走り方をアシストするかのようです。
対してスタンディングでハンドルを左右に振りながら走ろうとすると、バイクの倒れにくさを顕著に感じられて、チグハグとしたフィーリングになってしまいます。集団の先頭を引く選手のようにポジションを一定にして走る、平地向けのマシンという印象が強くあります。

全体の剛性感はとにかく硬くて、ヘッド周りもBB周りも硬い、まさに剛性の塊という感じです。見た目は細くて軽そうに見えるんですけど、実際は全く撓まない。ビッグボリュームの見た目通りの硬さですが、チューブに使われているカーボンの薄さも同時に感じられます。エアロポジションでのペダリングでは、その硬さの中にある抜けの良さも体感できます。
その気持ち良さを感じられるのは、重めのギアでトルクをかけるようなペダリングの時でした。体重をかけてしっかりと踏み込むとバイクは気持ちよく進んでくれますね。このバイクの速さを最も感じられたのは、ケイリンのスプリントのようにシッティングで踏み回すような時でした。その点でもトラックバイクのようなエアロロードと言えそうです。
従来のNoahシリーズは低速から中速域に気持ち良さを感じられるポイントがあったのですが、新型は中速から高速域が断然良いです。スピードレンジの美味しいところが完全に高速域にシフトしていて、40〜50km/hでもまだまだスピードが伸びていく感覚があり、追い風のスプリントで60km/hに達した時でもペダリングに対する反応は抜群でした。

このバイクを乗りこなすには、ポジション出しとライド中の重心位置を意識することが重要だと感じます。ある程度ポジションがしっかりと出ていて、かつ上半身の力を使ってバイクを走らせられるトラック競技経験者のようなライダーが向いています。
総じて、ツールのような高速域で走るプロレベルの使用を想定したバイクでした。ハイエンドの軽くてエアロ性能の高いカーボンホイールを合わせるとより性能が発揮されるでしょう。
リドレー NOAH FAST 3.0
サイズ:XXS / XS / S
カラー:UD Carbon(NF301Am)、Candy Red(NF301Bs)
フレーム:Elite HM カーボン
フレーム重量:1,028g(XXS)/ 1,032g(XS)、1,050g(S)
フォーク重量:509g(コラム長300mm)
対応コンポーネント:シマノDi2 / カンパEPS / スラムeTap ※メカニカル非対応
ハンドル/ステム:Forza Nimbus Aero Cockpit
シートポスト:Noah Fast 3.0 Aero Seat Post(セットバック0mm)
フレームセット価格: 770,000円(税込)
バイククラフト価格
R9250 Di2:1,223,200円(税込)
R8150 Di2:1,026,300円(税込)
R7150 Di2:943,800円(税込)
インプレッションライダーのプロフィール

学連で活躍したのち、那須ブラーゼンに加入しJプロツアーに参戦。東京ヴェントスを経て、さいたまディレーブでJCLに参戦し、チームを牽引。現在も東京の稲城FIETSクラスアクトに所属し、Jプロツアーで全国のレースに参戦している。シクロクロスではC1を走り、2021年の全日本選手権では10位でUCIポイントを獲得した。
text:Gakuto Fujiwara
photo:Naoki Yasuoka
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