いよいよ明日、8月23日に開幕する第80回ブエルタ・ア・エスパーニャ。総合優勝者に与えられるマイヨロホを争うのは、いずれも初制覇を狙うヴィンゲゴーやアルメイダ、アユソ、オコーナーといった選手たち。アングリルなど激坂で争われる総合争いをプレビューする。



2024年大会で総合優勝したプリモシュ・ログリッチ(スロベニア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) photo:CorVos

マイヨロホとは、ブエルタ・ア・エスパーニャ最高の栄誉を表す赤色ジャージ。ツールのマイヨジョーヌ、ジロのマリアローザにあたる個人総合成績のリーダージャージであり、毎日のステージ成績を積算し、その最も少ない選手が翌日のステージでマイヨロホを着る。つまり最終日を終えた時点でマイヨロホを着ている選手が、ブエルタ総合優勝の栄冠に輝く。

2010年にA.S.O.がブエルタ主催者Unipublicに資本参入したことを受け、ツール・ド・フランスの黄色いマイヨジョーヌとの混同を避けるため、金色のマイヨオロからスペインのナショナルカラーである赤色に変更された。ちなみにジャージスポンサーは、今年も2013年より継続する世界大手のスーパーマーケットチェーン「カルフール」だ。

フィニッシュの他にレースに展開を与えるボーナスタイムは今年も健在。ブエルタではチーム・個人タイムトライアルを除く各ステージの上位3名(1位:10秒、2位:6秒、3位:4秒)と中間スプリントや山岳頂上の上位3名(1位:6秒、2位:4秒、3位:2秒)でもボーナスタイムが与えられるため、山頂フィニッシュで活躍する選手が総合リードを広げることになる。

今大会のクイーン(最難関)ステージである第20ステージ image:A.S.O.

今大会の山頂フィニッシュは10もあり、特にマイヨロホ争いが勃発するであろうステージは最大勾配24%の超級山岳アングリル(距離12.4km/平均9.7%)にフィニッシュする第13ステージから始まる。そして第3週に突入すると1級山岳アルト・デ・エル・モレデロ(距離8.8km/平均9.7%)にフィニッシュする第17ステージから、翌日は27.2kmの個人タイムトライアル。最終日はマドリッドでの平坦ステージなので、クイーン(最難関)ステージである第20ステージの超級山岳ボラ・デル・ムンド(距離12.3km/平均8.6%)頂上で、マイヨロホの最終的な持ち主が決まる。



盤石の布陣で初制覇を狙うヴィンゲゴー

ブエルタ初制覇に挑むヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) photo:A.S.O.

第80回大会に出場する184名のうち、総合優勝経験があるのはセップ・クス(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク)のただ1人。そのクスはチームメイトであるヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク)のアシストに徹すると見られるため、誰が勝っても新しいチャンピオンが誕生することになる。その有力候補の筆頭は、もちろんツール・ド・フランスを2度制したヴィンゲゴーだ。

2023年大会では区間2勝を挙げ、総合2位に入ったヴィンゲゴーにとって、ブエルタで単独エースを担うのは初めて。今年のツールでは総合2位と悔しい結果に終わった雪辱を晴らすべく、モチベーションは高い。最大のライバルであるタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG)が不在であることに加え、チームにはツールから連戦のクスやマッテオ・ジョーゲンソン(アメリカ)、ヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)など強力なアシストが揃っており、盤石の布陣で初制覇に挑む。

対抗馬はUAEのダブルエース

アユソとダブルエースを組むジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos

「一強」のヴィンゲゴーに挑む筆頭は、UAEチームエミレーツXRGが送り込むジョアン・アルメイダ(ポルトガル)とフアン・アユソ(スペイン)のダブルエースだ。ワールドツアーのステージレースで3大会連続総合優勝とキャリアハイのシーズンを送るアルメイダは、ツールで落車リタイア(肋骨骨折)から復帰し、リベンジのブエルタに臨む。一方のアユソは、2022年に総合3位、翌年に総合4位安定した成績を残しており、2014年以来となるスペイン人総合優勝への期待を一身に背負う。

ちなみにスペイン勢では、昨年総合3位のエンリク・マス(モビスター)が左脚の血栓性静脈炎のため不出場。ミケル・ランダ(スーダル・クイックステップ)も直前のインタビューで総合優勝を狙わないと発言している。

昨年の覇者であるプリモシュ・ログリッチ(スロベニア)を欠くレッドブル・ボーラ・ハンスグローエはジャイ・ヒンドレー(オーストラリア)がエースを担う。昨年は13日間に渡りマイヨロホを着用したベン・オコーナー(オーストラリア、ジェイコ・アルウラー)は、昨年の総合2位を上回る結果を虎視眈々と狙っている。

見逃せないダークホースたち

悲願の初制覇を目指すエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) photo:A.S.O.

2022年の大怪我から復活を遂げたエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)も、グランツール完全制覇を目指してブエルタに参戦する。前哨戦のブエルタ・ア・ブルゴスで総合6位と調子は上向き。フィリッポ・ガンナ(イタリア)やミハウ・クフィアトコフスキ(ポーランド)ら、経験豊富なベテラン勢が脇を固める布陣となれば、さらに期待は高まる。

そしてダークホースとして注目したいのが、MTBで五輪2大会連続の金メダリスト、トーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング)だ。「ジロでの経験を活かし、時間をかけて準備してきた。総合争いで自分がどこまでやれるか楽しみだ」と語るように、そのポテンシャルは計り知れない。チームのアシスト体制には不安が残るものの、その爆発的な走りが総合争いをかき回すかもしれない。

グランツールで総合争いに初挑戦するトーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング) photo:CorVos
ブエルタ・ア・エスパーニャ歴代総合優勝者
2024年 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)
2023年 セップ・クス(アメリカ)
2022年 レムコ・エヴェネプール(ベルギー)
2021年 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)
2020年 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)
2019年 プリモシュ・ログリッチ(スロベニア)
2018年 サイモン・イェーツ(イギリス)
2017年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2016年 ナイロ・キンタナ(コロンビア)
2015年 ファビオ・アル(イタリア)
2014年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2013年 クリストファー・ホーナー(アメリカ)
2012年 アルベルト・コンタドール(スペイン)
2011年 クリストファー・フルーム(イギリス)
2010年 ヴィンチェンツォ・ニーバリ(イタリア)
text:Sotaro.Arakawa
photo:A.S.O. CorVos