世を驚かせたONEのエアロコンセプトを取り入れてデビューした、ファクターの新型グラベルレーサーが「ELARA(エラーラ)」。ELARAを駆りグラベルクラシックやくらいを走ったファクター代表、ロブ・ギティス氏の言葉をもとにその開発背景を探った。



来日したロブ・ギティス氏と、真新しいエアログラベルレーサー、ELARA photo:So Isobe

新型ONEの発表で世を驚かせたファクターの代表、ロブ・ギティス氏が来日してグラベルクラシック・やくらいを走った。しかも今回は、アグレッシブなエアロデザインで話題をさらい、レース時はまだ未発表だった新型グラベルバイク「ELARA(エラーラ)」を駆っての参戦だ。

ONEと似通ったエアロコンセプトを纏ったELARAは、アンバウンドグラベルでプロトタイプが確認され話題をさらった、ファクターの最新エアログラベルレースバイク。ギティス氏が持ち込んだ実車を目の当たりにすると、アグレッシブなエアロデザインに、超ワイドスタンスのエアロフォーク、さらには同時開発された64mmハイト/超ワイドエアロホイールなど、重戦車のようなボリューム感に圧倒されるが、8kg台と非常に軽く仕上がっていることにも驚かされる。

9月4日に世界公開されたグラベルレーシングバイク、ELARA photo:So Isobe

エアロ化が本格的に到来しているグラベルレースの世界に、ライバル勢を突き放すかのように投入されたELARA。「でも、その礎となったのはOSTRO GRAVELです」とギティス氏は言う。「今から4年前、まだ誰もグラベルレースバイクに空力性能が必要だとは考えていなかったタイミングで、我々はOSTRO GRAVELをローンチし世間を驚かせた。そして時を経てデビューしたELARAは、もはや別次元の空力性能を手に入れています。だから全く違う名前をつけたんです」。

今や世界のグラベルレースの平均スピードは30km/hを超える。空力性能に優れたレースバイクを作ることは、ブランドの設立当初から空力を突き詰めてきたファクターにとって当然だった。「数年前の各社のラインナップを振り返ってみてください。当時はどのブランドも空力なんてグラベルバイクに求めていなかった。でも、ようやく世間は我々に追いついてきましたね(笑)」。

ただし、ライバル各社と一線を画すのは、超ワイドタイヤを収めるクリアランスをELARAに与え、さらにフロントダブル変速という選択肢を残していることだとギティス氏は強調する。「今日僕が乗っていたタイヤは57mm。どんどんレースタイヤもワイド化していますが、実際にワイドタイヤ用のクリアランスと空力を両立するのは非常に難しい。だからそれを叶えるフロントフォークを開発したのです」。

ONEと共通のデザインコンセプトを投入したエアロフォーク photo:So Isobe
大きくオフセットしたシートチューブ。最大57mmタイヤに対応する(写真は50mm) photo:So Isobe



筆者は年に数回海外ブランドのロードバイク発表会に足を運んでいるが、面白いのは、どのブランドの開発者も空力のターゲットとして挙げているのが、「ONE」であるということ。「ONEに匹敵する空力性能」と真っ向勝負を挑むブランドもあれば、「あそこまでアグレッシブな設計は取らず、全体的なトータルバランスを取った」と、あえて距離を置くような立場を取るブランドもある。ELARAは、そんな中でファクターが培ってきたノウハウを注ぎ込んで生まれた1台だ。

「ONEは世界で最も速いバイクであり、我々は他社のバイクではなく、常に我々の中でONEを指標にして空力性能を突き詰めています」とギティス氏。ファクターはすべてのバイクの開発において、「ONEから10%ダウンまで」という明確な空力目標を掲げているという。「難しい課題ですが、非常に面白くもある」。この目標を支えるのが、地理的に分散した開発体制だという。カナダと台湾にエンジニアリングチームを、CFD(数値流体力学)チームをオーストラリアに配置。「カナダで朝にデザインして、それをオーストラリアのCFDチームに送ります。そしてカナダが休んでいる間にCFD検証ができる。そうすればタイムロスなく仕事を回していけるのです」。

423mmの短いチェーンステイと、フロントダブル対応という難題

バイクの回頭性や反応性に大きな影響を与えるチェーンステイ長は、ELARAにおいて423mmという非常に短い設定になっている。特筆すべきは、フロントシングルだけでなくダブル仕様にも対応しながら、57mmというタイヤクリアランスを実現していることだ。

トップチューブのF.K.T.は「Fastest Known Time」の頭文字 photo:So Isobe
ダウンチューブにはストレージを用意する photo:So Isobe


チェーンステーは反応性を高めるために短く設定。フロントダブルにも対応している photo:So Isobe

これほどワイドなタイヤクリアランスを備えたバイクは、インナーチェーンリングとの干渉を避けるためにフロントシングル専用となるか、あるいはエレベーテッドチェーンステーを採用することが一般的だ。しかし、ファクターが選んだのは異なる道だった。「フロントシングル専用にしたくはなかった。多くのブランドは57mmタイヤ用のクリアランスを維持するためにドロップチェーンステイを採用しますが、運動性能に大きく影響する部分ですからそうはしたくなかった。実際、フロントディレイラーをどのように配置するかは、とても大変な仕事でした」。

ホイールについても、開発の基本思想は空力にある。「今やグラベルにおいても空力が語られない瞬間はありません。軽いだけのホイールは、8km/h以下でなら効果を持ちますが、それ以上の速度域になれば空力は見過ごせません」。

ブラックインクのSIXTY FOUR Gravelホイール photo:So Isobe

空力を突き詰める一方、バイク自体は非常に軽く仕上げられている。世界レベルで見れば、多くの登坂を含んだグラベルレースも少なくないため、軽さも欠かせない要素だからだ。「ファクターレーシングのロマン・バルデはELARAと64mmホイールの組み合わせしか使っていない。これも、我々が空力と軽さを両立していることの証明です」。

そのファクター・レーシングチームは、ELARAの開発において大きなフィードバックをもたらした存在でもある。昨年12月、バルデともう一人の選手に、剛性や重量を変えた5つのテストサンプルを渡してブラインドテストを実施。ライドスタイルがまったく異なる2人だったが、共通して今市販品となっているレイアップを気に入ったという。そこから選ばれたモデルを叩き台に、およそ半年間かけて製品としての完成度を煮詰めていったそうだ。

ジオメトリーの設計も、タイヤが太くなっていることを前提に組み立てられている。「特にハンドリングに関する部分ですね。BBハイトは非常に低く設定していますが、ワイドタイヤで全体の車高が上がるので、トータルで見たとき非常にナチュラルな乗り味になるよう工夫しています」。

3つのグラベルラインナップ

悪天候のやくらいを走るロブ・ギティス氏 photo:Makoto AYANO

前日土曜日にはコースを試走。ファクターを販売するトライスポーツの大西さんと、筆者もギティス氏と一緒に走った photo:So Isobe
かつてはプロロード選手として欧州を走っていたギティス氏。テクニカルなコースに手を焼いていた photo:So Isobe



ELARAはファクターにとって4台目のグラベルバイクだ。あらゆる走り方に適したオールラウンドバイクの「ALUTO」、超長距離やアドベンチャーライドを楽しむユーザーに向けた「SARANA」、そしてOSTRO GRAVELを置き換える「ELARA」。グラベルバイクというジャンルの裾野が広がる中、これほど豊富に、かつそれぞれのユーザーに最適なバイクをラインナップしているブランドはそう多くない、とギティス氏は自負する。

「例えば、今回走った、たっぷり荒れたやくらいのコースに一番合うのはSARANAのサスペンション付きでしょうね。世の中に出回っている多くのバイクにアフターマーケットのサスペンションを付けることはできますが、その多くはサスペンション搭載を前提として設計されていません。でもSARANAは45mmストロークのサスペンションを前提にしている。ジオメトリーや強度も含めてね」。

なぜファクターは、これほどまでにグラベルというカテゴリーに力を注ぐのか。ギティス氏の答えは、自転車という乗り物そのものの在り方に関わっている。

「世界中、特に私の出身国であるアメリカでは、グラベルバイクはすでにロードバイクを所有している人の『第2のバイク』でした。とても高価なロードバイクと、安いグラベルバイクというふうに。でも今はそれが本当に変わり、みんながグラベルバイクを持ち、ロードバイクはたまに乗る程度、という人が非常に増えています」。

「グラベル界のリーダーとしてのプレゼンスを更にに高めていきたい」と言う photo:So Isobe

背景には都市部での自転車を取り巻く環境の変化もある。「特に都市部では、車のドライバーが運転中にスマホを見たり、メッセージを打ったりと、自転車乗りにとって本当に危ない状況になってきました。それとコロナ禍によってみんながバーチャルサイクリングを始めましたが、そもそも自転車の楽しみはそこにはない。自転車とは、外を走ることこそが楽しみの根源です」。

日本を含む一部の国では、グラベル環境がまだ十分に整っていないことも承知しているという。それでもファクターは「グラベル界のリーダー」としてのプレゼンスを、これからさらに高めていきたいと考えている。「我々はグラベルレーシングチームも持っているし、そこに対して非常にシリアスに臨んでいます」。

text:So Isobe

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