SCRTACHとNAGO、プロロゴが展開する定番ロードサドルの3Dプリントモデルが出揃った。プレッシャーマッピングデータを活用するマルチセクターシステムの真価を3Dプリントによって引き出した2モデルのインプレッションをお届けしよう。



プロロゴの3Dプリントサドル、SCRATCH M5 PAS 3D MSSとNAGO R4 PAS 3D MSS

座面形状がそれぞれ異なり、SCRATCH(左)はラウンド、NAGO(右)はセミラウンド形状とされている

3Dプリント技術を活用したサドルは、もはや珍しいものではなくなった。セルの形状や密度を自在にコントロールできるこの技術は、サドルのような複雑な座り心地が求められるパーツにおいて、従来のフォームパッドでは実現できなかった細やかな調整を可能にする。プロロゴもこの分野に本格参入し、NAGO R4 PAS 3D MSSとSCRATCH M5 PAS 3D MSSという2つのモデルを展開している。

NAGO R4 PAS 3D MSS:プロロゴ初の3Dプリントサドル

プロロゴ NAGO R4 PAS 3D MSS

NAGO R4 PAS 3D MSSは2024年春、パリ〜ルーベのタイミングで発表されたプロロゴ初の3Dプリントサドルだ。プロロゴが長年培ってきたマルチセクターシステム(MSS)の思想を3Dプリント技術で再構築したモデルと言える。

MSSとはサドルのパッドを複数のエリアに分割し、それぞれで異なる密度のフォームを採用することでペダリング中の各部位に最適なサポートを提供する技術だ。具体的には、サドル後部はライダーの体重を支えペダルに力を伝えることを重視した硬めの設計。サドル中央部は快適性を重視して柔らかく仕上げられている。そして先端部分は前乗りポジションで体重を支えられるよう中程度の硬さに設定されている。この設計はプレッシャーマッピングをもとに、プロからアマチュアサイクリストまでのデータを収集して決定されたものだ。

比較的目の大きな構造とされている

NAGOのTiroxレールは203g

立体的な格子構造は軽量性と通気性に優れていることも特徴のひとつ。トップレイヤーの縁部分には開口部が備えられており、格子に入り込んだ水や埃を排出できる仕組みも盛り込まれている。またトップレイヤーは摩擦からレーサーパンツを守りつつ、ペダリング時の安定性を高める役割も担っている。

サイズは245×137mmでセミラウンド形状の座面を持つ。重量は145gと、ライバル製品と比較しても非常に軽量に仕上げられている点は見逃せない。レーサー向けのハイパフォーマンスサドルとしての性格が明確だ。価格はNackレールが60,500円(税込)、Tiroxレールが44,000円(税込)。

SCRATCH M5 PAS 3D MSS:定番モデルの3Dプリント版

プロロゴ SCRATCH M5 PAS 3D MSS

NAGO R4 3Dに続く3Dプリント第二弾として2025年春に登場したのがSCRATCH M5 PAS 3D MSSだ。SCRATCH M5はヴィスマ・リースアバイクのヨナス・ヴィンゲゴーやセップ・クスも愛用する定番モデル。このベースモデルの良さを活かしながら、3Dプリント技術による恩恵を加えたのが今回のモデルだ。

SCRATCH M5の3Dプリント版も、NAGO R4 3D同様にMSSの思想を引き継いでいる。サドルを前部、中央部、後部の3つのセクターに分け、それぞれに異なる役割を与えた設計だ。ただし、より複雑な構造を採用している点が特徴となる。

各セクターの表面にはボロノイ形状が配されているが、ベース付近は用途に応じて形状が変更されている。前部セクションではボロノイ形状の下にカゴメ格子を採用し、中密度・低弾性係数として、サドル先端に座る時でも優れたサポート力と快適性を確保。

SCRATCHの座面は目が細かい

中央セクションはベース付近を四面体形状として中密度・低弾性係数に仕上げ、PAS構造のカットアウトと相まって快適な乗り心地を提供する。後部はベース付近を菱形形状、高密度・高弾性係数とすることで、長時間のライドでも坐骨を快適にサポートする設計だ。

パッド全体は弾性係数を調整した二層構造が採用されており、プロロゴが集めた膨大なデータに基づいて作成されている。不規則に並ぶセルによってサポート力をコントロールするこの構造は、サドルに加わる圧力の研究と実際のテストを経て生み出されたものだという。

SCRATCHのTiroxレールは216g

ベースは長い繊維のカーボンで作られており、軽量化と剛性確保の両立に貢献。レールはカーボンのNackと、軽量合金鋼のTiroxという2種類が用意される。価格はNackレールが60,500円(税込)、Tiroxレールが44,000円(税込)。

サイズは250×140mmとNAGO R4 3Dよりもやや大きく、SCRATCH M5の標準的な座面形状を踏襲している。

NAGO R4とSCRATCH M5という異なる性格を持つベースモデルを3Dプリント化したことで、ライダーの好みや用途に応じた選択肢が広がった。シクロワイアード編集部の藤原と高木が2つのモデルを試した。

ーインプレッション

プロロゴの3Dプリントサドル2種をテストした

プロロゴの3DプリントパッドはNAGO R4 3D、SCRATCH M5 3Dともに硬質な触り心地が特徴。指でパッドを押した時にはNAGO R4 3Dは柔らかく、SCRATCH M5 3Dは硬いのだが、着座した時の印象は真逆だ。

NAGO R4 3Dの印象は筆者・藤原(身長168cm、62kg)と高木(175cm、60kg)で共通しており、坐骨で体を支える感覚が強め。ファーストインプレッションは「硬いサドル」だったのだが、テスト後にパッドを指で押すと直感に反して柔軟に作られていたので、着座すると坐骨周りの2点に圧力が集中するような感覚がそう思わせたのだろう。

プロロゴが徹底的に開発した3Dプリントサドルをテストした

サドルにしっかりと荷重をかけたペダリングでも体を支えてくれる感覚が強く、乗っていると自然と前乗り気味かつ、深い前傾姿勢を維持したくなる。パッドの縁は柔軟性が発揮され、ペダリングで太ももがつっかえることがなく、スムースに足を回すことが可能だ。

ノーズ部分に座っても坐骨2点で支える感覚は共通しており、パッドの存在感は強めに感じられる。実際にはサドル中央部のパッドは最も柔らかく作られているのだが、着座した時にクッションが潰れているという感覚は希薄。それでもデリケートゾーンへの圧迫感は皆無という不思議な座り心地となっているため、アグレッシブなポジションでもライダーのパフォーマンスが発揮されやすくなっている。

どちらのモデルもうまく作り分けられており、ライディングスタイルに応じて選びやすい

対してSCRATCH M5 3Dには藤原、高木ともに自然に座れるサドルという印象を抱いた。パッドは指で強めに押し込んだ時にようやくパッドが沈み込む程度。直感的には座り心地が悪そうなのだが、実際に座ってみるとパッドは硬すぎず、柔らかすぎもしない、違和感は一切ない。

この印象はNAGO R4 3Dとのフィット感の違いによるものだろう。NAGOは先述しているように坐骨を支えるような感覚があるが、SCRATCH M5 3Dはサドル全体でお尻を支えてくれているかのよう。アグレッシブな前傾姿勢はもちろん、サドルに体重が乗るようなリラックスポジションでもSCRATCH M5 3Dではストレスを感じない。初めて着座した時から体に馴染むような座り心地を提供してくれるのは好印象だ。

SCRATCH M5 3Dはサドルの後端部に着座しても太ももがペダリングでサドルにつっかえることがない。前乗りポジションでも常に適度な柔軟性で体を支えてくれ、ヒルクライムで前乗りしながら体重をかけるシチュエーションでもペダリングは快適。この感覚は通常パッドのSCRATCH M5と共通するのもので、ハイケイデンスのペダリングを気持ちよく続けることができる。

SCRATCHはハイケイデンスのペダリングもスムースに行える

高木もサドル形状も相まって「昔ながらのサドルが好きな人にフィットする」と評価する。今回は金属レールのTiroxでのテストとなったが、カーボンのNackレールによる軽量性が加わると、さらに魅力的なサドルに仕上がることも期待できそうだ。

この2つの選び分け方はライディングスタイルにフィットするかどうか。アグレッシブな前傾姿勢でトルクをかけるペダリングスタイルならNAGO R4 3D、サドル上で姿勢を変えながら高ケイデンスで回すならSCRATCH M5 3Dという棲み分けだ。プロロゴの3Dプリントサドルは、他ブランドのような均一なセル構造ではなく、部位ごとに異なるパターンを採用している。その設計思想が、明確な乗り味の違いとして表れているのだろう。(文:藤原岳人)

パッドとベースが程よくしなる設計になっている

プロロゴ NAGO R4 PAS 3D MSS
サイズ:245x137mm
レール:Nack、Tirox
重量:155g(Nack)、201g(Tirox)
価格:60,500円(税込、Nack)、44,000円(税込、Tirox)

プロロゴ SCRATCH M5 PAS 3D MSS
サイズ:250x140mm
レール:Nack、Tirox
重量:176g(Nack)、209g(Tirox)
価格:60,500円(税込、Nack)、44,000円(税込、Tirox)

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