2023年のツール・ド・フランスで区間優勝を飾ったマイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック)が、今季限りでの現役引退を発表した。29歳でプロデビューを果たし、10年にわたり世界のトップシーンで戦い続けたクライマーが、その輝かしいキャリアに幕を下ろす。



引退を発表したマイケル・ウッズ(カナダ、イスラエル・プレミアテック) photo:CorVos

ウッズは「エピローグ」と題した長文メッセージと共に、引退の決断を明かした。「父親になってから、『世界最高の選手であること』と『良い父親であること』がいかに相反するかを痛感した。他の多くのスポーツとは異なり、プロロードレースはそのレースカレンダーのせいで終わりなき献身を要求される。この5年間、子どもを学校に迎えに行っても、風邪をもらわないようキスを避けてきた。また睡眠時間を確保するべく家族とは別の部屋で眠るなど、生活を競技に最適化してきた。その追求に後悔はしていないが、永遠に続けることはできない」と、ウッズはその理由を語った。

もともとは陸上競技の中距離選手として、マイル(1,600m)と3,000mの国内ジュニア記録を有するトップランナーであったウッズ。度重なる怪我により陸上の道を断念し、25歳だった2013年に自転車選手に転向。その才能はすぐに開花し、国内のコンチネンタルチームから出場した2015年のツアー・オブ・ユタ(当時UCI 2.HC)でステージ優勝&総合2位に入ると、プロチームの注目を集め、29歳だった翌年にキャノンデール・ドラパック(現EFエデュケーション・イージーポスト)でプロデビューを果たす。

1級山岳バルコン・デ・ビスカヤ峠で先頭に立つマイケル・ウッズ(カナダ、EFエデュケーションファースト・ドラパック) photo:Kei Tsuji

プロの世界でも、急坂を得意とするクライマーとしての実力はすぐに結果へと結びついた。2018年、クラシックレースのリエージュ〜バストーニュ〜リエージュで2位に入ると、ロード世界選手権では3位で表彰台へ。そして山頂フィニッシュだったブエルタ・ア・エスパーニャ第17ステージで、念願となる初のグランツール区間優勝を達成した。

その後は2020年に大腿骨骨折という大怪我を負うものの、復帰後も勝利を重ね、ブエルタでは通算3勝を挙げるなどグランツールで確かな実績を積み重ねた。

キャリアハイの勝利となったのは2023年ツール・ド・フランスの第9ステージ。超級山岳ピュイ・ド・ドームの頂上フィニッシュで、逃げに乗ったウッズは先頭を走っていたマッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)を残り450m地点で劇的に追い抜き、念願の区間優勝を飾った。

2023年ツール・ド・フランス第9ステージで勝利したマイケル・ウッズ(カナダ) photo:CorVos

2024年にジャパンカップで来日した際には、この勝利を「ツールという大舞台でのステージ優勝は大きな達成であり、喜びより安堵の気持ちが大きかった。なぜなら僕は38歳と若くはないからね。年齢を重ねる度に勝利のチャンスは減っていくなか、目指していたツールのステージ優勝に間に合ったんだ」と、ウッズは語っている。

現役最後となった今年のツールでは4度逃げに乗るも、勝利には届かなかったウッズ。この後は9月に母国カナダで行われるグランプリ・シクリスト・ド・ケベックとモンレアル(共にUCIワールドツアー)に出場予定。また2019年に2位、昨年4位と相性の良い10月のジャパンカップへの出場にも期待が寄せられる。

text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos