乗鞍の新チャンピオンに輝いたのは田中裕士と 佐野歩(Infinity Style)。大記録が生まれた40回目の記念大会の模様を、各選手のコメントと共に詳報でお届けします。



好天に恵まれた40回目の乗鞍。3654名が標高2,716mの最高地点を目指した photo:So Isobe

8月の最終週末と言えば、富士ヒルクライムと並ぶアマチュアヒルクライマーの祭典「乗鞍ヒルクライム」の開催日。コロナ禍での2年間中止を挟み、8月30日(日)に記念すべき40回記念となる2025年大会が開催された。

コースは長野県松本市から乗鞍エコーラインを登り、岐阜県境にある国内道路最高標高地点(標高2,716m)まで駆け上がる全長20.5km、獲得標高差1,260mのルート。ところどころ10%級の急勾配区間はあれど、基本的には登りやすい峠道。そしてなんといっても乗鞍でしか味わえない頂上付近の絶景が人気を呼び、今現在に至る国内ヒルクライムイベント人気の火付け役となった大会だ。

だからこそ、この乗鞍で勝つことはアマチュアヒルクライマーにとっては何よりの名誉だ。2025年大会は晴天に恵まれ、気温高く、風はなし。絶好のヒルクライム日和となったこの日、国内最強のアマチュア山岳王を決定するチャンピオンクラスでは大記録が誕生した。

男子チャンピオンクラス:田中裕士が11回目の挑戦で乗鞍初優勝

後続を振り切って最終盤区間を走る田中裕士 photo:So Isobe
2位は成田眸(mkw)。追いすがる玉村喬(天照CST)を1秒差で振り切った photo:So Isobe


チャンピオンクラスのトップスリー。1位田中裕士、2位成田眸(mkw)、3位玉村喬(天照CST) photo:So Isobe

朝6時30分にスタートしたチャンピオンクラスは序盤から有力選手たちが動いた。Mr.乗鞍と称される村山利男と並び過去最多の8勝を挙げた森本誠や、玉村喬(天照CST)が逃げグループを作り、他の優勝候補たちが追走をかけて潰しにかかる。「三本滝(7km地点)」までに逃げは捉えられ、ペースを落とすことなく優勝候補ばかりが揃った20名だけが生き残る展開に。

レースが動いたのは位ヶ原山荘(15km地点)を過ぎたタイミングだった。「今日は自分から仕掛けていこうと思っていた」と振り返る玉村が再度アタックを仕掛け、ここに乗じたのが優勝することになる田中裕士。「ずっとキツかったんですが、あの時一瞬ペースが緩んだんです。これなら一発仕掛けられるかな、と思ったタイミングで玉村くんが先行したのでついて行く形になりました」と振り返る田中は、ラスト4kmの急勾配区間で玉村を引き離して単独に。「304-305ワットを維持できていたので、このまま踏めば絶対勝てると思っていました」と振り返るベテランクライマーがたった一人で絶景の最終区間を駆け抜けた。

4位:井出雄太(EMU SPEED CLUB) photo:So Isobe
5位:真鍋晃(EMU SPEED CLUB) photo:So Isobe


6位:加藤大貴(COW GUMMA) photo:So Isobe
7位:河田恭司郎(Infinity Style) photo:So Isobe


男子チャンピオンクラス表彰台 photo:So Isobe

これまで11回チャンピオンクラスに出場し、狙った年は表彰台を外したことがないという乗鞍マイスターが遂に初優勝を掴む。好天や序盤から積極的なレース展開となったことも手伝って、優勝タイムは53分46秒。これまでのコースレコードを1分近く縮める圧倒的な記録となった。

「11年挑戦してきて、ずっと勝つと言っておきながら勝てていなかった。やっぱり嬉しいですよね。達成感すごいですし、ホッとしたという印象が強いです。狙った年は表彰台を外したことがなかったので、今回も何としても表彰台だけは逃さないようにと思っていたんですが、結果的に勝てた。無欲の勝利だったのかもしれません」と、レース直後のインタビューで田中は言う。「序盤はあまりにペースが速かったので、いつ千切れてやろうかなと思うくらいでした。でも周りのライバルたちも苦しそうだったし、一瞬緩んだタイミングで勝負を引き寄せられました。大雪渓を過ぎてまだ40分台だったんです。あんまり速いから自分でびっくりしました(笑)」と、新チャンピオンは付け加えている。今後はロードレースに切り替え、今週末に開催されるツール・ド・ふくしま、さらにツール・ド・おきなわと連戦するという。

2位に入ったのは富士ヒルクライム3位に続く表彰台獲得となった成田眸(mkw)。最後は猛烈に追い込む玉村を僅かに抑えての自信最高位&最高タイムだった。

出産から8ヶ月でのカムバック 佐野歩(Infinity Style)が乗鞍3勝目

三島雅世(Cycling-gym)をゴールスプリントで下した佐野歩(Infinity Style)。出産後の復帰戦で勝利した photo:So Isobe

一般女子クラスは富士ヒル女王で乗鞍2連覇がかかる三島雅世(Cycling-gym)が、序盤からハイペースで引っ張って集団を絞り込む展開。一人、また一人と集団が小さくなっていく中で、三島にただ一人くらいついたのは2022・2023年大会女王の佐野歩(Infinity Style)だった。

新旧女王のランデブーは最後の最後まで続き、ゴールスプリントでは佐野が先着して勝利。12月末に長女を出産してから僅か8ヶ月。練習期間7ヶ月で臨んだ復帰戦勝利だった。

健闘を讃え合う一般女子クラスの上位入賞メンバー photo:So Isobe
3勝目を勝ち取った佐野歩(Infinity Style) photo:So Isobe


一般女子クラス表彰台 photo:So Isobe

「めちゃくちゃ嬉しいです。8月上旬にピークを迎えてしまい、最後になんとか調子を合わせたので不安がある中での乗鞍でした。序盤は三島さんのペースが速くて、このまま行かれたら無理だ、というくらい。実際にかなりキツかったので、前に出た時は自分がしんどくないペースで引いたり、ローテを何回か飛ばしたり、駆け引きしながら辻褄を合わせました。とにかく三島さんが余裕そうだったので、なんとか脚を貯めようとしていたんです。

最後のスプリントは残り100mからでしたかね。先に三島さんがダンシングで加速したんですが、私はダンシングよりもシッティングの方がパワーが出るんです。あとはどれだけケイデンスを上げられるかの勝負でした。最後は少し余裕があって、もう一段階上げられるかな、という感じ。先行されたらキツいなと思ったので、ライン取りで少しプレッシャーをかけて前に出さないようにしたり。勝つために来ているのでキツい中で最善を尽くしました。

めっちゃキツかったですね。産後1ヶ月ちょっとで運動許可が出て、2月頭から練習を始めました。最初はとにかく体力が無いので、ベースを作ることから始めて、負荷を上げたりインターバルを入れたり。兼松さんにコーチングしてもらったのですが、まあ、今までで一番しんどかったと思います。キツかったけれど、仕事している時と違ってまとめて乗れる時間を取れたのでなんとかできた。育休をとってくれている旦那が娘の面倒を見てくれたから。娘のためにとった勝利であって、その練習時間を取れたのは、嫌な顔ひとつせずに面倒を見てくれた旦那のおかげ。支えてくれた全員に感謝したいです」。

好天に恵まれた40回目の乗鞍。3654名が標高2,716mの最高地点を目指した photo:So Isobe
乗鞍ヒルクライム2025 男子チャンピオンクラス結果
1位 田中裕士 53:46
2位 成田眸(mkw) +0:28
3位 玉村喬(天照CST) +0:29
4位 井出雄太(EMU SPEED CLUB) +0:53
5位 真鍋晃(EMU SPEED CLUB) +1:02
6位 加藤大貴(COW GUMMA) +1:19
7位 河田恭司郎(Infinity Style) +1:46
8位 金子宗平(群馬グリフィン) +2:22
9位 河合祐樹(COW GUMMA) +2:26
10位 宮崎新一(JETT) +2:33
乗鞍ヒルクライム2025 一般女子クラス結果
1位 佐野歩(Infinity Style) 1:06:27
2位 三島雅世(Cycling-gym)
3位 金子広美(三重県自転車競技連盟) +0:55
4位 石井嘉子 +1:20
5位 河田朱里(Infinity Style)
6位 和田潮里(Infinity Style) 2:41
7位 大石由美子 +3:11
8位 高橋綾(上毛レーシング) +3:46
9位 佐藤恵美 +4:24
10位 宮下朋子(TWOCYCLE) +5:13
text:So Isobe

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