F1フランスGPの舞台マニクールを飛び出したツール12日目は、今大会最後の大集団スプリントだったのかもしれない。家族の前で3勝目を挙げ、息子の名を刻んだ手首に口づけたメルリールや、落車でツールを去ったガビリアの姿を伝える。



残り100m地点を先頭で通過したミラン・フレティン(ベルギー、コフィディス) photo:Sotaro.Arakawa

第12ステージが、2026年ツール・ド・フランスにおける最後の大集団によるスプリントだったのかもしれない。

もちろん3週目には、平坦に分類される第17ステージが待っている。だがコース前半の約60kmには3つの4級山岳と1つの3級山岳が詰め込まれ、ピュアスプリンターにとって簡単なレイアウトではない。また、かつて「スプリンターたちの世界選手権」と形容された最終日のシャンゼリゼ決戦は、今年もモンマルトルの丘を3度越えるため、主催者は「最も強いスプリンターにはチャンスがある」としているものの、かつてのように大集団が直線へなだれ込む可能性は低い。

つまり第12ステージが、各チームがトレインを組み、ピュアスプリンターが横一線で争う最後の機会である可能性が高いのだ。

だからこそ、この日勝利したティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)にも、記者から「第17ステージで再び勝利を狙うのか」という質問が飛んだ。メルリールは「逃げのステージになると思う。スプリントになる可能性もあるだろうが、他のチームはその前に僕を振り落とそうとするはずだ」と答え、その「他のチーム」の筆頭が、マイヨヴェールを着るマッズ・ピーダスン(デンマーク)のリドル・トレックだと考えるのが自然だ。

ではこの後、今大会3勝を手にしたメルリールをはじめ、「ピュア」という形容詞のつくスプリンターたちは何を目指して走るのだろうか。その問いに、メルリールは「生き残ることかな(笑)」と答え、こう続けた。「出場している選手は皆、パリまで走り切りたいと思っている」。

スタート地点となったマニクール・サーキット photo:Sotaro.Arakawa

話をスタート地点まで巻き戻したい。この日のスタート地点は、前日のフィニッシュ地点ヌヴェールの中心部から、わずか17kmほど真南へ移動した場所、シルキュイ・ドゥ・ヌヴェール・マニクール。日本では「マニクール・サーキット」と書けば、見覚えや聞き覚えのある人も多いのではないだろうか。ここは1991年から2008年まで18年連続でF1フランスGPを開催し、ミハエル・シューマッハが8勝を挙げた場所なのだ。

バルセロナ近郊で迎えた大会3日目、スタート地グラノリェースのすぐ近くにある「カタルーニャ・サーキット」には立ち寄らず、北へ向かったツール。しかし12日目にしてようやく、ツールとF1が同じアスファルトの上で交わった。

王者の風格漂わせるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:A.S.O.

そしてチームプレゼンテーションを終えた選手たちが、続々とホームストレート上へ集まってきた。

2018年に一度だけ試されたグリッドスタートを少し期待したが、選手たちは、白い衣装を着て傘を掲げたスタッフの後ろへ並んだ。いつものようにマイヨジョーヌをはじめとする4賞ジャージと前日の勝者が最前列に並び、その後ろには、パラパラとやってきた選手たちがランダムに収まった。

そして、そのままスタート。選手たちはサーキットを1周し、179.1km先、ほぼ真東にあるシャロン・シュル・ソーヌを目指して走り出した。

選手たちが一斉にスタートし、まずは第1コーナーを曲がっていく photo:Sotaro.Arakawa

この日最も長く逃げたのは、前日のフィニッシュ直後にフランスTVへゲスト出演し、何度も笑いを取っていたバティスト・ヴェストロフール(フランス、ロット・アンテルマルシェ)だった。単独先行だったヴェストロフールには、2026年限りで引退するため今大会が現役最後のツールとなるダミアーノ・カルーゾ(イタリア、バーレーン・ヴィクトリアス)ら3名が追いつき、4名の逃げが形作られた。

その後、逃げがプロトンに飲み込まれると、ド派手なアメリカ王者ジャージを着用するクイン・シモンズやピーダスン本人まで、リドル・トレックが代わる代わるアタック。しかしスプリンターチームの統制を崩すことはできず、構図だけを見れば、典型的なスプリントステージとなり、そして勝ったのは、やはりと言うべきかメルリールだった。

今大会3勝目をマークしたティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ) photo:CorVos

第7ステージの1勝目では、肩にのしかかっていたプレッシャーを払いのけるような仕草を見せ、第8ステージの2勝目では両手の人差し指を空へ突き上げた。そして今大会3勝目となったこの日は、フィニッシュラインを越える直前に勝利を確信。左から差し込もうとするコーイの存在など意に介さず、メルリールはハンドルから右手を離し、その手首の内側に口づけをした。

そのパフォーマンスの理由は、記者会見の場で明らかになった。「手首には息子ジュルを意味する文字が刻まれているんだ。その直後に息子と会うことができ、本当に素晴らしい瞬間だった」。

また、表彰式後のインタビューには、その小さな息子も一緒に座っていた。インタビューに答える父親の顔をじっと見つめ、最後にはインタビュアーから「パパに『ブラボー』って言おうか?」と促されたものの、恥ずかしそうに答えない。その様子まで現地の中継映像に映し出され、3度目の勝利を彩る最高のアクセントとなっていた。

今大会3勝目をマークしたティム・メルリール(ベルギー、スーダル・クイックステップ)が息子と一緒に表彰台に photo:A.S.O.

最後に、現場で見たフェルナンド・ガビリア(コロンビア、カハルラル・セグロスRGA)の様子を伝えたい。最終ストレートで右へ進路を変えたヴラド・ファンメヘレン(ベルギー、バーレーン・ヴィクトリアス)の後輪に前輪が触れ、激しく落車したガビリア。レース後、審判団はファンメヘレンの進路変更を危険行為だと判断し、降格処分を科した。

ガビリアは身体の左側に広範囲の擦過傷を作りながらも立ち上がり、自転車に乗ってフィニッシュ。チームバスへ戻ってくると、自らのスマートフォンを手にメディカルカーへ乗り込み、プレスセンターの裏に止められた医療用のバスで検査と治療を受けた。

鎖骨骨折を負ったフェルナンド・ガビリア(コロンビア、カハルラル・セグロスRGA) photo:CorVos

フィニッシュへ向かう間も、バイクを降りた後も、左腕を身体の前で抱え込むような姿勢を崩さなかったガビリア。その後、チームから発表された診断は左鎖骨骨折。痛む鎖骨をかばうため、左腕を身体の前で支えていたのだろう。

同じ落車では、イェノ・ベルクムース(ベルギー、ロット・アンテルマルシェ)も鎖骨を骨折した。ベルクムースは母国ベルギーへ戻り、手術を受ける予定だという。

これがピュアスプリンターたちにとって今大会最後の集団スプリントとなるのであったら、その結末はあまりにも対照的だった。家族と勝利の喜びを分かち合うメルリール。その一方で、ガビリアは痛む身体を抱え、ツールを去ることになった。

フィニッシュ直後にコースを離れ、歩道でサドル角度を調整するセップ・クス(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) photo:Sotaro.Arakawa

text:Sotaro.Arakawa in Champforgeuil, France
photo:CorVos, A.S.O.