抗議デモにより再びコースが短縮されたブエルタ・ア・エスパーニャ第16ステージ。逃げたエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)がランダとの一騎打ちを制し、2022年の大怪我を乗り越え、2021年以来グランツール区間優勝を果たした。なお総合上位勢に大きな動きはなかった。

総合2位で第3週を迎えたアルメイダ photo:CorVos 
マイヨプントスを着るピーダスン photo:CorVos

第16ステージのスタート地点となったポイオ photo:CorVos
9月9日(火)第16ステージ
ポイオ〜モス・カストロ・デ・ヘルヴィル 167.9km(丘陵)
獲得標高差 3,472m

第16ステージ ポイオ〜モス・カストロ・デ・ヘルヴィル image:A.S.O.
第80回ブエルタ・ア・エスパーニャの3週目は、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのような登りが途切れなく続く丘陵ステージで幕を開ける。スタートから74kmはほぼ平坦路で、まずは最初の3級山岳をクリア。直後の1級山岳グロバ(距離11.3km/平均5.4%)を皮切りに平坦は姿を消し、険しいアップダウンが本格化する。
カテゴリーが付かない急坂と最大勾配25%の2級山岳プラド(距離4.3km/平均8.9%)を越え、ラストに立ちはだかるのは、2021年第20ステージにも登場した2級山岳カストロ・デ・エルビリェ(距離8.2km/平均5.2%)の、はずだった。
ツール・ド・フランスからブエルタまで献身的にエースのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)を支えたヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)が体調不良で未出走。8名が揃うUAEチームエミレーツXRGに対し、人数を減らしたヴィスマが6名でスタート。平均時速約50kmのハイペースで進んだレースは、約50km地点でようやく17名による逃げ集団が形成された。

激しいアタック合戦が、50kmにわたり繰り広げられた photo:A.S.O.

グルパマFDJが3名を入れた、17名による逃げグループ photo:A.S.O.
その中にグルパマFDJはベテランのルディ・モラール(フランス)ら3名を入れ、スペイン勢としては14日目の勝者マルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツXRG)やミケル・ランダ(スーダル・クイックステップ)が乗る。また、総合争いから事実上脱落したエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)もボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)と共に入り、ヴィスマ・リースアバイクの牽引するメイン集団に対し4分差を得た。
この日最初の3級山岳はニコ・デンツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がトップ通過し、続く1級グロバはランダが先頭通過。そしてこの山岳で逃げ集団は、グルパマFDJの2名(ブラズアフォンソとロラン)を含む5名に絞られた。
1級山岳で形成された5名による先頭集団
ニコ・デンツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)
ミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ)
エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)
クレマン・ブラズアフォンソ(フランス、グルパマFDJ)
ブリユー・ロラン(フランス、グルパマFDJ)

カンペナールツの不在をカバーするように牽引するディラン・ファンバーレ(オランダ、ヴィスマ・リースアバイク) photo:A.S.O.
通り雨を抜け、この先頭集団にはソレルと22歳でグランツールデビューのフィンレー・ピカリング(イギリス、バーレーン・ヴィクトリアス)が合流を目指す。しかし高速で進む先頭5名との差は詰められず、先頭では最大勾配25%の2級山岳プラド(距離4.3km/平均8.9%)でランダが軽快なダンシングで進み、デンツ、そしてロランが順に脱落。7分遅れのプロトンでは、ベルナルの総合ジャンプアップにより、総合10位のトースタイン・トレーエン(ノルウェー)が脅かされることを懸念したバーレーン・ヴィクトリアスが、ヴィスマに代わって牽引を開始した。
争わずランダが2級山岳の頂上を先頭通過し、そのまま3名は続く登りへ。後続ではソレルがジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG)をアシストするために遅れ、ロランが単独で先頭を目指す。バーレーンの強力な牽引により15名程度に絞られたプロトンでは、ヴィンゲゴーのバイクがパンク。素早く身長が6cm低いベン・トゥレット(イギリス)のバイクに乗り換え、すぐ集団復帰を果たした。
一方、レース先頭でもブラズアフォンソがパンクの不運に見舞われる。ニュートラルサービスで後輪交換を受けたものの、これにより先頭は長年自転車ロードレース界でトップを走ってきたランダとベルナルに絞られる。そして下りを進み、最終2級山岳カストロ・デ・エルビリェ(距離8.2km/平均5.2%)を目指す選手たちに、急きょコース短縮が伝えられた。

ブラズアフォンソが遅れ、先頭はランダとベルナルの2名に photo:A.S.O.

残り8km地点に設定されたフィニッシュラインを先頭通過したエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) photo:CorVos
それは第11ステージと同様、フィニッシュ地点にデモ隊が集結し「安全確保が困難」と判断されたため。2級山岳を200m登った残り8km地点を新たなフィニッシュラインに設定されたことを伝えられたランダとベルナルは、残り8kmのバナー目がけてスプリント。フィニッシュライン手前で後ろを振り返ったベルナルが先着し、異例な形ではあるものの、ステージ優勝を飾った。
ベルナルは2022年の大怪我を乗り越え、2021年のジロ・デ・イタリア第16ステージ以来となるグランツールでの勝利、そして自身初となるブエルタのステージ優勝を達成。「総合争いから脱落し、どうしても勝利が欲しかった。またこのコロンビア王者ジャージを着て勝ちたかった。最終山岳は短縮されたものの、とても美しいステージでペースも終始速かった。ランダとも良い協力態勢を築くことができ、良い思い出となる勝利となった」と、表彰式は行われなかったが、勝利を喜んだ。

逃げに加わった選手たちから祝福を受けるエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) photo:A.S.O.

争うことなくフィニッシュしたヴィンゲゴーら総合勢 photo:CorVos
区間3位はロラン、4位は登りで遅れつつ粘ったデンツ。ヴィンゲゴーを先頭に総合上位勢が5分52秒遅れでフィニッシュしたため、総合順位に大きな変動はなかった。またレース中盤、第15ステージで抗議者のコース乱入未遂によって落車したハビエル・ロモ(スペイン、モビスター)が、負傷の影響で途中棄権した。
マイヨロホを着用するヴィンゲゴーはレース後、コース短縮について「再びこうしたことが起きてしまったのは残念だ。誰もが抗議する権利を持っているが、それがここでこのような形で起こり、レースを最後まで走れないのは残念。本来あってはならないこと。スペインの自転車ファンがエキサイティングな終盤を見られなかったのは本当に残念だ」とコメントした。

フィニッシュ地点で笑顔を見せたマイヨロホのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) photo:A.S.O.

敗れながらも好走を見せたミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ) photo:A.S.O.



9月9日(火)第16ステージ
ポイオ〜モス・カストロ・デ・ヘルヴィル 167.9km(丘陵)
獲得標高差 3,472m

第80回ブエルタ・ア・エスパーニャの3週目は、リエージュ〜バストーニュ〜リエージュのような登りが途切れなく続く丘陵ステージで幕を開ける。スタートから74kmはほぼ平坦路で、まずは最初の3級山岳をクリア。直後の1級山岳グロバ(距離11.3km/平均5.4%)を皮切りに平坦は姿を消し、険しいアップダウンが本格化する。
カテゴリーが付かない急坂と最大勾配25%の2級山岳プラド(距離4.3km/平均8.9%)を越え、ラストに立ちはだかるのは、2021年第20ステージにも登場した2級山岳カストロ・デ・エルビリェ(距離8.2km/平均5.2%)の、はずだった。
ツール・ド・フランスからブエルタまで献身的にエースのヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク)を支えたヴィクトル・カンペナールツ(ベルギー)が体調不良で未出走。8名が揃うUAEチームエミレーツXRGに対し、人数を減らしたヴィスマが6名でスタート。平均時速約50kmのハイペースで進んだレースは、約50km地点でようやく17名による逃げ集団が形成された。


その中にグルパマFDJはベテランのルディ・モラール(フランス)ら3名を入れ、スペイン勢としては14日目の勝者マルク・ソレル(スペイン、UAEチームエミレーツXRG)やミケル・ランダ(スーダル・クイックステップ)が乗る。また、総合争いから事実上脱落したエガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)もボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク)と共に入り、ヴィスマ・リースアバイクの牽引するメイン集団に対し4分差を得た。
この日最初の3級山岳はニコ・デンツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)がトップ通過し、続く1級グロバはランダが先頭通過。そしてこの山岳で逃げ集団は、グルパマFDJの2名(ブラズアフォンソとロラン)を含む5名に絞られた。
1級山岳で形成された5名による先頭集団
ニコ・デンツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ)
ミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ)
エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ)
クレマン・ブラズアフォンソ(フランス、グルパマFDJ)
ブリユー・ロラン(フランス、グルパマFDJ)

通り雨を抜け、この先頭集団にはソレルと22歳でグランツールデビューのフィンレー・ピカリング(イギリス、バーレーン・ヴィクトリアス)が合流を目指す。しかし高速で進む先頭5名との差は詰められず、先頭では最大勾配25%の2級山岳プラド(距離4.3km/平均8.9%)でランダが軽快なダンシングで進み、デンツ、そしてロランが順に脱落。7分遅れのプロトンでは、ベルナルの総合ジャンプアップにより、総合10位のトースタイン・トレーエン(ノルウェー)が脅かされることを懸念したバーレーン・ヴィクトリアスが、ヴィスマに代わって牽引を開始した。
争わずランダが2級山岳の頂上を先頭通過し、そのまま3名は続く登りへ。後続ではソレルがジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG)をアシストするために遅れ、ロランが単独で先頭を目指す。バーレーンの強力な牽引により15名程度に絞られたプロトンでは、ヴィンゲゴーのバイクがパンク。素早く身長が6cm低いベン・トゥレット(イギリス)のバイクに乗り換え、すぐ集団復帰を果たした。
一方、レース先頭でもブラズアフォンソがパンクの不運に見舞われる。ニュートラルサービスで後輪交換を受けたものの、これにより先頭は長年自転車ロードレース界でトップを走ってきたランダとベルナルに絞られる。そして下りを進み、最終2級山岳カストロ・デ・エルビリェ(距離8.2km/平均5.2%)を目指す選手たちに、急きょコース短縮が伝えられた。


それは第11ステージと同様、フィニッシュ地点にデモ隊が集結し「安全確保が困難」と判断されたため。2級山岳を200m登った残り8km地点を新たなフィニッシュラインに設定されたことを伝えられたランダとベルナルは、残り8kmのバナー目がけてスプリント。フィニッシュライン手前で後ろを振り返ったベルナルが先着し、異例な形ではあるものの、ステージ優勝を飾った。
ベルナルは2022年の大怪我を乗り越え、2021年のジロ・デ・イタリア第16ステージ以来となるグランツールでの勝利、そして自身初となるブエルタのステージ優勝を達成。「総合争いから脱落し、どうしても勝利が欲しかった。またこのコロンビア王者ジャージを着て勝ちたかった。最終山岳は短縮されたものの、とても美しいステージでペースも終始速かった。ランダとも良い協力態勢を築くことができ、良い思い出となる勝利となった」と、表彰式は行われなかったが、勝利を喜んだ。


区間3位はロラン、4位は登りで遅れつつ粘ったデンツ。ヴィンゲゴーを先頭に総合上位勢が5分52秒遅れでフィニッシュしたため、総合順位に大きな変動はなかった。またレース中盤、第15ステージで抗議者のコース乱入未遂によって落車したハビエル・ロモ(スペイン、モビスター)が、負傷の影響で途中棄権した。
マイヨロホを着用するヴィンゲゴーはレース後、コース短縮について「再びこうしたことが起きてしまったのは残念だ。誰もが抗議する権利を持っているが、それがここでこのような形で起こり、レースを最後まで走れないのは残念。本来あってはならないこと。スペインの自転車ファンがエキサイティングな終盤を見られなかったのは本当に残念だ」とコメントした。


ブエルタ・ア・エスパーニャ2025第16ステージ
1位 | エガン・ベルナル(コロンビア、イネオス・グレナディアーズ) | 3:35:10 |
2位 | ミケル・ランダ(スペイン、スーダル・クイックステップ) | |
3位 | ブリユー・ロラン(フランス、グルパマFDJ) | +0:07 |
4位 | ニコ・デンツ(ドイツ、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | +1:02 |
5位 | クレマン・ブラズアフォンソ(フランス、グルパマFDJ) | |
6位 | ボブ・ユンゲルス(ルクセンブルク、イネオス・グレナディアーズ) | +1:10 |
7位 | ケヴィン・ヴェルマーク(アメリカ、ピクニック・ポストNL) | +1:12 |
8位 | フィンレー・ピカリング(イギリス、バーレーン・ヴィクトリアス) | |
9位 | ショーン・クイン(アメリカ、EFエデュケーション・イージーポスト) | +2:48 |
10位 | ルディ・モラール(フランス、グルパマFDJ) |
マイヨロホ(個人総合成績)
1位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) | 61:16:35 |
2位 | ジョアン・アルメイダ(ポルトガル、UAEチームエミレーツXRG) | +0:48 |
3位 | トーマス・ピドコック(イギリス、Q36.5プロサイクリング) | +2:38 |
4位 | ジャイ・ヒンドレー(オーストラリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | +3:10 |
5位 | ジュリオ・ペリツァーリ(イタリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | +4:21 |
6位 | フェリックス・ガル(オーストリア、デカトロンAG2Rラモンディアール) | +4:24 |
7位 | マシュー・リッチテッロ(アメリカ、イスラエル・プレミアテック) | +4:53 |
8位 | セップ・クス(アメリカ、ヴィスマ・リースアバイク) | +5:46 |
9位 | トースタイン・トレーエン(ノルウェー、バーレーン・ヴィクトリアス) | +6:33 |
10位 | ウィリアムジュニア・ルセルフ(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | +8:04 |
マイヨプントス(ポイント賞)
1位 | マッズ・ピーダスン(デンマーク、リドル・トレック) | 237pts |
2位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) | 140pts |
3位 | ジュリオ・チッコーネ(イタリア、リドル・トレック) | 115pts |
マイヨモンターニャ(山岳賞)
1位 | ジェイ・ヴァイン(オーストラリア、UAEチームエミレーツXRG) | 61pts |
2位 | ヨナス・ヴィンゲゴー(デンマーク、ヴィスマ・リースアバイク) | 39pts |
3位 | ルイス・フェルヴァーケ(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | 32pts |
マイヨブランコ(ヤングライダー賞)
1位 | ジュリオ・ペリツァーリ(イタリア、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) | 61:20:56 |
2位 | マシュー・リッチテッロ(アメリカ、イスラエル・プレミアテック) | +0:32 |
3位 | ウィリアムジュニア・ルセルフ(ベルギー、スーダル・クイックステップ) | +3:43 |
チーム総合成績
1位 | UAEチームエミレーツXRG | 182:32:46 |
2位 | ヴィスマ・リースアバイク | +34:10 |
3位 | デカトロンAG2Rラモンディアール | +59:22 |
text:Sotaro.Arakawa
photo:CorVos, A.S.O.
photo:CorVos, A.S.O.
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