朝のシャワーのような雨もどこへやら。日が昇るにつれ段々と青空も見え始めてきた今年の緑のAACR。参加者たちも笑顔で走っていく中、なぜか鬼気迫る表情で必死に走る男が一人……。(※その理由はこちらの前編にて



大町へ向かって再びスタート。まだ空は曇り模様。でも雨は上がってます。

第1エイドを出発した時点で、サイクルトレインが出発する白馬駅まで残り65km。集合時間までは3時間30分。必要な平均時速は約19km弱。実際のところ、普通に走っているだけであればそこまで慌てるようなペースではないのだけれど、取材の為に途中で止まって撮影し、エイドでも取材し、ということを考慮に入れると、かなり厳しいペースである。

しかし、泣き言を言っていても始まらない。1回転でもペダルを多く回しつつ、可能な限り撮影時間を削減することで、どうにか間に合う算段を頭の中で組み立て始めた。

水田に映るサイクリストたち。この景色も緑のAACRならでは

雨上がりとあって、メカニックカーは大忙し。頼れるのはやっぱりマヴィック!

とりあえず、1か所で立ち止まる時間は最低限に。シャッタースピードを早め、使えない写真を減らすことを第一にした設定に。とにかく進んでない時間というのが一番もったいない。ゼロが平均に与える影響の大きさを、私は大学のGPAで学んだのだ。

走っている間は、もちろん頑張るしかない。しかし、登りで限界近くまで踏んだとしてもそのあとで大きくペースを乱してしまっては意味がない。焦る心を抑えつつ、第2エイドのアルプスあづみの公園 大町・松川地区へと辿り着いた。

林の中を走っていくあづみの公園の園路。

大町エイド名物(?)の猫耳エイドスタッフさんも登場

第1エイドでもそうだったのだが、普段自転車で走れない園路を特別に開放されているのは、AACRならではの嬉しいポイント。特にこの大町・松川地区は緑溢れる森の中のワインディングを走っていくことができ、まさに「緑のAACR」といった趣なのだ。

そして到着した第2エイドでは、冷麦と水ようかんが振舞われた。この日はかなり寒かったので、冷麦はちょっと寒いのでは??と思ってすすると……あったかい!

つるつるの冷や麦にさっぱり甘さの水ようかん。最高のマリアージュだ。
あたたかい冷や麦に舌鼓を打つ

なんと急遽この日の天候の為に温かいつゆでの提供となったとのだとか。AACRほどの規模の大会で、こういった臨機応変の対応はどれほど大変なことか。冷麦だけでない、おもてなしの温かさが染み入る。

しかしあまり長居はしていられない。何故なら私を待っている電車がいるから。約10分で撮影、そして補給を済ませ、後ろ髪を引かれつつ次に目指すは第3エイドだ。

大町温泉郷をとおりすぎ、一路鹿島槍方面へ

仁科三湖の最も南に位置する木崎湖。

あれ、この電車ってもしかして、乗車予定のサイクルトレインでは??

更に安曇野アートラインを北へと向かい、大町温泉郷を通り抜けたあと、鹿島川を渡って東へ。しばらく行くと、白馬と大町の間に位置する仁科三湖の最も大町側に位置する木崎湖が見えてきた。

イメージカットにぴったりで、例年足を向けるフォトポットが木崎湖キャンプ場にある桟橋。しかし今年は、キャンプ場が閉鎖してしまったこともあり、立ち寄ることはかなわず。ただ、タイムロスを極限まで抑えたい今の自分にとってはありがたくもあり、非常に複雑な心情のまま、木崎湖を越え次なる中網湖へ。

鹿島槍エイドへの登り。登りが少ないことで定評あるAACRきっての激坂である

この中網湖の南岸に設けられたのが第3エイドの鹿島槍エイド。パンチの効いた激坂を上った先にあり、スタッフのみなさん、そしてエイドを出発する参加者のみなさんが登ってくる人々に声援を送っている。ありがたいが、降りて押すという選択肢を取りづらい諸刃の剣でもある(笑)

こちらのエイドで頂けるのはかの有名な「伝説のねぎ味噌おにぎり」。つやつやごはんをふっくら握ったおにぎりに、あまからーいねぎ味噌がたっぷり乗ったおにぎりは、まさにふるさとの味。しかもおかわり自由というアナウンスが響き渡っている。めちゃくちゃ食べたい。食べたいが、何度も繰り返すように今日の私には時間が無い!

伝説のネギ味噌おにぎり、なんとおかわり自由!

ネギ味噌おにぎり、今回は一つだけいただきました(泣)

この鹿島槍エイドで撮影を終え、出発したタイミングは10時6分。集合時間まで残り54分、白馬エイドを回って白馬駅まで23km。

一瞬、白馬エイドをスルーして白馬駅に直接フィニッシュすれば間に合うのでは?というあまりにも魅力的な考えが頭をもたげるが、白馬駅から先にはAACRを語る上で絶対に外せない撮影ポイントがいくつもある。

アートラインのダウンヒルを快走していきます

白馬駅へのダイレクトフィニッシュか、160kmをフルに走るか。その2つの選択肢を真剣に考え始めたその時、目に飛び込んできたのはサイクルトレインのスケジュール表に書かれた「サイクルトレイン乗車完了時刻:11時30分」の文字。

もしかしたら、この時間に間に合えば列車に乗れるのかもしれない。たかが30分、されど30分。平均時速に換算すれば、11時に白馬駅に到着するには23km/hが必要だったところ、11時半なら15.3km/hで良いのだ。この違いはあまりにも大きい。

白馬のスキージャンプ場が遠目に見えてきました

しかし、そうは言っても決して余裕のあるペースではない。実際、第1エイドから第3エイドまでの平均時速は約16.8kmと全く楽観視はしていられないタイトさだ。油断すれば切れてしまいそうな、天から垂らされた一本の蜘蛛の糸にすがるしかない。

という計算を脳内で繰り広げながら、仁科三湖の最北に位置する青木湖を通りすぎ、一路白馬へのダウンヒル。ここから先はスピードの乗るフラット区間。しかし疲労の溜まった脚では単独で速度を維持するのはなかなか困難だ。

松川と白馬の山々をバックに!AACRのハイライトポイントだ!

と思っていると、後ろからいいペースのグループがやってくる。ここは飛び乗らせていただくしかない。サイクルトレインに間に合うための最終列車だ!

35km/h前後のちょうど良いペースで白馬へ向けて進む最終列車。そのまま一級撮影ポイントである松川を渡る橋に到着。もちろんここはお世話になった列車の皆さんに撮影モデルとしても活躍してもらう。何から何までお世話になり通しである。

一枚一枚石窯でピザを焼いてくれます

ルポゼ白馬のテラスでピザを頂く皆さん。

ルポゼ白馬名物のピザを頂きます

そして白馬エイドに到着。こちらのルポゼ白馬では石窯で焼かれたピザを頂くことが出来る。白馬エイドに到着時点で11時11分。集合時間は11分オーバーしているが、まだ真の締切には19分も余裕がある!

とはいえ、ここから白馬駅までも少しある。とにかく写真を撮影し、ピザを頂き11時16分にエイドを出発。そして11時22分、白馬駅に到着した!

ここがゴール(ではない)の白馬駅だ!

こちらがサイクルトレイン。ギリギリ間に合って感無量です。

急いでホームへ向かい、その場にいた駅員さんに「サイクルトレインに乗りたいんですが!」と伝えると、向かい側のホームだと教えてくれた。見れば確かにサイクリストがずらりと並んでいる。

階段の真ん中にスロープが設置された白馬駅のホスピタリティに感動しつつ(後で聞いたところ、自転車用ではなくスーツケースやスキーやスノーボードを運ぶキャリーケース用とのこと。よく考えればそれはそうである)、サイクルトレインの待つホームにゴール!いや、本当のゴールはここではないのだが。

白馬駅のホームに自転車をもったサイクリストが並ぶ、非日常の風景だ

安定感のある固定方法で愛車を積み込んでくれる

白馬駅の駅長さん直々のお見送りが!

ちなみにAACRのサイクルトレインでは電車への積み込みはスタッフが行ってくれる。テキパキと積み込み作業も終わり、あとは出発を待つのみ。いやぁ、間に合った……と、深い安堵のため息をつく。

そして11時43分、定刻通りに列車は出発。あとは安曇追分駅まで電車に揺られていく。電車が走り出す頃には低かった雲もだいぶ高さを増し、白馬の山々が陽光に照らされていた。もうちょっと早ければな、と思いつつも、その景色を見れただけで十分だ。

鹿島槍エイド手前の踏切。多くの参加者が驚きの表情で見守っていた。

安曇追分駅に到着。こちらでも横断幕でお迎えいただきました。

安曇追分駅から再びフィニッシュへ走り出します。

大糸線は復路を走る参加者たちと並走するシーンもあり、思わず心の中で応援。偶然踏切を待っていた参加者たちは、自転車が積まれている電車の様子に驚いている様子だった。

さて、安曇追分駅に到着すると、またスタッフさんがバイクを下ろしてくれる。ここから最終エイドの安曇野エイドまではほんの少し。このころには完全に快晴といった陽気で、安曇野エイド名物の芝生もカラッカラに乾いていた。

雲の高度が上がってきた。山の緑が映え、緑のAACRの本領発揮!

最終エイドの安曇野エイド。フカフカの芝生が気持ちいいロケーションだ。

冷たいリンゴジュースがこのエイドの名物。午後からピーカンの今日も、ありがたく飲み干しました。

汗ばむ身体に冷たいリンゴジュースを流し込んだら、最後の区間へ。あずみのアートラインへの登りをこなすも、以前の取材時より圧倒的に脚に余裕がある。これもサイクルトレインで休めたおかげだ。

さっきいただいたリンゴジュースの生まれ故郷であろうリンゴ畑の間を突っ切る直線路を走りきれば、梓水苑はもうすぐそこ。遠くに聞こえてきた元気いっぱいなMCアケさんの声が近づき、待望のフィニッシュ!

ラストの登り坂。ここを越えればあとは下りとフラットだけ!

リンゴ畑を貫くストレートを走っていく。もう間もなくフィニッシュだ。

仲良くフィニッシュ!MCアケさんの声援が迎えてくれます。

スタート前の一瞬の大雨、危うく乗り遅れそうになったサイクルトレイン。色んな事があったAACRだったけど、走り終えてみれば全て良い思い出である。むしろ、たまにはこんな刺激があってもいいんじゃないか、なんて思い始めているほど。でも、ネギ味噌おにぎりを一つしか食べれなかったのは心残り。心行くまでおにぎりを頂くためにまた来年AACRに帰ってこよう、そう心に誓ったのだった。

ホントはゆったりAACRを楽しめるサイクルトレインコース

リラックスした表情のサイクルトレイン乗車の皆さん。ゆったりとAACRを楽しまれた様子だ
今回は予想外のタイトスケジュールのリカバリーに汲々としてしまったレポートで、サイクルトレインコースってこんなに大変なんだ……と誤解を生みそうなので補足しておきます!普段のCWの実走取材は撮影しながら進むためかなり時間がかかってしまうのと、本来のコースよりも20km以上多く走っていることで発生した状況なんです(汗)

実際のサイクルトレインコースはもっとゆったり楽しめるのがホントの魅力。初めてのロングライドイベント参加にも良いし、小学生くらいのお子さんと一緒に参加されている方もたくさん。後半に力を蓄えておく必要もなく目の前のコースにしっかり集中できるし、余裕があるので景色も楽しめる。楽しいし、余力があるというのは安全という意味でも大きなメリットです。

大会プロデューサーの鈴木雷太さんも親子でサイクルトレインコースを完走。最高の笑顔!

それでいて、AACRの一番オイシイところは逃さない。普段走れないあづみの公園の園路も、美しい仁科三湖も、アートラインの下りから一気に広がる白馬の風景も、雄大な松川と白馬連峰の競演も、全部自分の脚で見て回れるのがサイクルトレインコースの真髄です。

なので、サイクルトレインコースが気になっている方は、ぜひぜひ気軽に申し込んでみてください!私も来年はもっと余裕を持って楽しめるように準備して臨みます(笑)

そうそう、しっかり余裕を持って楽しんだ様子は、昨年のレポートを参考にしてみてください!

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