ファンデルプールとポガチャルが生んだ、あまりにも美しい最終日。しかし区間勝者の顔ぶれを見渡せば、ツールは無名の選手が一夜で名を上げる場所ではなくなりつつある。ポガチャルが記者会見で見せた5勝目の先にある、新たな目標とは何なのか。

フィニッシュ後、倒れ込むマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・プレミアテック) photo:Sotaro.Arakawa
あまりにも美しいエンディングだった。
1回目のモンマルトルの丘では、マイヨヴェールのマッズ・ピーダスン(デンマーク)が動き、タデイ・ポガチャル(スロベニア)やマチュー・ファンデルプール(オランダ)ら精鋭が抜け出す。一度は集団に戻ったものの、2回目の登坂ではポガチャルとファンデルプールに、ピーダスンと総合2位のレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が合流。元、あるいは現世界王者だけによる4名の先頭集団が形成された。
その4名も最後のモンマルトルを前に吸収され、登りで改めて飛び出したのがファンデルプールとポガチャルだった。プロトン屈指の人気者であり、春のクラシックでは幾度となくぶつかってきた2名が、協調しながらシャンゼリゼを目指す。背後からスプリンター集団が迫り、最後はポガチャルの脚も止まる。それでもファンデルプールは頭を下げ、残った力でペダルを踏み続け、そしてフィニッシュラインへと投げ出したバイクを、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)よりわずかに先着させた。
レースレポートでも詳細な展開を綴っているが、こちらでも振り返って書き記したくなるほど、2026年ツール・ド・フランスを締めくくるには、これ以上ないエンディングだった。

逃げるマチュー・ファンデルプール(オランダ、アルペシン・プレミアテック)が僅かに先着 photo:CorVos
前日のアルプ・デュエズでは、マイヨジョーヌのポガチャルがチームメイトであるイサーク・デルトロ(メキシコ)の総合表彰台とマイヨブランを守るために力を使った。最終日は、本人はあくまで自らの勝利を目指しファンデルプールと共に踏み続けたと語っている。それでも結果的には、仲の良いファンデルプールを勝利へと近づける、もう1つのアシストになった。
フィニッシュ後、路面に倒れ込んだファンデルプールは、ジャージのジッパーを下ろし、何度も大きく呼吸を繰り返した。その姿が、何とも美しかった。ヴィンゲゴーが3年ぶりに袖を通したマイヨジョーヌの開幕日から始まった物語は、3週間にわたって追い続けてきた者たちに、最後の最後で最高のプレゼントを届けてくれた。

総合5勝をアピールしながらフィニッシュするタデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:CorVos
しかし、その美しさに浸りながらも、単純に喜んでばかりはいられない思いもあった。年々レベルが上がり続けるなか、ツール・ド・フランスは、まだ名の知られていない選手が勝利によって一躍名を上げる場所ではなくなりつつある。今大会のステージ優勝者を見渡すと、そのほとんどが過去にツールで勝っているか、ツール初勝利であっても、既に他の大舞台で輝かしい結果を残していた選手だったからだ。
11日目勝者のセーレン・ヴァーレンショルト(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)は、前年のオムロープ・ヘットニュースブラッドを制している。プロ通算勝利数が決して多くないマウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー)も、2025年にはワールドツアーのカデル・エヴァンス・グレートオーシャン・ロードレースで勝利している。つまり彼らはツールで突然現れたのではなく、既に結果を積み重ね、世界最高峰の舞台で勝てるだけの力を示した上で、この大会にやってきた。
もはや、名が広く知られていない選手のもとに勝利が転がり込むことはない。それほどツールのレベルは上がった、いや、上がりきったと言った方がいいのかもしれない。勝利を重ねた選手が満を持してツールに臨み、それでもなお、あらゆる条件がかみ合って初めて勝利を手にすることができる。強い者だけが勝つのではなく、既にビッグタイトルを手にしているような選手でなければ、勝利どころか、勝負を決める逃げに残ることさえ難しい。そんなツールがやってきているのだ。

終始笑顔で質問に答えていたレムコ・エヴェネプール(ベルギー、レッドブル・ボーラ・ハンスグローエ) photo:Sotaro.Arakawa
最後に、表彰式後に行われた総合トップ3による記者会見について触れておきたい。会場はフィニッシュ地点から約2km離れたプレスセンター。開幕前日の記者会見を除き、各ステージの会見は全てリモートで行われていた。そのため記者にとって、選手と直接顔を合わせ、質問できる貴重な機会だった。
最初に姿を現したのは、総合2位のエヴェネプール。手にはレッドブルの缶。いつものように、言葉を早口で詰め込むように質問へ答えていく。記者が座る最前列には、チームカラーに合わせた青いドレス姿の妻もいた。
そして最後に飛んだのは、「今大会では暑さなどにより、7月開催そのものが疑問視される場面もあった。それについてどう考えているか」という質問だった。エヴェネプールは、会見場の入口付近でデルトロと共にテーブルに腰掛けていたポガチャルを指差し、こう返した。「あの人に聞いてくれ。あの人こそ、ツールの象徴なのだから」。少し辛口な一言を残し、ポガチャル、イサークと健闘を称え合うように抱擁すると、エヴェネプールは妻と共に会見場を後にした。

タデイ・ポガチャル(スロベニア、UAEチームエミレーツXRG) photo:Sotaro.Arakawa
続いてポガチャルがデルトロと共に着席。ポガチャルは時折疲れた様子を見せながらも、これまでの記者会見と同じように、一つ一つの質問へ丁寧に答えていく。そして最後、「若い世代の台頭をどう思うか」と問われると、隣に座るデルトロへ目を向けた。
「イサークとはバチバチのライバル関係だよ。僕らはカメラの前だから、仲の良いふりをしているだけだ(笑)」。デルトロもすかさず、「だから今日、僕はパンクしたのさ。彼の仕業だ」と応じる。「ライバルなんだから当然だろう?」とポガチャルが返し、会場は笑いに包まれた。
個人的に、いつだって人を楽しませたいという気持ちが表れるのが、ポガチャルという選手だ。会見を終えて壇上を降りる際には、ゲラント・トーマス(イギリス)が2018年大会の表彰式で見せた、手にしていないマイクを床に落とすジェスチャーをさらりと再現してみせた。
ツール5勝クラブ入りを果たしたポガチャルは、これからどんな目標へ向かって進んでいくのだろうか。その1つのヒントは、今大会で既に示されていたのかもしれない。デルトロが繰り返し「特権だ」と語ったように、マイヨジョーヌを着たポガチャルが前を牽き、若きチームメイトをマイヨブランと総合表彰台へと引き上げた。
自らが勝つだけではなく、若い選手を支え、輝かせること。そのなかに新たな喜びを見出したポガチャルは、一体どこへと向かっていくのだろうか。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Paris, France
photo:A.S.O.

あまりにも美しいエンディングだった。
1回目のモンマルトルの丘では、マイヨヴェールのマッズ・ピーダスン(デンマーク)が動き、タデイ・ポガチャル(スロベニア)やマチュー・ファンデルプール(オランダ)ら精鋭が抜け出す。一度は集団に戻ったものの、2回目の登坂ではポガチャルとファンデルプールに、ピーダスンと総合2位のレムコ・エヴェネプール(ベルギー)が合流。元、あるいは現世界王者だけによる4名の先頭集団が形成された。
その4名も最後のモンマルトルを前に吸収され、登りで改めて飛び出したのがファンデルプールとポガチャルだった。プロトン屈指の人気者であり、春のクラシックでは幾度となくぶつかってきた2名が、協調しながらシャンゼリゼを目指す。背後からスプリンター集団が迫り、最後はポガチャルの脚も止まる。それでもファンデルプールは頭を下げ、残った力でペダルを踏み続け、そしてフィニッシュラインへと投げ出したバイクを、ヤスペル・フィリプセン(ベルギー)よりわずかに先着させた。
レースレポートでも詳細な展開を綴っているが、こちらでも振り返って書き記したくなるほど、2026年ツール・ド・フランスを締めくくるには、これ以上ないエンディングだった。

前日のアルプ・デュエズでは、マイヨジョーヌのポガチャルがチームメイトであるイサーク・デルトロ(メキシコ)の総合表彰台とマイヨブランを守るために力を使った。最終日は、本人はあくまで自らの勝利を目指しファンデルプールと共に踏み続けたと語っている。それでも結果的には、仲の良いファンデルプールを勝利へと近づける、もう1つのアシストになった。
フィニッシュ後、路面に倒れ込んだファンデルプールは、ジャージのジッパーを下ろし、何度も大きく呼吸を繰り返した。その姿が、何とも美しかった。ヴィンゲゴーが3年ぶりに袖を通したマイヨジョーヌの開幕日から始まった物語は、3週間にわたって追い続けてきた者たちに、最後の最後で最高のプレゼントを届けてくれた。

しかし、その美しさに浸りながらも、単純に喜んでばかりはいられない思いもあった。年々レベルが上がり続けるなか、ツール・ド・フランスは、まだ名の知られていない選手が勝利によって一躍名を上げる場所ではなくなりつつある。今大会のステージ優勝者を見渡すと、そのほとんどが過去にツールで勝っているか、ツール初勝利であっても、既に他の大舞台で輝かしい結果を残していた選手だったからだ。
11日目勝者のセーレン・ヴァーレンショルト(ノルウェー、ウノエックス・モビリティ)は、前年のオムロープ・ヘットニュースブラッドを制している。プロ通算勝利数が決して多くないマウロ・シュミット(スイス、ジェイコ・アルウラー)も、2025年にはワールドツアーのカデル・エヴァンス・グレートオーシャン・ロードレースで勝利している。つまり彼らはツールで突然現れたのではなく、既に結果を積み重ね、世界最高峰の舞台で勝てるだけの力を示した上で、この大会にやってきた。
もはや、名が広く知られていない選手のもとに勝利が転がり込むことはない。それほどツールのレベルは上がった、いや、上がりきったと言った方がいいのかもしれない。勝利を重ねた選手が満を持してツールに臨み、それでもなお、あらゆる条件がかみ合って初めて勝利を手にすることができる。強い者だけが勝つのではなく、既にビッグタイトルを手にしているような選手でなければ、勝利どころか、勝負を決める逃げに残ることさえ難しい。そんなツールがやってきているのだ。

最後に、表彰式後に行われた総合トップ3による記者会見について触れておきたい。会場はフィニッシュ地点から約2km離れたプレスセンター。開幕前日の記者会見を除き、各ステージの会見は全てリモートで行われていた。そのため記者にとって、選手と直接顔を合わせ、質問できる貴重な機会だった。
最初に姿を現したのは、総合2位のエヴェネプール。手にはレッドブルの缶。いつものように、言葉を早口で詰め込むように質問へ答えていく。記者が座る最前列には、チームカラーに合わせた青いドレス姿の妻もいた。
そして最後に飛んだのは、「今大会では暑さなどにより、7月開催そのものが疑問視される場面もあった。それについてどう考えているか」という質問だった。エヴェネプールは、会見場の入口付近でデルトロと共にテーブルに腰掛けていたポガチャルを指差し、こう返した。「あの人に聞いてくれ。あの人こそ、ツールの象徴なのだから」。少し辛口な一言を残し、ポガチャル、イサークと健闘を称え合うように抱擁すると、エヴェネプールは妻と共に会見場を後にした。

続いてポガチャルがデルトロと共に着席。ポガチャルは時折疲れた様子を見せながらも、これまでの記者会見と同じように、一つ一つの質問へ丁寧に答えていく。そして最後、「若い世代の台頭をどう思うか」と問われると、隣に座るデルトロへ目を向けた。
「イサークとはバチバチのライバル関係だよ。僕らはカメラの前だから、仲の良いふりをしているだけだ(笑)」。デルトロもすかさず、「だから今日、僕はパンクしたのさ。彼の仕業だ」と応じる。「ライバルなんだから当然だろう?」とポガチャルが返し、会場は笑いに包まれた。
個人的に、いつだって人を楽しませたいという気持ちが表れるのが、ポガチャルという選手だ。会見を終えて壇上を降りる際には、ゲラント・トーマス(イギリス)が2018年大会の表彰式で見せた、手にしていないマイクを床に落とすジェスチャーをさらりと再現してみせた。
ツール5勝クラブ入りを果たしたポガチャルは、これからどんな目標へ向かって進んでいくのだろうか。その1つのヒントは、今大会で既に示されていたのかもしれない。デルトロが繰り返し「特権だ」と語ったように、マイヨジョーヌを着たポガチャルが前を牽き、若きチームメイトをマイヨブランと総合表彰台へと引き上げた。
自らが勝つだけではなく、若い選手を支え、輝かせること。そのなかに新たな喜びを見出したポガチャルは、一体どこへと向かっていくのだろうか。
text&photo:Sotaro.Arakawa in Paris, France
photo:A.S.O.
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