スイス、クラン・モンタナの難コースでMTBの新世界チャンピオンが誕生。ジェニー・リスヴェッズ(スウェーデン)がキャリア初の、アラン・ハザリー(南アフリカ)が昨年に続く2度目のアルカンシエルを手にした。
XCO女子エリート:リオ五輪覇者リスヴェッズが初のアルカンシエルを獲得

無数のスイスファンが詰めかけたクラン・モンタナの特設コース photo:UCI
9月13日(土)に開催されたMTB世界選手権女子クロスカントリーレース(XCO)に参戦したのは、24カ国から選りすぐられた54名の選手たち。アルプスの山岳リゾート地クラン・モンタナに設定された1周回3,800m/獲得標高160mのコースに向けて弾けるようにスタートを切る。すると間髪入れず、先頭アレッサンドラ・ケラー(スイス)の落車をうまく交わしたジェニー・リスヴェッズ(スウェーデン)がリードを奪った。
シーズン後半のポルトガルとフランスのW杯でXCC・XCO全勝優勝しているリスヴェッズは、するすると13秒のリードで1周目を完了。後方からは優勝候補のサマラ・マクスウェル(ニュージーランド)とXCCで勝利したケラーが、連覇がかかるプック・ピーテルセ(オランダ)を千切りながら追いかけてくる。しかし合計7周回、1時間半弱の戦いにおいて、10秒〜20秒ほどで推移するタイム差がひっくり返ることは最後までなかった。

昨年度女王プック・ピーテルセ(オランダ)。パンクで後退を喫した photo:UCI 
スイスファンの応援を背に追走するアレッサンドラ・ケラー(スイス) photo:UCI

世界選手権を制したジェニー・リスヴェッズ(スウェーデン) photo:UCI
「(独走したのは)最初から仕掛けようと思っていたのではなく、自分自身のレースを組み立てようと思っていただけ。コンディションも良く、自分のレースを走りきれることも分かっていた」と振り返るように、リオ五輪覇者はメリハリのあるペースメイクで先頭をひた走る。競り合いながら追うマクスウェルとケラーが2番手で、ピーテルセとイヴィ・リチャーズ(イギリス)がその後ろ。しかしピーテルセは後輪トラブルを抱えて後退を強いられてしまった。
「サマラとアレッサンドラとのタイム差は聞いていたけれど、その後ろはほとんど気にしていなかった」と言うリスヴェッツは、猛烈にチャージするマクスウェルから10秒リードで最終周回に突入。W杯開幕戦の焼き直しのような展開で、後半勝負を得意とするマクスウェルの逆転かと思われたが、この日はリスヴェッズの一定ペースが上回った。

サマラ・マクスウェル(ニュージーランド)は追走届かず2位。涙を流した photo:UCI

女子エリート表彰台:1位リスヴェッツ、2位マクスウェル、3位ケラー photo:UCI
最終的に2人の差は18秒まで広がってチェッカーフラッグ。好調ぶりを遺憾なく発揮したリスヴェッズが初のアルカンシエルを獲得し、リオ五輪金メダルに続く大きな戦績を打ち立てた。
「選手たちは全員が世界チャンピオンになりたい、と言うけれど、自分にとって本当に世界選で勝つことを望んで、自分を信じたのは今年が初めてだったと思う。達成できたことを誇りに思いたい」と、言葉を選びながらインタビューに答えたリスヴェッズは言う。2位は過去最高成績ながら悔しい表情のマクスウェル、3位は母国スイスファンの応援を一身に受けて走ったケラー。序盤からレースを引っ張った3人がそのまま表彰台を独占する形となった。
XCO男子エリート:ハザリーがタイトル防衛に成功、シューターは最後の世界選を終える

序盤から独走したアラン・ハザリー(南アフリカ) photo:UCI
1週間にわたる世界選手権の大トリを務めたのは、9周回で行われた男子エリートのクロスカントリーレース。スタートが切られると同時に、今大会の有力候補であり、XCC(ショートトラック)で金メダルと銀メダルを分け合ったヴィクトル・コレツキー(フランス)とクリストファー・ブレヴィンス(アメリカ)がレースを引っ張った。
しかし1周目、ラインが2本に別れるセクションでコレツキーが木の根にタイヤを取られるミス。その間に別ラインでするすると先頭に立ったのが、昨年度覇者のアラン・ハザリー(南アフリカ)だった。
連覇が掛かるハザリーは10秒ほどのリードを得て単独走に。後に「今日のレースはそれぞれがタイムトライアルのように追いかけ合う展開になると思っていた。それなら最初から自分のペースで走る方が良かった」と言うディフェンディングチャンピオンが、競り合いながら追走を試みる2番手パックをあれよあれよという間に引き離した。

ロックセクションを下るマチュー・ファンデルプール(オランダ)。良い走りを披露することはできなかった photo:UCI

現役最後の世界選手権。ニノ・シューター(スイス)がファンを沸かせる photo:UCI
アルカンシエルが期待されていたマチュー・ファンデルプール(オランダ)は苦しげな走りで遅れ、ブレヴィンスも脱落し、現役最後の世界選手権となったニノ・シューター(スイス)もトップ20圏外。一方で昨年大会のU23銅メダル、今年のXCC欧州王者となったルカ・シャッティ(スイス)やシモーネ・アヴォンデッド(イタリア)といった若手勢は2番手グループに食い込んで気を吐いた。
安定した走りでハイペースを刻むハザリーと2番手グループの差は、フィニッシュまで30分以上を残した時点で1分半に到達。「ライバルとの差が1分まで広がれば気持ちを折れると思っていたよ。残り2,3周辺りからは序盤から逃げたツケが回ってきて辛かったけれど、精神的な余裕が力になってくれた」と振りかえるハザリーが、リスクを負うことなく最終ラップを走り切ってフィニッシュ。最有力候補には挙げられていなかった下馬評をはねのけて2年連続のXCO世界王者に輝いた。激しい2番手争いを制したのはアヴォンデッドで、コレツキーが2番手。最終周回に強烈なアタックを放ったマティアス・フルッキガー(スイス)はフィニッシュ手前で飲み込まれて5位。開催国スイスは表彰台を逃す結果に終わった。

2年連続の世界王者に輝いたアラン・ハザリー(南アフリカ) photo:UCI

男子エリート表彰台:1位ハザリー、2位アヴォンデッド、3位コレツキー photo:UCI
優勝したハザリーは、南アフリカ出身の29歳。今年はワールドチームのジェイコ・アルウラーにも籍を置き、ロードとMTBの兼業選手としてのキャリアを歩み出していた。「正直いえば、2つの競技をどちらも高いレベルで走るのは本当に大変だったよ。でもタイトル防衛は大きな目標だったし、先月からMTBに集中して練習をこなしたことが結果になったと思う。2週間前のW杯の走りも自信に繋がったし、そこから休息を入れて臨んだんだ」と、2年連続のアルカンシエルを手にしたハザリーは振り返っている。

母国で最後の世界選手権を走り終えたニノ・シューター(スイス) photo:UCI
また、完全失速したファンデルプールは5分半遅れの29位。翌週開催のW杯でキャリアラストレースを迎えるシューターは、最後にペースを落として完走選手中最下位となる42位で現役最後の世界選手権をフィニッシュした。チームメイトやスタッフからシャンパンファイトでキャリア終幕を祝福され、プレゼンターとして表彰式にも参列。かつて10回手にしたアルカンシエルをハザリーに託して表彰台をあとにした。
XCO女子エリート:リオ五輪覇者リスヴェッズが初のアルカンシエルを獲得

9月13日(土)に開催されたMTB世界選手権女子クロスカントリーレース(XCO)に参戦したのは、24カ国から選りすぐられた54名の選手たち。アルプスの山岳リゾート地クラン・モンタナに設定された1周回3,800m/獲得標高160mのコースに向けて弾けるようにスタートを切る。すると間髪入れず、先頭アレッサンドラ・ケラー(スイス)の落車をうまく交わしたジェニー・リスヴェッズ(スウェーデン)がリードを奪った。
シーズン後半のポルトガルとフランスのW杯でXCC・XCO全勝優勝しているリスヴェッズは、するすると13秒のリードで1周目を完了。後方からは優勝候補のサマラ・マクスウェル(ニュージーランド)とXCCで勝利したケラーが、連覇がかかるプック・ピーテルセ(オランダ)を千切りながら追いかけてくる。しかし合計7周回、1時間半弱の戦いにおいて、10秒〜20秒ほどで推移するタイム差がひっくり返ることは最後までなかった。



「(独走したのは)最初から仕掛けようと思っていたのではなく、自分自身のレースを組み立てようと思っていただけ。コンディションも良く、自分のレースを走りきれることも分かっていた」と振り返るように、リオ五輪覇者はメリハリのあるペースメイクで先頭をひた走る。競り合いながら追うマクスウェルとケラーが2番手で、ピーテルセとイヴィ・リチャーズ(イギリス)がその後ろ。しかしピーテルセは後輪トラブルを抱えて後退を強いられてしまった。
「サマラとアレッサンドラとのタイム差は聞いていたけれど、その後ろはほとんど気にしていなかった」と言うリスヴェッツは、猛烈にチャージするマクスウェルから10秒リードで最終周回に突入。W杯開幕戦の焼き直しのような展開で、後半勝負を得意とするマクスウェルの逆転かと思われたが、この日はリスヴェッズの一定ペースが上回った。


最終的に2人の差は18秒まで広がってチェッカーフラッグ。好調ぶりを遺憾なく発揮したリスヴェッズが初のアルカンシエルを獲得し、リオ五輪金メダルに続く大きな戦績を打ち立てた。
「選手たちは全員が世界チャンピオンになりたい、と言うけれど、自分にとって本当に世界選で勝つことを望んで、自分を信じたのは今年が初めてだったと思う。達成できたことを誇りに思いたい」と、言葉を選びながらインタビューに答えたリスヴェッズは言う。2位は過去最高成績ながら悔しい表情のマクスウェル、3位は母国スイスファンの応援を一身に受けて走ったケラー。序盤からレースを引っ張った3人がそのまま表彰台を独占する形となった。
XCO男子エリート:ハザリーがタイトル防衛に成功、シューターは最後の世界選を終える

1週間にわたる世界選手権の大トリを務めたのは、9周回で行われた男子エリートのクロスカントリーレース。スタートが切られると同時に、今大会の有力候補であり、XCC(ショートトラック)で金メダルと銀メダルを分け合ったヴィクトル・コレツキー(フランス)とクリストファー・ブレヴィンス(アメリカ)がレースを引っ張った。
しかし1周目、ラインが2本に別れるセクションでコレツキーが木の根にタイヤを取られるミス。その間に別ラインでするすると先頭に立ったのが、昨年度覇者のアラン・ハザリー(南アフリカ)だった。
連覇が掛かるハザリーは10秒ほどのリードを得て単独走に。後に「今日のレースはそれぞれがタイムトライアルのように追いかけ合う展開になると思っていた。それなら最初から自分のペースで走る方が良かった」と言うディフェンディングチャンピオンが、競り合いながら追走を試みる2番手パックをあれよあれよという間に引き離した。


アルカンシエルが期待されていたマチュー・ファンデルプール(オランダ)は苦しげな走りで遅れ、ブレヴィンスも脱落し、現役最後の世界選手権となったニノ・シューター(スイス)もトップ20圏外。一方で昨年大会のU23銅メダル、今年のXCC欧州王者となったルカ・シャッティ(スイス)やシモーネ・アヴォンデッド(イタリア)といった若手勢は2番手グループに食い込んで気を吐いた。
安定した走りでハイペースを刻むハザリーと2番手グループの差は、フィニッシュまで30分以上を残した時点で1分半に到達。「ライバルとの差が1分まで広がれば気持ちを折れると思っていたよ。残り2,3周辺りからは序盤から逃げたツケが回ってきて辛かったけれど、精神的な余裕が力になってくれた」と振りかえるハザリーが、リスクを負うことなく最終ラップを走り切ってフィニッシュ。最有力候補には挙げられていなかった下馬評をはねのけて2年連続のXCO世界王者に輝いた。激しい2番手争いを制したのはアヴォンデッドで、コレツキーが2番手。最終周回に強烈なアタックを放ったマティアス・フルッキガー(スイス)はフィニッシュ手前で飲み込まれて5位。開催国スイスは表彰台を逃す結果に終わった。


優勝したハザリーは、南アフリカ出身の29歳。今年はワールドチームのジェイコ・アルウラーにも籍を置き、ロードとMTBの兼業選手としてのキャリアを歩み出していた。「正直いえば、2つの競技をどちらも高いレベルで走るのは本当に大変だったよ。でもタイトル防衛は大きな目標だったし、先月からMTBに集中して練習をこなしたことが結果になったと思う。2週間前のW杯の走りも自信に繋がったし、そこから休息を入れて臨んだんだ」と、2年連続のアルカンシエルを手にしたハザリーは振り返っている。

また、完全失速したファンデルプールは5分半遅れの29位。翌週開催のW杯でキャリアラストレースを迎えるシューターは、最後にペースを落として完走選手中最下位となる42位で現役最後の世界選手権をフィニッシュした。チームメイトやスタッフからシャンパンファイトでキャリア終幕を祝福され、プレゼンターとして表彰式にも参列。かつて10回手にしたアルカンシエルをハザリーに託して表彰台をあとにした。
UCI MTB世界選手権2025 クロスカントリー女子エリート結果
1位 | ジェニー・リスヴェッズ(スウェーデン) | 1:21:35 |
2位 | サマラ・マクスウェル(ニュージーランド) | +0:18 |
3位 | アレッサンドラ・ケラー(スイス) | +0:56 |
4位 | イヴィ・リチャーズ(イギリス) | +1:08 |
5位 | サヴィリア・ブランク(アメリカ) | +1:46 |
6位 | プック・ピーテルセ(オランダ) | +2:01 |
7位 | マルティナ・ベルタ(イタリア) | +2:21 |
8位 | ラモナ・フォルチーニ(スイス) | +2:33 |
9位 | ニナ・グラフ(ドイツ) | +2:44 |
10位 | ニコル・コラー(スイス) | +2:58 |
UCI MTB世界選手権2025 クロスカントリー 男子エリート結果
1位 | アラン・ハザリー(南アフリカ) | 1:30:30 |
2位 | シモーネ・アヴォンデッド(イタリア) | +0:48 |
3位 | ヴィクトル・コレツキー(フランス) | +0:51 |
4位 | ルカ・シャッティ(スイス) | +0:53 |
5位 | マティアス・フルッキガー(スイス) | +0:57 |
6位 | ルカ・ブライド(イタリア) | +1:31 |
7位 | シモン・アンドレイアッセン(デンマーク) | +2:06 |
8位 | フィリッポ・フォンタナ(イタリア) | +2:16 |
9位 | フィリッポ・コロンボ(スイス) | +2:38 |
10位 | ファビオ・プントナー(スイス) | +2:48 |
text:So Isobe
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