ツール・ド・おきなわ市民50kmフォーティーを制した遠藤優(Roppongi Express)。前回は2019年の勝利で、これがじつに6年ぶり7度目の勝利となった。得意のスプリント力を100%発揮するべく徹底したセッティングで挑んだが、かえってそれが裏目に出てしまったという。自筆レポートでお届けします。



遠藤優(左/Roppongi Express)、ディフェンディングチャンピオンのARCC山本選手とガッチリ握手 photo:Makoto AYANO

1. コースの特徴
・スタート直後から平坦基調の海岸線へ
・美ら海水族館と今帰仁スプリントポイントへの登りがふるい落としのポイント
・国道58号に入ってからは下り基調、過去レースはほぼスプリントで決着している

2. 天候・コンディション
天気:晴れ
気温:23℃(湿度95%)
風:東の風3m/s(ゴール前向かい風)
路面:名護市街地(スタート・ゴール)本部町付近はウエット、それ以外はドライ

スタートを待つ市民50kmフォーティー photo:Makoto AYANO

3. 有力選手情報と作戦
有力と考えていた選手の個人的評価は以下のとおり
・山本耕平(ARCCレーシングチーム)一昨年単独逃げ切りで優勝。ゴール前勝負では負けたことがないので、展開的に逃さなければ大丈夫。アームカバーにダブルボトルなので暑さに強くないのだろうか。
・大友守(ARCCレーシングチーム)ザ・ワットモンスター。Zwift等のインドアトレーニング界隈では無双している選手。スプリント力は高くないので、こちらも逃さなければOK。
・山崎諭(mkw)今年JBCFマスターズで何度かご一緒。平坦をゴリゴリ行くが、ゴール前の走りは大友さんと同じ印象。
・堀江亮(My Pace Racing Team)数年前にスプリントで50kmレースを制しているが、積極的にレースを作る印象はない。スプリントにフルベットしてくると思うが、それでも純粋なスプリント力で負けることは無いと予想。
・井上修平(AlterLock Racing)RX志願兵でダークホース的な存在。マークというよりも展開によっては協調して走りたい。

以上のようなライバルの印象と自分の強みであるスプリント力を考えた場合、少人数スプリントにするのが勝つ可能性が高いと判断。Ai(ChatGPT)に聞いても「少人数スプリントにすれば負けることはない」と回答があり、ARCCの散発的なアタックに付き合って自滅する展開にはならないよう注意と思っていた。

ROVAL RAPIDE SPRINT CLXホイールをチョイス photo:Makoto AYANO

・レース前準備と機材
前日夜の天気予報では降水確率20%だったが、スタート2時間前の5時くらいから強い雨。沖縄の天気予報はスコールや通り雨までは予報できないと思っていたので、持参したローラーでアップ。
前日の試走の時から、感覚よりも出力が上回り気持ちよく自転車が走っていく。準備は万端、絶好調だ。

使用機材はスペシャライズドTARMAC SL8にROVAL RAPIDE SPRINT CLX。ベアリングはハブ・BBともに全てOniベアリングに交換している。チェーンリングはフロントシングル58tか。(今まで練習・レースでもトラブルがなかったのだが...)

チェーンリングはフロントシングル58Tでカーボン製のAerocoach photo:Makoto AYANO

過去6勝の実績とシード権ゼッケンから、ディフェンディングチャンピオンのARCC山本選手の横で最前列からスタートさせてもらう。スタート前恒例のMCがらぱさんからインタビューを受けて気持ちが高まるなか、7:00定刻どおりスタートした。

スタート前恒例のMCがらぱさんからインタビューを受けて気持ちが高まる photo:Makoto AYANO

【スタート〜美ら海水族館まで】
パレード区間で有力選手が前へ集まり、リアルスタートの0km地点看板からARCC大友選手がほどよいペースで引くと、後方はブッチブチに中切れ祭り。序盤であっという間に決まるかも、と下り区間を70km/hに迫る速度で引いたら、一人で抜け出してしまう。

スタートまでのカウントダウン。名護には朝陽が登りはじめた photo:Makoto AYANO

このまま行っても無駄足になるので大人しく集団に戻るが、集団先頭は50km/hに迫る速度でローテーション。「あぁ、いいペースだ」と思いながら振り返ると30名以下になっていただろうか。

朝陽とともにスタートしていく市民50kmフォーティー photo:Makoto AYANO

本部町までの海岸線はこのままいいペースで進むが、本部大橋手前でチェーン落ちしてしまう。落ち着いて路肩に自転車を停めてチェーンをかけ直し、再スタート。集団とは20〜30秒離れ、遥か遠くに見える。COMカーが近くにいて、メカトラなので戻るために少し引いてくれると思いきや「優勝候補は引きません」という宣言を受ける。なんだその差別?と思いながら必死で追いかけて、本部大橋後の登り返しで追いついた。

市民50kmフォーティーの集団 photo:Satoru Kato

ここでこのレース最高心拍数180bpmを記録。なかなか追いつかないと思ったが、路肩に止まったのを見たARCC大友選手がペースを上げていたようだ(集団内の選手とレース動画からの情報)。チェーン落ちする方が悪いし、勝つことが至上命題ならそういう選択となるので、イライラせずに(辛かったけど)「待っててくれてありがとう!」と笑顔で声をかけて本部大橋の下りと登り返しを利用して集団前方に復帰。 

朝陽を浴びて海岸線を進む市民レース50kmの集団 photo:Satoru Kato

美ら海水族館の坂は復帰時の回復にあてて、下りを飛ばそうと思った矢先に再びチェーン落ち。先ほどのチェーン落ちの時にチェーンガイドを壊してしまい、ガイドの首元が割れてプラプラしている。下り坂で走りながら手でチェーンを乗せたけど、ゴールまでにあと何回チェーンを落とすことになるのか...。

市民50kmフォーティーの集団先頭 photo:Satoru Kato

【今帰仁スプリントポイント〜R58号】
チェーン落ちにビビりながら走っていると、あっという間に今帰仁のスプリントポイントへ。序盤は急勾配、後半はダラダラの上り坂。ARCC大友選手が先頭で急斜面に入るが緩斜面になるとペースがかなり落ちたので、先頭でに出てペースアップすると5名だけに絞られる。ARCC山本・大友、AlterLock井上・もう一人、RX遠藤・山本・井上選手は短いローテはできるが強くは引けない。把握できなかったもう一名の選手は瀕死で、うまくローテできず隊列を乱す。大友選手はツキイチ。

ペースアップする選手は限られるが、必ずマークに入る photo:Satoru Kato

大友選手を千切って3人で行くことも考えたが、そうすると山本選手はローテーションに入らないだろうし、この人数ならゴール前スプリントを選択しても勝つ確率が高いと思い、もう一段階上げずに行こうと思ったら、下り坂で三度目のチェーン落ち。

今回はチェーンを乗せるまでに時間がかかってしまい、レースが終わったなという絶望感しかなかったが、単独で再び前に戻ることができた。後から聞いた話では、ペースを上げようとしたARCC 2人に対してメカトラの自分を待った井上選手、強く引かないもう一名の選手と、チグハグな状態だったらしい。前に追いついたものの、後ろから10名ほどの集団が15秒程で迫っているということで、集団復帰した際に使った足を回復させるために、後ろを待つことを選択した。

【R58〜ゴールまで】 
国道58号に入ったところで前5人と後ろ約10人がドッキングしたが、ペースはかなりスローだ。足がないのか抑えているのかはわからないが、このまま集団でゴールスプリントをすれば勝てると思っているのだろうか、それともゴール前まで集団で行くことがでこれば満足なんだろうか。こちらはチェーンを落とさなければスプリントで絶対に勝てると思っているので、チェーンを弛ませないように、常にチェーンを張り続けることを意識する。

イオン坂も先の下り基調区間も展開に変化はなく、スローのままゴール前300mへ。

市民レース50kmフォーティーを制した遠藤優(Roppongi Express) photo:Satoru Kato

まず歩道側から仕掛けたのはARCC山本選手。それを追った選手が一名いたが、付き切れ。こちらは(チェーン落ちリスクを減らすために)チェーンを動かす速度とチェーンラインに急激な変化を与えないように、シッティングでスプリントを開始。

座ったまま1,300ワット台で踏み込むと、ゴール前50メートルで余裕をもって先頭に立ち、そのままフィニッシュすることができた。で、足を止めたら4度目のチェーン落ちをして、猛省。

市民50kmフォーティー表彰式 優勝した遠藤優(Roppongi Express)

【レース総括】
2019年の勝利以来の7勝目(50kmで6勝、100kmで1勝)を挙げることができてホッとしたが、チェーン落ちを繰り返したことは、個人としてはだけではなく、チームとしての品格を落とすことになるし、反省しかない。「チェーン落ちがなければもっと楽に勝てたね」という話をいただいたが、それを含めて実力だと思っている。他の選手とのレースを楽しむのではなく、チェーン落ちしないことだけを考えてたら勝っていたという、面白味に欠けるレースになってしまった。

市民50km各クラスの優勝者たちと

2位だったARCC山本選手は来年は100kmマスターズに移行するというが、自分はまた来年も同じクラスで連覇を目指そうと思っている。ツール・ド・おきなわの神様に8回目の勝者に選ばれるように、機材の再選択、自身の能力を磨いて来年を迎えようと思う。

text:遠藤優(Roppongi Express)

市民レース50km フォーティー結果
1位 遠藤優(Roppongi Express)1:15:08.434
2位 山本耕平(ARCCレーシングチーム)
3位 井上修平(AlterLock Racing)
4位 堀江亮(My Pace Cycling Team)
5位 宇根友幸(和琉酒ダイニング良風)
6位 阿南大介(内房レーシングクラブ)

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