ロヴァールからグランツールで数多くの勝利を収めてきたRAPIDE CLXシリーズの最新モデル「RAPIDE CLX Ⅲ」と「RAPIDE CLX SPRINT」が登場。進化した空力性能を備える新型ホイールを編集部員がインプレッションしていく。

ロヴァールの新型ホイール「RAPIDE CLX SPRINT」と「RAPIDE CLX Ⅲ」 photo:Naoki Yasuoka
スぺシャライズドが展開しているホイールブランド、ロヴァールからグランツールで数多くの勝利を収めてきたRAPIDE CLXシリーズの最新モデル「RAPIDE CLX Ⅲ」と「RAPIDE CLX SPRINT」が登場した。(製品の詳細はこちら)
「空力性能の約90%がフロントホイールに依存する」というスペシャライズドの研究結果に基づいて、リアよりもフロントのリムが深いという、これまでの概念を覆すような優れた空力性能を備えた新型ホイールをCW編集部員の高木がインプレッションしていく。
ー編集部インプレッション

自身の愛車でもあるスペシャライズド S-WORKS TARMAC SL8に新作ホイールのRAPIDE CLX ⅢとRAPIDE CLX SPRINTを履かせて、テストライドを実施 photo:Naoki Yasuoka
リムブレーキ時代から現在に至るまで、歴代のロヴァールカーボンホイールを履いてきたが、今回のRapide CLX SPRINT/Ⅲほど、早く走らせてみたい!と思ったモデルは無かったかもしれない。
前後でリムハイトが異なる、というホイールは数多あれど、フロントの方がリアよりもリムハイトが高いカーボンホイールセットというのは、これまでにほぼ存在しなかったのではないだろうか。記憶にある唯一の例は、フロント28mm、リア24mmを採用していたシマノのWH-7801 Carbonの例くらいだろうか。

RAPIDE CLX Ⅲはフロントが51mm photo:Naoki Yasuoka
とはいえ、フロントにディープリム、リアにロープロファイルホイールを組み合わせるというのは、JPTや学連などロードレースの現場では偶に見かけるセッティングでもあったし、自分も試してみたことはある。特に、山岳コースにおいて重量のアドバンテージを得つつ、下りや平坦でも空力の恩恵を受けたい、という時に、やはり駆動輪であるリアを軽量なロープロファイルとしつつ、前輪をディープにするというのは、自然な思いつきとして実践してきた。
当時でも空力にはフロントホイールの方が重要だという情報はあったし、実際にタイムも出ることもあり、時折そのセッティングを用いてきた。ただ、リムハイトの差が大きくなるにつれ、ちぐはぐなフィーリングとなることも経験してきた。
いうなれば経験則でしかないこの組み合わせが、ロヴァールという一大ホイールブランドの手によって、より科学的に検証され、その効果をベストな形で製品へと落とし込んだというのだから、いやがおうにも期待は高まる。

スペシャライズド本国スタッフのクリストファー・ウェハン氏と共にテストライドをするCW編集部員の高木 photo:Naoki Yasuoka
まずは、フロント51mm、リア48mmのオールラウンドモデルであるRAPIDE CLX Ⅲからテストライドはスタート。厚木のスペシャライズドジャパン本社をスタートするテストコースは、風を遮るもののない田園地帯のロングストレートがメインディッシュ。エアロダイナミクスを体感するのに最高の舞台だ。
本社をスタートしてすぐ、市街地を走っている時点でRAPIDE CLX Ⅲはその高性能の片鱗を見せる。信号から再発進するたび、今回テストしていたのはALPINSTだったっけ?と勘違いしてしまうほど、鋭く加速していく。
ゼロスタートから巡航速度まで、そして巡航速度からスプリント域まで、加速するシチュエーションにおいての反応の鋭さは特筆モノ。これはリムの軽さだけでなくホイール全体の挙動、特にスポークのしなり量としなり戻りのスピード感の良さによるものだろう。

カーボンスポークが適度に撓り、ウイップするように一気に加速していく photo:Naoki Yasuoka
カーボンスポークを採用するホイールが増加してきた中でも、ここまで違和感なく乗りこなせるものは無かったように思う。足当たりが良く疲れづらいので、登りでもダンシングの割合が増えそうだ。乗り心地もよく、走る自然と増えそう。
それでいて、決して柔らかいわけではなく、例えばコーナーでバイクを深く倒しこんでもホイールがたわむような嫌な感触はゼロ。むしろ、パリッとした剛性感で、ヒラヒラと切り返していける素直な挙動も魅力。気になっていたリムハイト差によるチグハグ感は皆無で、むしろ扱いやすさが際立つほど。ここは、流石ロヴァールといったところだろう。

路面の凹凸が激しいセクションも走ったが、路面から身体に伝わってくる衝撃は非常に少ない photo:Naoki Yasuoka
加速も良く、ハンドリングも二重丸。それでいて高速域でのスピード維持のしやすさは微塵も犠牲になっていないばかりか、むしろいつもよりラクに感じるほど。とにかくあらゆるシーンで速いのがRAPIDE CLX Ⅲといえよう。
新世代のRAPIDE CLXの性能に圧倒されたまま、ある意味今回の本命とも言えるディープリムモデル、フロント63mm/リア58mmのRAPIDE CLX SPRINTへ換装。レムコ・エヴェネプールをして、テストホイールを「これはもう自分のホイールだ」と言わしめた、スペシャルモデルはいかなるものか。

よりリムハイトが高い組み合わせのRAPIDE CLX SPRINTをテスト photo:Naoki Yasuoka
その答えは一瞬で明らかに。断トツに速い。先ほどまで乗っていたCLX Ⅲの高速性能が霞んでしまうレベルでスピードがするすると伸びていく。40km/hでの巡航がイージーペースに感じるほどで、そこからスプリントを始めると、60km/hまでブーストが掛かるように加速。「残り250mで5cmのアドバンテージ」というキャッチコピーは真実なのだと体感出来た。
もちろん登りではCLX Ⅲより重さは感じるものの、このレベルのエアロ性能を有するホイールとしては破格の走りを披露してくれる。スプリントで勝つためには、最終局面まで先頭集団に残り続けなくてはならない。途中の登りで千切れてしまっては元も子もなく、そのために必要な性能は確保されている。

50~60km/hのスピード域までブーストが掛かるように加速していく photo:Naoki Yasuoka
一方で、求められるパフォーマンスレベルは相応に高い。剛性感はCLX Ⅲよりも高く、踏み切るには相当なパワーが必要となる。正直なところ、筆者では引き出しきれていない感もある。より大柄で絶対出力の大きなライダーでこそ、真価を発揮するホイールだと感じた。
似ているようで、大きく異なるこの2モデル。わずか1cm程度のリムハイトの違いではあるが、そこから生まれる差は無視できないものだ。

RAPIDE CLX ⅢとRAPIDE CLX SPRINTはより速く、勝利を目指して走るレーサーにおすすめなホイールだ photo:Naoki Yasuoka
優れた高速性能と山岳モデル並みの走りの軽さ、鋭さを同居させ、平坦だけでなく登りも下りも、そしてスプリントからテクニカルコーナーとその立ち上がりまで、あらゆるシーンで優位に立てるオールラウンドホイールを求めるのであれば、RAPIDE CLX Ⅲで間違いない。
一方、究極の速さを求めるのであればRAPIDE CLX SPRINTを迷いなく選ぶべきだ。フィニッシュラインにタイヤ差で先着された経験があるライダーであれば、このホイールの真価を理解できるはず。忙しい日々の中で続けてきたワークアウト、計画を練って絞りに絞った身体。その積み重ねの先にあるフィニッシュラインを数cm手前に手繰り寄せられるとしたら?その答えはここにある。
最新の高性能ホイールとして圧巻のパフォーマンスを示したRAPIDE CLX Ⅲシリーズ。その性能を実現した背景について、スペシャライズドの本国スタッフ、クリストファー・ウェハン氏へのインタビューを行った。

新型ロヴァールの開発者であるクリストファー・ウェハン氏 photo:Naoki Yasuoka
ーリアよりフロントが高いというアイディアはどういった経緯で生まれたのでしょうか。フロントの空力がリアよりも重要であるという事は、かなり前から知られていたとも思いますが。
ウェハン:まず、私たちの目標は「勝利」です。例えば「Xワット速くしたい」という目標で開発されるホイールもありますが、このRAPIDE CLXⅢでは、フィニッシュラインを1番で通過すること、スプリントで勝つことが目標でした。
そこで重要となったのが、エアロと重量の最適なバランスを探ること。軽量化と低慣性化が加速において大きなメリットとなることは明らかでした。
Tarmacの開発に大きな役割を果たし、自動車業界での経験も豊富なエアロダイナミクスのスペシャリストであるレオは、ペダリングマネキンを導入した風洞実験の結果を分析し、「リアホイールの空力的重要度は低下している」と主張したのです。言い換えれば、後輪の重量削減にはまだ大きな余地があると。
そこで彼はRAPIDEとALPINSTを組み合わせたテストを考案したのです。このテストの結果、私たちが認識したのは、フロントホイールの空力的重要性というよりも、むしろリアホイールの重要度の低さを把握したのです。
トータルで速いホイールを生み出すためには、エアロ効果と重量のバランスを最適化する必要がありますが、リアホイールにおいてはこれまでよりももっと軽量化へ軸足を移しても問題ない、ということが分かったのです。

自身も熱心なサイクリストであるウェハン氏 photo:Naoki Yasuoka
ーペダリングマネキンの出現は開発において大きな役割を果たしたようですが、マネキンは内製しているのでしょうか?それともマネキンメーカーがある?
ウェハン:ペダリングマネキンは私たちが作りあげました。2つのマネキンをスペシャライズドは保有しているんです。TTマネキンとロードレースマネキンが各1体ずつ。
それぞれのマネキンは実在の人物の3Dスキャンデータから生み出されていて、TTマネキンは皆さんご存じのレムコ・エヴェネプール。そしてロードレースマネキンは、私たちの元プロダクトマネージャーであるキャメロン・パイパーなんです。
彼のスキャンデータを送ってマネキンメーカーに固定マネキンを作ってもらったんです。その後、脚を動かすという大きなプロジェクトが始まりました。簡単そうに思えるかもしれないですが、実は非常に難しい課題で、脚を動かすと振動が発生してしまうんです。振動せず滑らかにペダリングし、データへの影響を最小限に収められるシステムを構築するために、多大な時間が費やされました。
TARMACもRAPIDE CLX Ⅲも、エアロなフロントと軽量なリア、という役割は共通しています。これはペダリングマネキンによってより高精度で現実に即したデータを得られたからこそでした。そして、今他社もペダリングマネキンを用いた開発を行い、バイクのデザインもまた収束しつつあります。ホイールもそうなる可能性は大いにあります。
しかし、そうなれば私たちは更に創造性を発揮し、より現実の環境に近づく方法を模索することで、更なる革新を生み出していかなければならない。そう考えています。
ーCLX Ⅲではリムのレイアップを変更し、大幅な軽量化を実現したとのことですが、CLX ⅡのTEAMモデルとも異なるものだったのでしょうか
ウェハン:カーボンのレイアップ構造や使用するマテリアルはTEAMモデルと同等のテクノロジーを採用しています。タイヤの着脱を容易にするため、リムの内部形状に手を加えてはいますが、カーボンレイアップのアプローチ、基本的な考え方は受け継いでいます。

TEAMモデルからのフィードバックを得て、実現した新世代のカーボンリム photo:Naoki Yasuoka
ーなるほど、TEAMエディションとはある意味次世代のコンセプトモデルでもあるということですね
ウェハン:ロヴァールは、実は世界有数のカーボンホイールメーカーの一つなんです。年間で10万本近いホイールを生産するブランドは、実は数えるほどしかない。この規模での生産を可能とするためには、よりシンプルな製造工程を作り上げなければならないという制約があります。
一方で、最高の性能を実現するためには、その制約を突破する必要があります。10万個なら不可能なことでも、100個であれば可能となる。少数生産で最高品質を追求し、そこで得た学びや気づきを元に、量産手法を組み立てる、そのための研究開発でもあるのがTEAMプロジェクトなのです。
では今回のCLX ⅢがCLX Ⅱ TEAMよりも価格が安いのは、量産効果によるものということですか
板垣:実はアメリカでは同じ価格で、為替のタイミングによる値段の差なんです。
ウェハン:カーボンスポークのコストが大きくて、タイヤやボトルを付けられなかったんだ(笑)

非常にしなやかなアリス製スポーク。 photo:Naoki Yasuoka
ーカーボンスポークですがCONTROL WCで採用していたヴォノアからアリスへとチェンジした理由は?
ウェハン:ヴォノアは中国でカーボンスポークを製造している唯一のベンダーのマーケティングネームです。現在市場で見かけるカーボンスポークはこのベンダーが製造していて、我々もXC用ホイールのCONTROL WCでは専用にカスタムしたヴォノアのスポークを採用しました。
彼らは素晴らしい会社で、スポークの品質も高く、実際に我々も良好な関係を築いています。ただ、今回のRAPIDE CLX Ⅲにはアリスのスポークが最も適していると判断しました。私たちにとって最も重要なのは、開発するホイールにおいて達成しようとする目標にフィットすること。そしてアリスのテクノロジーは、カスタマイズの可能性を拡大し、ロヴァールの目標を完全にクリアできるチャンスとなったのです。
ロヴァール RAPIDE CLX SPRINT
重量:640g(フロント)、755g(リア)、1,395g(前後セット、バルブ、テープ込)
ハブ:ロヴァール Low Flangeロードハブ
リムハイト:フロント63mm、リア58mm
リム内幅:21mm
スポーク数:フロント18本、リア24本
スポーク:アリス社ロヴァールコンポジットエアロスポーク
カラー:サテンカーボン/グロスブラック、グロスカーボン/サテンホワイト
価格:フロント193,600円(税込)、リア290,400円(税込)
ロヴァール RAPIDE CLX Ⅲ
重量:600g(フロント)、705g(リア)、1,305g(前後セット、バルブ、テープ込)
ハブ:ロヴァール Low Flangeロードハブ
リムハイト:フロント51mm、リア48mm
リム内幅:21mm
スポーク数:フロント18本、リア24本
スポーク:アリス社ロヴァールコンポジットエアロスポーク
カラー:サテンカーボン/グロスブラック、グロスカーボン/サテンホワイト
価格:193,600円(税込)、290,400円(税込)
text&photo:Naoki Yasuoka
impression:Michinari Takagi

スぺシャライズドが展開しているホイールブランド、ロヴァールからグランツールで数多くの勝利を収めてきたRAPIDE CLXシリーズの最新モデル「RAPIDE CLX Ⅲ」と「RAPIDE CLX SPRINT」が登場した。(製品の詳細はこちら)
「空力性能の約90%がフロントホイールに依存する」というスペシャライズドの研究結果に基づいて、リアよりもフロントのリムが深いという、これまでの概念を覆すような優れた空力性能を備えた新型ホイールをCW編集部員の高木がインプレッションしていく。
ー編集部インプレッション

リムブレーキ時代から現在に至るまで、歴代のロヴァールカーボンホイールを履いてきたが、今回のRapide CLX SPRINT/Ⅲほど、早く走らせてみたい!と思ったモデルは無かったかもしれない。
前後でリムハイトが異なる、というホイールは数多あれど、フロントの方がリアよりもリムハイトが高いカーボンホイールセットというのは、これまでにほぼ存在しなかったのではないだろうか。記憶にある唯一の例は、フロント28mm、リア24mmを採用していたシマノのWH-7801 Carbonの例くらいだろうか。

とはいえ、フロントにディープリム、リアにロープロファイルホイールを組み合わせるというのは、JPTや学連などロードレースの現場では偶に見かけるセッティングでもあったし、自分も試してみたことはある。特に、山岳コースにおいて重量のアドバンテージを得つつ、下りや平坦でも空力の恩恵を受けたい、という時に、やはり駆動輪であるリアを軽量なロープロファイルとしつつ、前輪をディープにするというのは、自然な思いつきとして実践してきた。
当時でも空力にはフロントホイールの方が重要だという情報はあったし、実際にタイムも出ることもあり、時折そのセッティングを用いてきた。ただ、リムハイトの差が大きくなるにつれ、ちぐはぐなフィーリングとなることも経験してきた。
いうなれば経験則でしかないこの組み合わせが、ロヴァールという一大ホイールブランドの手によって、より科学的に検証され、その効果をベストな形で製品へと落とし込んだというのだから、いやがおうにも期待は高まる。

まずは、フロント51mm、リア48mmのオールラウンドモデルであるRAPIDE CLX Ⅲからテストライドはスタート。厚木のスペシャライズドジャパン本社をスタートするテストコースは、風を遮るもののない田園地帯のロングストレートがメインディッシュ。エアロダイナミクスを体感するのに最高の舞台だ。
本社をスタートしてすぐ、市街地を走っている時点でRAPIDE CLX Ⅲはその高性能の片鱗を見せる。信号から再発進するたび、今回テストしていたのはALPINSTだったっけ?と勘違いしてしまうほど、鋭く加速していく。
ゼロスタートから巡航速度まで、そして巡航速度からスプリント域まで、加速するシチュエーションにおいての反応の鋭さは特筆モノ。これはリムの軽さだけでなくホイール全体の挙動、特にスポークのしなり量としなり戻りのスピード感の良さによるものだろう。

カーボンスポークを採用するホイールが増加してきた中でも、ここまで違和感なく乗りこなせるものは無かったように思う。足当たりが良く疲れづらいので、登りでもダンシングの割合が増えそうだ。乗り心地もよく、走る自然と増えそう。
それでいて、決して柔らかいわけではなく、例えばコーナーでバイクを深く倒しこんでもホイールがたわむような嫌な感触はゼロ。むしろ、パリッとした剛性感で、ヒラヒラと切り返していける素直な挙動も魅力。気になっていたリムハイト差によるチグハグ感は皆無で、むしろ扱いやすさが際立つほど。ここは、流石ロヴァールといったところだろう。

加速も良く、ハンドリングも二重丸。それでいて高速域でのスピード維持のしやすさは微塵も犠牲になっていないばかりか、むしろいつもよりラクに感じるほど。とにかくあらゆるシーンで速いのがRAPIDE CLX Ⅲといえよう。
新世代のRAPIDE CLXの性能に圧倒されたまま、ある意味今回の本命とも言えるディープリムモデル、フロント63mm/リア58mmのRAPIDE CLX SPRINTへ換装。レムコ・エヴェネプールをして、テストホイールを「これはもう自分のホイールだ」と言わしめた、スペシャルモデルはいかなるものか。

その答えは一瞬で明らかに。断トツに速い。先ほどまで乗っていたCLX Ⅲの高速性能が霞んでしまうレベルでスピードがするすると伸びていく。40km/hでの巡航がイージーペースに感じるほどで、そこからスプリントを始めると、60km/hまでブーストが掛かるように加速。「残り250mで5cmのアドバンテージ」というキャッチコピーは真実なのだと体感出来た。
もちろん登りではCLX Ⅲより重さは感じるものの、このレベルのエアロ性能を有するホイールとしては破格の走りを披露してくれる。スプリントで勝つためには、最終局面まで先頭集団に残り続けなくてはならない。途中の登りで千切れてしまっては元も子もなく、そのために必要な性能は確保されている。

一方で、求められるパフォーマンスレベルは相応に高い。剛性感はCLX Ⅲよりも高く、踏み切るには相当なパワーが必要となる。正直なところ、筆者では引き出しきれていない感もある。より大柄で絶対出力の大きなライダーでこそ、真価を発揮するホイールだと感じた。
似ているようで、大きく異なるこの2モデル。わずか1cm程度のリムハイトの違いではあるが、そこから生まれる差は無視できないものだ。

優れた高速性能と山岳モデル並みの走りの軽さ、鋭さを同居させ、平坦だけでなく登りも下りも、そしてスプリントからテクニカルコーナーとその立ち上がりまで、あらゆるシーンで優位に立てるオールラウンドホイールを求めるのであれば、RAPIDE CLX Ⅲで間違いない。
一方、究極の速さを求めるのであればRAPIDE CLX SPRINTを迷いなく選ぶべきだ。フィニッシュラインにタイヤ差で先着された経験があるライダーであれば、このホイールの真価を理解できるはず。忙しい日々の中で続けてきたワークアウト、計画を練って絞りに絞った身体。その積み重ねの先にあるフィニッシュラインを数cm手前に手繰り寄せられるとしたら?その答えはここにある。
最新の高性能ホイールとして圧巻のパフォーマンスを示したRAPIDE CLX Ⅲシリーズ。その性能を実現した背景について、スペシャライズドの本国スタッフ、クリストファー・ウェハン氏へのインタビューを行った。

ーリアよりフロントが高いというアイディアはどういった経緯で生まれたのでしょうか。フロントの空力がリアよりも重要であるという事は、かなり前から知られていたとも思いますが。
ウェハン:まず、私たちの目標は「勝利」です。例えば「Xワット速くしたい」という目標で開発されるホイールもありますが、このRAPIDE CLXⅢでは、フィニッシュラインを1番で通過すること、スプリントで勝つことが目標でした。
そこで重要となったのが、エアロと重量の最適なバランスを探ること。軽量化と低慣性化が加速において大きなメリットとなることは明らかでした。
Tarmacの開発に大きな役割を果たし、自動車業界での経験も豊富なエアロダイナミクスのスペシャリストであるレオは、ペダリングマネキンを導入した風洞実験の結果を分析し、「リアホイールの空力的重要度は低下している」と主張したのです。言い換えれば、後輪の重量削減にはまだ大きな余地があると。
そこで彼はRAPIDEとALPINSTを組み合わせたテストを考案したのです。このテストの結果、私たちが認識したのは、フロントホイールの空力的重要性というよりも、むしろリアホイールの重要度の低さを把握したのです。
トータルで速いホイールを生み出すためには、エアロ効果と重量のバランスを最適化する必要がありますが、リアホイールにおいてはこれまでよりももっと軽量化へ軸足を移しても問題ない、ということが分かったのです。

ーペダリングマネキンの出現は開発において大きな役割を果たしたようですが、マネキンは内製しているのでしょうか?それともマネキンメーカーがある?
ウェハン:ペダリングマネキンは私たちが作りあげました。2つのマネキンをスペシャライズドは保有しているんです。TTマネキンとロードレースマネキンが各1体ずつ。
それぞれのマネキンは実在の人物の3Dスキャンデータから生み出されていて、TTマネキンは皆さんご存じのレムコ・エヴェネプール。そしてロードレースマネキンは、私たちの元プロダクトマネージャーであるキャメロン・パイパーなんです。
彼のスキャンデータを送ってマネキンメーカーに固定マネキンを作ってもらったんです。その後、脚を動かすという大きなプロジェクトが始まりました。簡単そうに思えるかもしれないですが、実は非常に難しい課題で、脚を動かすと振動が発生してしまうんです。振動せず滑らかにペダリングし、データへの影響を最小限に収められるシステムを構築するために、多大な時間が費やされました。
TARMACもRAPIDE CLX Ⅲも、エアロなフロントと軽量なリア、という役割は共通しています。これはペダリングマネキンによってより高精度で現実に即したデータを得られたからこそでした。そして、今他社もペダリングマネキンを用いた開発を行い、バイクのデザインもまた収束しつつあります。ホイールもそうなる可能性は大いにあります。
しかし、そうなれば私たちは更に創造性を発揮し、より現実の環境に近づく方法を模索することで、更なる革新を生み出していかなければならない。そう考えています。
ーCLX Ⅲではリムのレイアップを変更し、大幅な軽量化を実現したとのことですが、CLX ⅡのTEAMモデルとも異なるものだったのでしょうか
ウェハン:カーボンのレイアップ構造や使用するマテリアルはTEAMモデルと同等のテクノロジーを採用しています。タイヤの着脱を容易にするため、リムの内部形状に手を加えてはいますが、カーボンレイアップのアプローチ、基本的な考え方は受け継いでいます。

ーなるほど、TEAMエディションとはある意味次世代のコンセプトモデルでもあるということですね
ウェハン:ロヴァールは、実は世界有数のカーボンホイールメーカーの一つなんです。年間で10万本近いホイールを生産するブランドは、実は数えるほどしかない。この規模での生産を可能とするためには、よりシンプルな製造工程を作り上げなければならないという制約があります。
一方で、最高の性能を実現するためには、その制約を突破する必要があります。10万個なら不可能なことでも、100個であれば可能となる。少数生産で最高品質を追求し、そこで得た学びや気づきを元に、量産手法を組み立てる、そのための研究開発でもあるのがTEAMプロジェクトなのです。
では今回のCLX ⅢがCLX Ⅱ TEAMよりも価格が安いのは、量産効果によるものということですか
板垣:実はアメリカでは同じ価格で、為替のタイミングによる値段の差なんです。
ウェハン:カーボンスポークのコストが大きくて、タイヤやボトルを付けられなかったんだ(笑)

ーカーボンスポークですがCONTROL WCで採用していたヴォノアからアリスへとチェンジした理由は?
ウェハン:ヴォノアは中国でカーボンスポークを製造している唯一のベンダーのマーケティングネームです。現在市場で見かけるカーボンスポークはこのベンダーが製造していて、我々もXC用ホイールのCONTROL WCでは専用にカスタムしたヴォノアのスポークを採用しました。
彼らは素晴らしい会社で、スポークの品質も高く、実際に我々も良好な関係を築いています。ただ、今回のRAPIDE CLX Ⅲにはアリスのスポークが最も適していると判断しました。私たちにとって最も重要なのは、開発するホイールにおいて達成しようとする目標にフィットすること。そしてアリスのテクノロジーは、カスタマイズの可能性を拡大し、ロヴァールの目標を完全にクリアできるチャンスとなったのです。
ロヴァール RAPIDE CLX SPRINT
重量:640g(フロント)、755g(リア)、1,395g(前後セット、バルブ、テープ込)
ハブ:ロヴァール Low Flangeロードハブ
リムハイト:フロント63mm、リア58mm
リム内幅:21mm
スポーク数:フロント18本、リア24本
スポーク:アリス社ロヴァールコンポジットエアロスポーク
カラー:サテンカーボン/グロスブラック、グロスカーボン/サテンホワイト
価格:フロント193,600円(税込)、リア290,400円(税込)
ロヴァール RAPIDE CLX Ⅲ
重量:600g(フロント)、705g(リア)、1,305g(前後セット、バルブ、テープ込)
ハブ:ロヴァール Low Flangeロードハブ
リムハイト:フロント51mm、リア48mm
リム内幅:21mm
スポーク数:フロント18本、リア24本
スポーク:アリス社ロヴァールコンポジットエアロスポーク
カラー:サテンカーボン/グロスブラック、グロスカーボン/サテンホワイト
価格:193,600円(税込)、290,400円(税込)
text&photo:Naoki Yasuoka
impression:Michinari Takagi
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